世界遺産NEWS 20/01/21:山火事広がるブルー・マウンテンズで生きている化石=ウォレミマツを救出
恐竜時代に生きていたことから「ジュラシック・ツリー(ジュラ紀の木)」「ダイナソー・ツリー(恐竜の木)」の異名を持つウォレミマツ(ウォレマイ・パイン)。
絶滅したと考えられていましたが、1994年に発見されると「生きている化石」として有名になりました。
現在、オーストラリア南東部では山火事が猛威を奮っており、世界遺産に登録されているウォレミマツの原生林にも火の手が迫りましたが、ニューサウスウェールズ州政府の極秘プロジェクトにより延焼を免れたそうです。
■'Dinosaur trees': firefighters save endangered Wollemi pines from NSW bushfires(The Guardian。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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ウォレミマツは2億年以上前から生息をはじめたナンヨウスギ科の植物です。
4,000万年ほど前までオセアニアでは一般的に見られた植物でしたが、数百万年前に絶滅したと考えられていました。
しかし、1994年にオーストラリアの世界遺産「グレーター・ブルー・マウンテンズ地域」の構成資産のひとつであるウォレミ国立公園で自生している個体が発見され、公園名にちなんでウォレミマツと名づけられました。
発見当初はあまりに貴重であることからその事実が伏せられ、研究者でさえ生息地を明かされず、目隠しをしてヘリコプターでその場所に向かったといわれています。
ウォレミマツは高さ40mほどまで成長する常緑針葉樹で、ウォレミ国立公園内に3か所の原生林が発見されました。
野生で生育しているのは200本未満と見られており、IUCN(国際自然保護連合)レッドリストで絶滅寸前種に登録されています。
2006年には繁殖プログラムが開始され、シドニーの王立植物園をはじめ世界各地で育成されています。
話は変わりますが、現在、オーストラリア南東部で山火事が猛威を奮っています。
昨年11月下旬に以下の記事を書いていますが、現在でも毎日100件ほどの火災が発生しています。
■世界遺産NEWS 19/11/23:ブラジル・パンタナールとオーストラリア南東部、大火災で非常事態宣言
「グレーター・ブルー・マウンテンズ地域」はシドニー周辺の7国立公園と1保護区からなる世界遺産ですが、山火事は世界遺産内でも多発しています。
上の記事にも書きましたが、もともとこの辺りの森林はユーカリが発する「テルペン」という引火性の物質のため乾季に火災が発生しやすくなっています。
「ブルー・マウンテンズ」という名前は気化したテルペンのおかげで遠方が青味がかって見えることに由来します。
ウォレミ国立公園でも火災が発生していることは発表されていましたが、ニューサウスウェールズ州政府は15日、ゴスパーズ山付近のウォレミマツの原生林に火の手が迫ったため、国立公園局と野生生物局、消防局が連携して前例のない環境保護ミッションを遂行したことを明らかにしました。
発表によると、ミッションではヘリコプターで原生林の周囲に難燃剤を撒きつつ、州消防局の消防士が森に降下して散水装置を組み上げて原生林の水分量を増加。
火の手が迫ると地上と空から消化活動を行いました。
一部のウォレミマツは傷ついたようですが、原生林周辺の火災はほぼ鎮火され、16日には雨も降って落ち着いたということです。
ウォレミ国立公園(面積501,703ha)で起こった火災によって昨年10月から周辺部を含めて800,000ha(東京都が219,000ha、静岡県が777,700ha)という途方もない面積が焼失しており、一部はなおも延焼中です。
ガーディアンによると、ニューサウスウェールズ州では500万ha、オーストラリア全域では1,000万haが燃えたとされ、10億匹以上の動物が被害にあったということです。
こうした火災の影響でシドニー周辺では煙害や通行止めが多発しており、ブルー・マウンテンズ国立公園など多くの公園や保護区で一部の入場が規制されています。
世界遺産については「グレーター・ブルー・マウンテンズ地域」だけでなく、「オーストラリアのゴンドワナ雨林」や「ブジ・ビムの文化的景観」でも被害が確認されています。
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今回の火災で注目されている自然現象が下の火災旋風と火災積乱雲です。
同時多発的な火災がもたらす強烈な上昇気流が生む現象で、火災旋風は1923年の関東大震災でも甚大な被害をもたらしたことで知られています。
火災旋風
火災積乱雲
NASA(アメリカ航空宇宙局)が撮影した衛星写真でもオーストラリア南東部の煙害や火災積乱雲がハッキリと確認できます。
こうした火災や現象は過去最高といわれる高い気温と干魃(かんばつ)によってもたらされていますが、高温と干魃の原因はやはり気候変動と考えられています。
2019年のオーストラリアの平均気温は観測史上2番目に高く、2010~2019年の10年間は観測史上もっとも暑い10年だったことが明らかになっています。
近年オーストラリアやタスマニアではこうした火災が頻発しており、毎年恒例になると懸念する学者もいます。
今後ですが、気温はこれから下がりはじめ、降水量が増していくことから火災は少しずつ減るものと思われます。
しかしながらモリソン首相は9月から続いている火災がさらに数か月続く可能性を指摘しており、予備兵3,000人の動員を発表しています(数万の消防士に対して少なすぎると批判されています)。
心配ですね。
事態が早急に沈静化することを祈ります。
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