世界遺産NEWS 17/07/21:沖ノ島、女人禁制から全面上陸禁止へ
この7月に世界遺産リストへの登録が決まった日本の21件目の世界遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の沖ノ島。
島自体がご神体で、現在も女人禁制、男性であっても年に一度、5月27日の大祭に抽選で選ばれた約200人のみが上陸を認められる聖域中の聖域です。
しかしながら宗像大社は7月中旬、来年以降の大祭を取りやめ、基本的に神職の上陸しか認めない方針を発表しました。
これにより研究等の例外を除き、沖ノ島は観光客に対して全面非開放になるようです。
今回はこのニュースをお伝えします。
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まずは世界遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の確認をしておきましょう。
■構成資産8件
- 沖ノ島(宗像大社沖津宮)
- 小屋島(沖ノ島周辺の岩礁)
- 御門柱(沖ノ島周辺の岩礁)
- 天狗岩(沖ノ島周辺の岩礁)
- 宗像大社中津宮(大島)
- 沖津宮遙拝所(大島)
- 宗像大社辺津宮(九州本島)
- 新原・奴山古墳群(九州本島)
構成資産は上の8件で、九州本島の宗像大社・辺津宮-大島の中津宮-沖ノ島の沖津宮の三島三宮を結ぶ直線を中心とした広大な信仰空間を登録するものです。
三宮にはそれぞれ市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)、湍津姫神(たぎつひめのかみ)、田心姫神(たごりひめのかみ)のいわゆる宗像3女神が祀られており、新原・奴山古墳群は三宮を長年管理してきた宗像氏の古墳群、沖ノ島周辺の3つの岩礁は沖ノ島の鳥居の機能を果たすものとなっています。
沖ノ島は8万点を超える宝物が出土していることから「海の正倉院」の異名を持つわけですが、これは4~9世紀に聖なる島として祀られていたことに由来します。
この島は日本と中国・朝鮮半島を結ぶ海の道の要衝であることから重要視され、やがて国家が主導してさまざまな祭祀が行われるようになりました。
この海の道を守護・管理していたのが宗像氏で、また宗像3女神は道主貴(みちぬしのむち)と呼ばれる道の神様でもあることから、両者が一体となった信仰に発展したと考えられています。
中世のある時期から沖ノ島は島全体がご神体と考えられるようになり、「お言わずさま」で知られるように島について語ることさえタブーとされ、上陸は神職に限られるようになりました。
大島に設けられた沖津宮遙拝所は、上陸する代わりにここから遙拝(離れた場所から拝むこと)するための施設です。
1905年5月27日に沖ノ島近海で日露戦争の日本海海戦が起こって以来、宗像大社は辺津宮で戦没者の慰霊祭を行ってきましたが、1958年以降は沖ノ島の沖津宮で大祭として開催するようになりました。
ですから大祭自体はそれほど歴史があるわけでも、古代信仰や宗像三女神に関わるわけでもないわけです。
そしてこの物件は2016年1~2月にUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)に推薦され、文化遺産の調査・評価を行っているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)から登録勧告を受けたわけですが、構成資産8件のうち沖ノ島と周辺の岩礁以外の4件を除外するという条件付きでした。
しかしこの7月、世界遺産委員会でこれを逆転して8件一体での登録が決まりました。
実は、ICOMOSの提言には、不法上陸を防いで信仰空間を守るための施策が必要であることも記されています。
本来、世界遺産は不動産を守る活動ですから、対象の自然や建物が保護・保全できればよいのであって、上陸云々を問題とする必要はない気もします。
しかし、形を守るだけでは文化は守れず、文化の喪失はやがて形の消失につながります。
こうした問題は中国の「麗江旧市街」をはじめさまざまな世界遺産で顕在化していますから、そうしたこともふまえての提言なのだろうと思います。
7月中旬、宗像大社はより厳格に資産を保護・保全するために、2018年から沖ノ島での大祭を中止し、原則として神職や研究者以外の上陸を禁止する方針を発表しました。
慰霊祭は辺津宮など別の場所での開催を検討するということです。
また、沖ノ島は宗像大社の私有地で公的な取り締まりが行われていないため、宗像市は条例の制定も検討するとしています。
その代わりということではないでしょうけれど、大島に7月15日、大島交流館が開館しています。
大島の構成資産である中津宮と沖津宮遙拝所とともに、沖ノ島の歴史を紹介する内容になっているようです。
なお、沖ノ島から出土した宝物の一部は辺津宮・神宝館で見学することができます。
世界遺産になったのに訪ねることができないということで一部で議論が活発化したようですが、そもそも世界遺産の多くは見学できません。
たとえば「富岡製糸場と絹産業遺産群」の富岡製糸場で見学できるのは東置繭所や繰糸場の一部で、敷地の多くは非公開か期間限定公開になっています。
「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」でも、富士山では登山道以外の通行は認められていませんし、火口内部や吉田胎内樹型、人穴富士講遺跡、小佐野家住宅など非公開の構成資産がたくさん含まれているうえ、公開されているものでも多くはそのごく一部です。
自然遺産の公開はさらに限定されているのが一般的で、「白神山地」に至っては個人やツアー等で気軽に訪れることができるのは世界遺産の資産外で、内部に入るためには特別な許可が必要です。
公開されていると思っていても、実はほんの一部にすぎないものなのですね。
ちなみに、海外には観光客の上陸が禁止されている世界遺産の島はいくつかあって、アイスランドの「スルツエイ」、オーストラリアの「マッコーリー島」や「ハード島とマクドナルド諸島」、アメリカの「パパハナウモクアケア」、コスタリカの「ココ島国立公園」などが挙げられます。
これらはいずれも生態系や地形の保護を目的としています。
女人禁制の寺院はたくさんありますが、資産がほぼ全面的に女人禁制となっている世界遺産としてはギリシアの「アトス山」が挙げられます。
アトス山は事実上の自治国家で、事前に巡礼許可を得た男性のみが入山できるのですが、許可は正教徒を中心に毎日数名のみととても厳しいものになっています。
なお、非開放の世界遺産については下にリンクした「旅行者が立ち入ることのできない非開放の世界遺産」を参照ください(ぼくの記事で、登録は無料です)。
沖ノ島関係のニュースですが、現在、東京の日本橋で写真展「沖ノ島 神宿る海の正倉院」が開催されています。
カメラマン・藤原新也さんが撮影した沖ノ島の写真約70点を展示しているということなので、この機会に訪ねてみてはいかがでしょうか。
■開催概要
藤原新也写真展「沖ノ島 神宿る海の正倉院」
会場:日本橋高島屋 8階ホール
期間:7月19日~8月1日
時間:10:30~19:30(一部例外あり。入場は閉館30分前まで)
入場料:一般800円、高校生・大学生600円、中学生以下無料
[関連記事&サイト]
世界遺産NEWS 17/05/27:8資産一括登録を目指す宗像・沖ノ島の不安(より以前の記事へリンクあり)