世界遺産NEWS 18/05/03:小笠原諸島の空港建設計画に対してIUCNが懸念

1968年6月26日、小笠原諸島はアメリカから返還され、日本の統治下に戻りました。

今年2018年に返還50周年を迎えるわけですが、今年中、早ければ6月の記念式典の前に空港の建設計画の方向性が示されるようです。

これに対して世界遺産委員会の諮問機関のひとつで自然遺産の調査や評価を行っているIUCN(国際自然保護連合)は懸念を表明したということです。

 

空港建設は「潜在的脅威」 IUCNが懸念(毎日新聞)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

「小笠原諸島」は東京都に属しますが都心の南約1,000kmに位置し、ヨーロッパの主要都市はもちろん、下手をしたら中南米やアフリカの都市よりも行くのに時間が掛かる世界遺産です。

 

現在、定期的な交通手段は東京・浜松町に近い竹芝桟橋から出ている週1便の「おがさわら丸」に限られており、小笠原諸島の父島・二見港まで24時間掛かるうえに、おがさわら丸はそのまま3泊停泊するので最短でも5泊6日必要で、その便を逃すと次は1週間後ということになってしまいます。

これ以外にクルーズ船によるツアーなども催行されていますが、船を使用するため時間が掛かることに変わりはありません。

住民も気軽に「ちょっと本土へ」というわけにもいかないため以前から対策が求められていました。

 

1991年、小笠原諸島への空港設置が空港整備計画に採択され、その後、父島の時雨山に設置することなどが決まりました。

しかしこの計画は環境保護の点などから2001年に撤回されています。

 

同時期に「海の新幹線」と呼ばれる水上浮上型超高速船・テクノスーパーライナーの導入が決定し、115億円をかけてテクノスーパーライナーおがさわらが建造されました。

ところがこの船を運用した場合、年間30億円の赤字が見込まれたことから就航は断念され、一度も定期航行することなく2017年に解体が完了しています。

 

空港の建設計画が復活したのは2016年頃であるようです。

この年の8月に就任した小池知事は小笠原諸島を視察して空港建設に言及し、前向きに検討することを表明。

当時の環境相である丸川珠代氏も協力を約束しています。

 

2017年7月には東京都や小笠原村が7年ぶりに小笠原航空路協議会を開催。

空港の設置場所も議題のひとつでしたが、海上フローティング型の空港や短距離離着陸機(STOL機)を採用した800m級の短距離滑走路の建設、兄島や硫黄島など周辺の島々への建設等は環境・予算・技術・距離的な問題から現実的ではないとされ、父島・洲崎地区の洲崎飛行場跡地を軸に進めることを確認しました。

 

この案によると建設されるのは定員50人ほどのプロペラ機が離着陸できる全長約1,200mの滑走路なのですが、近郊の山を80mほど削る必要があるということで、この点が課題とされました。

これが実現した場合、東京と父島が2~3時間で結ばれることになります。

洲崎飛行場跡地は父島の↓辺りだと思われます

2018年1~2月、小笠原村の森下村長は国と都に対し、できれば返還50周年の式典が行われる6月までに方向性を示すよう要請し、小池知事に対して式典への出席と建設支持を訴えています。

3月には小笠原諸島管理計画が刷新されていますが、空港について「小笠原航空路協議会における議論に合わせて事前に厳格な環境影響評価を行うほか、環境に配慮した取組を徹底する」と記されています。

 

上の毎日新聞の記事によると、こうした動きに対してIUCNは空港が環境に対する潜在的な脅威であるとの見解を示しています。

洲崎地区は世界遺産の資産(プロティ。登録範囲)に含まれておらず、国立公園でもありません。

しかし、近年世界遺産委員会や諮問機関であるIUCN、ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は資産に影響を与える周辺地域の保護にもしばしば言及しており、上の記事の中でも「世界遺産区域の内外に関わらず、遺産の価値が維持されない開発は許されない。新たな変化に関し、世界遺産委員会に注意を促すこともある」と述べています。

 

世界遺産の顕著な普遍的価値が失われた場合は「登録そのものに影響しかねない」とし、計画を進める前に環境アセスメントの実施を求め、場合によっては開発から撤退することも検討すべきとしています。

詳細は上のリンクの記事を読んでみてください。

 

* * *

 

関係者は洲崎地区を「最後の候補地」として空港建設計画を進めているようです。

現地の意見は二分されているようで、医療など福祉や観光振興の点から賛成する人がいる一方で、環境破壊が不可逆的である点や、アクセスの悪さや秘境性もひとつの魅力であるとして反対に回る島民も少なくないようです。

 

いずれにせよ今年中に方向性を決めたいということなので、近々に結論が出るのかもしれません。

どのような結論であれ、十分でオープンな議論が行われることを期待します。

 

 

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