世界遺産NEWS 24/05/15:エルサレム旧市街アルメニア人地区で進むユダヤ資本のホテル建設計画
イスラエルによるガザ地区への侵攻やヨルダン川西岸地区への圧力が増していますが、エルサレムでも問題が起こっています。
イスラエルは世界遺産に登録されているエルサレム旧市街の開発を巡ってたびたび問題を起こしており、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)や世界遺産委員会が何度も懸念の表明や非難決議の採択を行っていますが、ほとんど無視しています。
昨年から問題が浮上しているのが旧市街のアルメニア人地区で進むユダヤ資本によるホテル建設計画です。
これに対してアルメニア人による反対集会やデモ等が起こり、今年4月にはイスラエル警察が取り締まりを行って衝突しています。
■Armenian heritage threatened by Jerusalem hotel plan(The Art Newspaper)
今回はこのニュースをお伝えします。
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イスラエルはガザ地区やヨルダン川西岸地区への圧力を強めていますが、実はエルサレムでも同様です。
実効支配している東エルサレムはもちろん、その中心で「エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダン申請)」として世界遺産リストに登録されている旧市街でも入植や開発の計画を進めています。
一例が道路やケーブルカーの開発とそれに伴う入植計画で、予定地のパレスチナ人を追い出してインフラ開発を行う事態がしばしば起こっています。
また、アル=アクサー・モスク下のムグラビ坂の撤去に見られるように、ローマ時代やキリスト教時代、イスラム教時代の遺構の下にユダヤ教時代の遺構が眠っているため、他の時代の遺構を破壊・撤去する行為も確認されています。
これらに対してUNESCOや世界遺産委員会が懸念の表明や非難決議の採択を何度も行っていますが、ほとんど無視されている状況です。
そんな中で昨年から大きな問題に発展しているのがアルメニア人地区における開発計画です。
エルサレム旧市街はキリスト教徒地区、ユダヤ教徒地区、ムスリム地区、アルメニア人地区の4地区に分かれていますが、アルメニア人地区は旧市街の南西の1/6を占め、約2,000人が暮らしています。
アルメニアは301年に世界ではじめてキリスト教を国教にした国として知られますが、その頃からアルメニア人キリスト教徒たちがこの地で生活を行っていました。
今回の問題が浮上したのは2023年4月のことでした。
2021年にアルメニア使徒教会のエルサレム総主教であるヌルハン・マヌジアン総主教がオーストラリア系ユダヤ人実業家ダニー・ロスマン氏に同地区の土地を98年間リースするという契約を結んだたことが明らかになりました(正確には49年契約+49年更新オプション)。
驚くべきはその面積で、アルメニア人地区の約25%に当たる11,500平方メートルに及び、駐車場などとともに教会関係の土地や神学校・住宅などを含んでいました。
しかもその値段は年30万ドルと相場と比較して非常に安価に設定されていました。
これを受けてアルメニア人による抗議活動が活発化し、ブルドーザーを持ち込んで開発を進めようとするユダヤ人との間で衝突が起こり、石や棒を持った暴徒が襲撃して一帯を封鎖する事態に陥りました。
結局、アルメニア使徒教会と総主教は「だまされた」ものとしてこの契約を破棄する意向を示し、直接契約を結んだ司祭を解任し、契約無効の訴えをエルサレム地方裁判所に起こすことになりました。
これはイスラエルがよく使う入植の手法であるようで、2004年には正教会がユダヤ資本の不動産会社と長期リース契約を結んだことがありました。
教会の土地にホテルを建設する計画で、反対運動が起こると法廷闘争に発展しましたが、結局契約は認められ、最終的に不動産会社の土地になりました。
今回、契約を勝ち取ったロスマン氏のザナ・ガーデンズ社は高級ホテルの建設を予定しており、この点も同様ということになります。
一帯では一部のアルメニア人がテントを張って常駐するなど監視体制が維持されていますが、散発的な暴力事件が起きており、今年4月にはイスラエル警察が立ち入って衝突がエスカレートする事態となりました。
ロスマン氏やザナ・ガーデンズ社はこれらに対して沈黙を守っています。
「エルサレムの旧市街とその城壁群」は危機遺産リストに掲載されており、毎年状況報告が行われています。
今年7月に行われる第46回世界遺産委員会でこの件も審議される予定です。
関係者は、この地域が世界遺産の資産であることから、国際法的にも問題があると主張しています。
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