世界遺産NEWS 20/12/14:森林火災で豪州の世界遺産・フレーザー島の半分が焼失
10月中旬からオーストラリアの世界遺産「フレーザー島」が森林火災で燃えつづけています。
11月下旬から旅行者の島への立ち入りが禁止され、200人足らずの島民の多くが島を出て避難しています。
12月に雨が降って部分的に鎮火しましたが、いまだに火災は続いており、気温も高く乾燥しており警戒は続いています。
■Australia bushfire: Fraser Island residents told to leave immediately(BBC)
今回はこのニュースをお伝えします。
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世界遺産「フレーザー島」は世界最大の砂の島で、全長122kmの島のほぼ全域がグレート・サンディ国立公園に指定されており、同時に世界遺産となっています。
250kmを超える海岸線の多くは砂浜で、オーストラリア大陸東岸に伸びるグレート・ディバイディング山脈の侵食・風化によって生まれた砂が80万年をかけて堆積して島を形成しました。
砂の上にヒース(草や低木のみが生える荒地)やユーカリの森、熱帯雨林が広がっており、砂の島ですが淡水湖もあったりします。
その特異な環境が他に類を見ない生態系を育んでおり、少なくない固有種や絶滅危惧種が生息しています。
この島で10月中旬に森林火災が発生しました。
出火したのは島中央部の西側、ブーン・ブーン川の流域で、出火原因は違法に行われていたキャンプファイヤーです。
6~11月が乾季であったことと、過去2年にわたって熱波と渇水に見舞われており、草木や枯れ木が水分を十分に含んでおらず乾燥していたことから火が燃え広がっていきました。
初期対応も問題視されており、今年9月にクイーンズランド州が導入した大型空中消火機は11月17日まで使用されませんでした。
ただ、アメリカのイエローストーン国立公園のように自然の火災は自然に任せるという方針を採っている公園もあり、グレート・サンディ国立公園がどのような方針であったかはわかりません(今回は自然の火災ではありませんが)。
11月中旬に入って被害が拡大すると本格的な消防活動が開始されました。
飛行機を使ってクイーンズランド州消防局の約100人の消防士と30台以上の消防車を送り込み、陸から消火活動を展開。
同時に、25機以上の空中消火機を投入し、100万リットルを超える水と消火剤を投下しました。
QPWS(クイーンズランド州公園・野生動物サービス)やQFES(クイーンズランド州消防緊急サービス)、地元レンジャーなども消火活動に参加して作戦を展開しています。
そして観光客の立ち入りを禁止して島を閉鎖するとともに、ハッピーヴァレーなど火が迫っている地域の住民に避難を促しました。
その結果、200人弱の島民の150人程度は島を出たようです。
12月に入って何度か大雨が降って部分的に鎮火しましたが、一部はいまなお延焼中で消火活動が続けられています。
気温も高いままで乾燥しているため、まだまだ予断を許さない状況です。
オーストラリアではここ数年、大規模な森林火災が相次いでいますが、雨季に入って火が盛り返したこともあるため警戒されています。
これまでの被害ですが、燃えたエリアの総面積は85,000haを超えています。
近郊の小島なども入れた世界遺産の資産面積が181,851ha、フレーザー島の陸域は165,500haなので、世界遺産の半分近く、島の半分以上が燃えたことになります。
被害状況の確認は今後になりますが、動植物への影響や植物が燃えたことによる砂の侵食が懸念されます。
こうした大規模な火災は気候変動による気温上昇に関係すると考えられていますが、このような火災や乾燥が続くと植物が回復できず、砂の領域が広がって環境が不可逆的に変化する可能性が懸念されています。
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昨年2019年、オーストラリアでは南岸や東岸を中心に大火災が相次いで発生し、空が暗くなる「ブラック・サマー」と呼ばれる夏を経験しました。
焼失面積は1,200万haと日本全土の約3,780万haの1/3近くに及び、被害額は36億オーストラリア・ドル(約2,800億円)と見積もられています。
死者数は33人に抑えることができましたが、心臓や呼吸器の疾患への影響は計り知れず、動物については10億匹が犠牲になったと見られています。
世界遺産に関しても「グレーター・ブルー・マウンテンズ地域」「オーストラリアのゴンドワナ雨林」「ブジ・ビムの文化的景観」「クイーンズランドの湿潤熱帯地域」などで被害が出ています。
そして今年2020年もいよいよ夏がはじまり、昨年同様の熱波と乾燥が予想されています。
シドニーの気温はすでに40度を超え、場所によっては45度近くを記録しています。
一部では史上もっとも暑い11月になったようです。
国立公園や保護区における火の使用の禁止など、これまで以上に徹底した火災の予防策が施行・予定されています。
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