世界遺産NEWS 16/04/05:グレートバリアリーフを巡る危機
オーストラリアの世界遺産「グレートバリアリーフ」は世界最大のサンゴ礁地帯であり、生物が作り上げた地球最大の構造物といわれています。
世界遺産としても面積でベスト5に入っており、登録面積は34,870,000ヘクタールに及びます。
これは日本の総面積約37,790,000ヘクタールの92.2%にあたる数値。
すごいですね。
しかしながらこの世界遺産、20世紀後半からサンゴの白化現象や公害の被害が報告されるようになり、環境保護団体を中心に危機を叫ぶ声が高まっていました。
2011年には世界遺産委員会の場で問題が取り上げられて、オーストラリア政府に状況確認と対策を要求し、改善が見られない場合は危機遺産リストに掲載すると警告しました。
2015年の世界遺産委員会でも審議されて危機遺産入りが懸念されましたが、政府が提出した2050年までの長期保全計画や港湾・ガスプラントの建設見直しが評価されてなんとか回避されました。
しかしながら問題は継続中で、2017年の世界遺産委員会で再度審議が行われる予定です。
ところが。
このところ発表されているNOAA(アメリカ海洋大気庁)やオーストラリアの海洋学者チームの報告によると、2015~16年にかけて観察された白化現象は史上最悪規模のもので、状況はさらに悪化しているということです。
最大の原因はエルニーニョ現象による海水温の上昇です。
サンゴ礁を構成するサンゴはポリプと呼ばれる個体からなるのですが、ポリプは体内に光合成を行う褐虫藻を共生させることで栄養を得ています。
25~28度くらいでもっとも活発に活動するのですが、30度を超えるとポリプは褐虫藻を体内から吐き出してしまいます。
ポリプの色は褐虫藻によるものなので、これにより白く変色し、褐虫藻が戻らなければやがて栄養不足に陥って死んでしまいます。
NOAAの発表によると、2015年は世界の38%ものサンゴが白化したようで、史上3番目の規模にあたるということです。
当然、オーストラリアのグレートバリアリーフも大きな影響を受けています。
しかも今年はじめに日本は寒波に襲われましたが、その頃オーストラリアは熱波と干ばつに苦しんでいました。
2016年に入っても「ゴジラ・エルニーニョ」と呼ばれる観測史上最強レベルのエルニーニョ現象は収束を迎えてはおりません。
3月29日に海洋学者を中心とするオーストラリアのタスクフォースが公表した報告によると、520のサンゴ礁を調査した結果、白化が見られなかったのはたったの4か所で、グレートバリアリーフ北側のサンゴ礁の95%で白化が見られるとのこと。
これを受けて現地では「危機遺産リスト入りは免れない」「世界遺産抹消の可能性」という報道もなされています。
2013年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書によると、世界平均地上気温は1880~2012年の間に0.85度、海面から水深75m層の平均水温も10年で0.11度ずつ上昇しています。
そして2016~35年の間に世界平均地上気温は0.3~0.7度の上昇が予想されており、海水温の上昇も進むと考えられています。
こうなるともうグレートバリアリーフだけの問題ではありませんね。
ただ、グレートバリアリーフの白化にはこのようなグローバルな原因だけでなく、ローカルな原因も指摘されています。
一例がオーストラリア大陸内部や沿岸部の開発です。
サンゴの白化は淡水や土砂の流入・富栄養化などによっても進行するのですが、大陸のサトウキビ畑やブドウ畑の肥料が海洋に流れ出していることも一因とされています。
これがサンゴのポリプにストレスを与えるだけでなく、天敵であるオニヒトデを大繁殖させているようです。
しかもオニヒトデは水温の上昇にも強いため、場所によってはサンゴが一方的に食い尽くされる結果となっています。
また、鉱山開発による水質汚濁も白化の原因のひとつです。
こちらについては白化以前に海を汚しているわけですから、改善が要求されるのは当然のことでしょう。
この関係で現在もっとも懸念されているのがインドのアダニ・マイニング社によるカーマイケル炭坑・鉄道プロジェクトです。
これはカーマイケル炭坑と石炭積出港アボットポイントを開発し、その間に鉄道を通すというビッグ・プロジェクトで、2014年にオーストラリア政府が承認し、2017年の操業開始に向けて急ピッチで開発が進められています。
大きな経済効果が期待できる半面、土砂の海洋投棄や地下水の排出が予定されていることから、沖に横たわるグレートバリアリーフへの影響が懸念されています。
このため環境保護団体はこの点についてもUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)に圧力をかけています。
* * *
グレートバリアリーフの全長は約2,300kmで、北海道の知床半島から鹿児島県の大隅半島までの距離約2,000kmをはるかに超えています。
地球規模の気候変動の影響を受けるうえに、大陸の影響も受けるとあって、これを守り通すのは容易ではありません。
しかしながら観光業に与える影響を懸念して、政府としてはなんとしても危機遺産リスト入りは避けたいという意向です。
このため2050年までという長期的な改善計画を策定し、温室効果ガスの抑制などに対しても各国に協力を呼び掛けています。
開発と保護、国家と世界の間で揺れ動いているようですね。
氷河とサンゴはちょっとした気候変動でも消滅・絶滅の危機に瀕するため「地球環境のバロメーター」といわれています。
グレートバリアリーフを守ることができるか否か――
これはオーストラリア政府だけの問題ではなく、UNESCOや世界遺産、さらには世界の未来を占う重要な指標になりそうです。
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