世界遺産NEWS 19/10/17:ポンペイで剣闘士のフレスコ画発見&炭化した巻物をX線解析へ
映画『ポンペイ』予告編
10月11日、イタリア文化省はポンペイで剣闘士(剣奴。グラディエーター)を描いたフレスコ画を発掘したと発表しました。
壁画の赤や金は色鮮やかで、ふたりの剣闘士の様子が生き生きと描き出されています。
■Vivid gladiator fresco discovered at Pompeii(Phys.org。英語)
10月上旬、イタリアやアメリカ、イギリスの国際科学チームはX線によるスキャンとAI(人工知能)による画像解析によって、ヘルクラネウムで発掘された巻物を解析する計画を明らかにしました。
出土している数千本の巻物の解読につながるもので、考古学者たちの期待を集めています。
■Ancient scrolls charred by Vesuvius could be read once again(The Guardian。英語)
今回はこれらのニュースをお伝えします。
なお、ポンペイやヘルクラネウムはイタリアの世界遺産「ポンペイ、エルコラーノ及びトッレ・アヌンツィアータの考古地域群」の構成資産に含まれています。
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西暦79年8月24日、ヴェスヴィオ山の大噴火によってポンペイやヘルクラネウム(現在のエルコラーノ)、オプロンティス(トッレ・アンヌンツィアータ)といった街は5~6mもの火砕流や火山灰に埋もれてしまいました。
ローマ帝国を揺るがす大天災でしたが、おかげでこうした街は16~18世紀に発見されるまで1,500年以上にわたって当時の姿をとどめたまま封印されました。
10月11日、イタリア文化省はポンペイで剣闘士を描いた色鮮やかなフレスコ画を発掘したことを発表しました。
「フレスコ」は壁に塗った漆喰が乾き切る前に顔料で絵を描くもので、石やガラス・貝殻・陶磁器などの破片を貼り付けて描く「モザイク」とともにローマ建築でよく見られる絵画技法です。
今回発見されたのは110×150cmほどのフレスコ画で、ワイン酒場と見られる建物の地下室へと続く階段部分に描かれていました。
上の動画にあるように、向かって左には短剣を手に持ち盾を掲げた剣闘士と、右には血を流してよろめく剣闘士が描写されています。
特に赤や金の色彩が鮮やかで、2,000年前の作品とは思えないほど生き生きとしています。
ふたりはポンペイの円形闘技場(コロッセオ)で戦っていたのでしょうか、戦いの壮絶さがうかがえます。
そういえば2014年に公開された映画『ポンペイ』でも剣闘士の戦いが描かれていました。
あれに近いことが本当に起こっていたのでしょうか?
さまざまなことを想像させます。
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ポンペイやヘルクラネウムで出土した遺物の中にはパピルスと呼ばれる植物で作られた千巻を超える巻物が含まれています。
これらの巻物には当時の記録が刻まれているわけですが、多くは熱によって真っ黒く焼け焦げてしまっています。
巻物を読み取ろうと過去、幾人もの考古学者が挑戦しましたが、炭化した巻物は非常に脆く、ボロボロに崩れたりインクが退色したりして数百巻が失われたといわれています。
現在、黒焦げの巻物であっても赤外線を照射することである程度読めるようにはなりました。
実際、崩れてしまったポンペイの巻物の一部は赤外線スキャンによって解読されています。
今回解読の計画が発表されたのは1752年にヘルクラネウムの住宅跡で発見された巻物です。
パピルス荘と呼ばれるこの住宅はカエサル(シーザー)の義父の所有と見られ、書庫からはおよそ1,840巻もの巻物が発見されています。
問題の巻物は上の動画にあるように丸まって炭化した黒い塊で、容易に崩れてしまうため開いて読むことはできません。
そこで巻物を管理しているフランス・パリの研究所は、死海近郊から出土した羊皮紙の聖書写本の解読に成功した国際科学チームに解読を依頼しました。
チームは聖書写本に対し、X線を照射してインクに含まれた金属原子と反応させることで解読しました。
ところがヘルクラネウムの巻物は丸まっているうえにほとんど金属原子を含んでいないため、従来の方法が通用しません。
そのためチームはイギリスにある粒子加速器を利用して太陽より数段明るい高エネルギーX線を作り出し、CTスキャンのように巻物の3次元スキャンを行う手法を確立しました。
そして撮影された画像をAIに学習させながら解析することで、わずか0.1mmにすぎない巻物の層ごとに人間の目には捉えられない微妙な明暗を判別して文字を浮かび上がらせることに成功しました。
今後、こうした新手法を活用して2巻の巻物と4点の破片を解析する予定です。
成功すれば数千巻に及ぶポンペイと近郊の巻物の解読につながるはずで、ローマ史の研究が飛躍的に進展することになりそうです。
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