世界遺産NEWS 13/06/24:2014年の世界遺産候補地リスト
2013年も第37回世界遺産委員会で新しい世界遺産が出そろいましたね!
結局19件の新登録で、世界遺産は総計981件となりました。
2014年にはおそらく1,000件を超えるでしょう。
いやー、ここまで来たか。
少し気が早いですが、2014年の第38回世界遺産委員会で世界遺産登録を目指す物件のリストを紹介しておきましょう。
日本からは群馬県の産業遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」がエントリーしています!
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2014年新登録の世界遺産(All About「世界遺産」記事。2014年に登録された世界遺産の全リスト&解説、危機遺産の変更点等はこちらへ)
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世界遺産に物件を登録するためには、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに推薦書を送らなければなりません。
2014年の物件については2013年2月1日が〆切で、本リストはその時点で立候補の表明があった物件ということになります(UNESCO, "WHC-13/37.COM/INF.8B3"より)。
今年の夏~秋にかけて、文化遺産についてはICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産についてはIUCN(国際自然保護連合)、複合遺産は両組織が現地視察を含めた調査を行い、来年春に報告書を発表します。
その報告書を参考に、第38回世界遺産委員会で世界遺産リストへの記載の可否が決定されます。
現状、世界遺産候補は全部で49件(拡大6件含)。
そのうち文化遺産37件(拡大2件)、自然遺産9件(拡大3件)、複合遺産3件(拡大1件)です。
かなり多いですが、準備が整わない物件は推薦を取り下げることになるので、実際の審議物件はこれより少なくなるはずです。
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注目の世界遺産候補を少し紹介しておきましょう。
まずは「道の遺産」。
以前から注目されていたシルクロード2件とインカ道がエントリーしています。
「道」は人の移動と同時に文化の移動・集積を可能にし、文明の発展に大きく寄与します。
文明が森林地帯よりも砂漠地帯で発達しやすい理由も、この「道」にあるのでしょう。
シルクロードは遊牧民のキャラバンを中心とした東西貿易の舞台、インカ道はインカ帝国が整備した総計4万kmに及ぶ道路網。
いずれも文化交流のみならず、政治・経済の在り方を大きく変えました。
シルクロードは2件の推薦で計5か国、インカ道は6か国による共同推薦で、3件とも複数国で推薦を行うトランス・パウンダリー・サイト。
また、広範囲な地域からさまざまな物件を登録するシリアル・ノミネーションによる遺産です。
非常に意義深い物件ではありますが、複数国で範囲も広いので、保護・保全体制の整備が課題かと思われます。
なお、これまで「道」に焦点を当てた世界遺産には「紀伊山地の霊場と参詣道(日本)」「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(スペイン)」「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(フランス)」「ティエラアデントロの王の道(メキシコ)」「香料の道-ネゲヴ砂漠都市(イスラエル)」「フランキンセンス[乳香]の国土(オマーン)」「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路(パレスチナ)」があります。
ある意味「道」といえるのが中国推薦の「京杭大運河」です。
これがまたケタ外れの物件で、その名も「万里の長城」の "The Great Wall" に対抗するように "The Grand Canal"。
わかりにくいかと思って「京杭大運河」と書きましたが、運河の中の運河といえばこれしかないのだという意味で「大運河」と訳す方がよいのかもしれません。
この運河の建設がはじまったのは7世紀。
中国は「南船北馬」といわれるように南と北で気候・文化が大きく異なるのですが、隋の文帝や煬帝は南北を政治的・経済的に統一するために、黄河と長江をつなぐこの運河の建設を進めました。
以後、元のフビライや清の乾隆帝をはじめ時代時代に整備が進められ、その総延長はなんと2,500km。
一部は現在も使われているという「水の道」です。
道関連以外では、子供の頃、その存在を知ってワクワクしていた「ディキスの石球」を含む遺跡も候補物件に入っています。
当時は「石をこんなに真ん丸に切り出すのは不可能」とされ、「オーパーツ」(その時代に存在するとは考えられない遺物)とか「ロスト・テクノロジー」(現在でも再現できない失われた超技術)とかいわれて話題になりました。
今回の推薦名称は「ディキスの石球のあるプレ・コロンビア期の居住地」(コスタリカ)です。
子供の頃から行くことを夢見ていたといえば自然遺産の「オカバンゴ・デルタ」(ボツワナ)。
オカバンゴ川のデルタ地帯という意味なのですが、実はこの川、海に注いでいるわけではありません。
アンゴラ高原に降った雨はオカバンゴ川となって約1,000kmを旅し、行き着くのがカラハリ砂漠のデルタ地帯。
そして海に出ることなく砂漠の中で蒸発してしまいます。
カラハリ砂漠は超乾燥地帯ですから、この水が動植物にとって非常に貴重なものになっています。
実際見て「こりゃスゲー」と思ったのがインドの階段井戸。
今回はラーニキ・ヴァヴが候補になっていますが、インドにはチャンド・バオリやアダラジ・ヴァヴをはじめ、すさまじい井戸がたくさんあります。
どうせなら一括登録できないのかなー。
Google画像検索結果はこちら→ラーニキ・ヴァヴ、チャンド・バオリ、アダラジ・ヴァヴ
おもしろい登録の仕方をするなーと思うのがベトナムの「チャンアン景観地帯」「カット・バ群島」。
このふたつ、すでに世界遺産登録されている「ハロン湾」のすぐ近くにあって似たようた奇岩群が広がっているのですが、それを別の世界遺産として2つも候補に挙げています。
あとは、ミャンマーが初登録に挑戦(以前バガンを推薦して失敗したことはあります)。
このところ急速に登録数を伸ばしている中国、イランは来年も2件ずつ推薦しています。
1996年からたった1件の世界遺産しか登録していないアメリカが、2010年登録の「パパハナウモクアケア」に続いて先住民関係の物件をエントリー。
ショーヴェ(フランス)やペルガモン(トルコ)、スーサ(イラン)といった世界史の教科書に載る著名な遺跡がある一方で、ファン・ネレ工場(オランダ)、富岡製糸場(日本)、ピエモンテのブドウ園(フランス)、アニャナ製塩所(スペイン)といった近代の産業遺産・文化的景観もリストに載っています。
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では、2014年の世界遺産候補全49件のリストです。
日本語名は私が適当に訳したものです。
勘違い等あるかもしれませんが、ご容赦ください。
正式な推薦名称は英語の表記になります。
今後推薦を取り下げる物件も出てくるはずですし、世界遺産に登録される際に登録名や登録基準が変更されることもあります。
★2014年に世界遺産登録を目指す物件一覧表
<文化遺産37件(拡大2件含)>
■ユダヤ低地の洞窟世界マレシャとベト・グヴリン
Caves of Maresha and Bet-Guvrin in the Judean Lowlands as a Microcosm of the Land of the Caves
イスラエル、文化遺産(v)
■ピエモンテのブドウ園景観:ランゲ・ロエロとモンフェッラート
Vineyard Landscape of Piedmont: Langhe-Roero and Monferrato
イタリア、文化遺産(iii)(v)
■バフチサライにあるクリミア・ハンの首都の歴史的環境
Historic environment of the Crimean Khans' capital in the city of Bakhchsaray
ウクライナ、文化遺産(iii)(v)(vi)
■ファン・ネレ工場
Van Nellefabriek
オランダ、文化遺産(i)(ii)(iv)
■ゲラティ修道院(「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院」の拡大)
Gelati Monastery [Extension of "Bagrati Cathedral and Gelati Monastery"]
ジョージア、文化遺産(iv)
■アニャナの塩の谷の文化的景観
Cultural Landscape of Valle Salado de Anana
スペイン、文化遺産(iii)(iv)(v)
■ハエン大聖堂(「ウベダとバエーサのルネサンス様式の記念碑的建造物群」の拡大)
Jaen Cathedral [Extension of the "Renaissance Monumental Ensemble of Ubeda and Baeza"]
スペイン、文化遺産(ii)(iv)
■モラヴィア王国の遺跡群:ミクルチツェにあるスラブ人防御地と、コプカニにあるアンティオキアのマルガリータ教会
Sites of Great Moravia: The Slavonic Fortified Settlement at Mikulcice and the Church of St Margaret of Antioch at Kopcany
スロバキア/チェコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)(vi)
■コルヴァイのカロリング式ウエスト・ワーク
Carolingian Westwork and Civitas Corvey
ドイツ、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■ブルサとジュマルクズク:オスマン誕生の地
Bursa and Cumalikizik: the Birth of the Ottoman Empire
トルコ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)
■ペルガモンとその多層文化の景観
Pergamon and its Multi-Layered Cultural Landscape
トルコ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)
■ポン・ダルクのショーヴェ洞窟
Grotte ornee Chauvet-Pont d'Arc
フランス、文化遺産(i)(iii)
■ロシアのクレムリン
Russian Kremlins
ロシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■ホール・ドバイ[ドバイ・クリーク]
Khor Dubai (Dubai Creek)
アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(v)
■エルビル城砦
Erbil Citadel
イラク、文化遺産(iii)(iv)(v)
■スーサ
Susa
イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■シャフリ・ソフタ
Sharhr-I Sokhta
イラン、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■グジャラート州パタンにあるラーニキ・ヴァヴ[女王の階段井戸]
Rani-ki-Vav (The Queen's Stepwell) at Patan, Gujarat
インド、文化遺産(i)(iii)
■ハイデラバードのクトゥブ・シャーヒー朝記念物群:ゴールコンダ城、クトゥブ・シャーヒー朝陵墓群、チャールミナール
Qutb Shahi Monuments of Hyderabad: Golconda Fort, Qutb Shahi Tombs, Charminar
インド、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■トラジャ族の伝統集落
Toraja Traditional Settlements
インドネシア、文化遺産(iv)(v)(vi)
■古代都市テルメズ
Ancient Termez
ウズベキスタン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)
■シルクロード:ペンジケント-サマルカンド-パイケンドの回廊
Silk Roads: Penjikent-Samarkand-Poykent Corridor
ウズベキスタン/タジキスタン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)(vi)
■歴史都市ジッダ、メッカへのゲート
Historic Jeddah, the Gate to Makkah
サウジアラビア、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■シルクロード:シルクロードの始点、天山回廊の道路網
Silk Roads: Initial Section of the Silk Roads, the Routes Network of Tian-shan Corridor
カザフスタン/キルギス/中国、文化遺産(ii)(iii)(v)(vi)
■南漢山城
Namhansanseong
韓国、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■京杭大運河
The Grand Canal
中国、文化遺産(i)(iii)(iv)(vi)
■富岡製糸場と絹産業遺産群
Tomioka Silk Mill and Related Sites
日本、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■ピュー王朝の古代都市
Pyu Ancient Cities
ミャンマー、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■ヨルダンの果ての地ベタニアの洗礼地[マグタス]
Baptism Site "Bethany Beyond the Jordan" (Al-Maghtas)
ヨルダン、文化遺産(iii)(vi)
■大ブルカン・カルドゥン山と周辺の聖なる景観
Great Burkhan Khaldun Mountain and its Surrounding Sacred Landscape
モンゴル、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)(vi)
■ポバティー・ポイントの土木記念物
Monumental Earthworks of Poverty Point
アメリカ、文化遺産(iii)
■アンデス道路網、カパック・ニャン[インカ道]
Qhapaq Nan, Andean Road System
アルゼンチン/エクアドル/コロンビア/チリ/ペルー/ボリビア、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi)
■ディキスの石球のあるプレ・コロンビア期の居住地
Precolumbian chiefdom settlements with stone spheres of the Diquis
コスタリカ、文化遺産(i)(iii)
■トンゴ-テンツク、タレンシ族の文化的景観
Tongo-Tengzuk Tallensi Cultural Landscape
ガーナ、文化遺産(v)(vi)
■ティムリカ・オヒンガの文化的景観
Thimlich Ohinga Cultural Landscape
ケニヤ、文化遺産(iii)(iv)
■バロツェの文化的景観
Barotse Cultural Landscape
ザンビア、文化遺産(iii)(iv)(vi)
■ムランジェ山の文化的景観
Mount Mulanje Cultural Landscape
マラウイ、文化遺産(iv)(v)(vi)
<自然遺産9件(拡大3件含)>
■スティーブンス・クリント
Stevns Klint
デンマーク、自然遺産(viii)
■ワッデン海(「ワッデン海」の拡大)
Wadden Sea [Extension of the "Wadden Sea"]
デンマーク/ドイツ、自然遺産(viii)(ix)(x)
■リマーニュ盆地のピュイ火山群の火山構造体
Ensemble tectono-volcanique de la Chaine des Puys et de la faille de Limagne
フランス、自然遺産(vii)(viii)
■ビャウォヴィエジャの森(「ベラヴェシュスカヤ・プーシャ/ビャウォヴィエジャの森」の拡大)
Bialowieza Forest [extension and renomination of "Belovezhskaya Pushcha / Biarowieza Forest"]
ポーランド/ベラルーシ、自然遺産(ix)(x)
■ダウリアの景観
Landscapes of Dauria
ロシア/モンゴル、自然遺産(ix)(x)
■中国南部カルスト(「中国南部カルスト」の拡大)
South China Karst (Phase II) [Extension of the "South China Karst"]
中国、自然遺産(vii)(viii)
■カット・バ群島
Cat Ba Archipelago
ベトナム、自然遺産(ix)(x)
■サンガネブとドンゴナーブの湾-ムカワル島海洋自然公園
Sanganeb and Dungonab Bay - Mukkawar Island Marine National Parks
スーダン、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)
■オカバンゴ・デルタ
Okavango Delta
ボツワナ、自然遺産(vii)(ix)(x)
<複合遺産3件(拡大1件含)>
■アラビダ
Arrabida
ポルトガル、複合遺産(iv)(vi)(vii)(viii)(ix)(x)
■チャンアン景観地帯
Trang An Landscape Complex
ベトナム、複合遺産(v)(vii)(viii)
■カンペチェ州、カラクムルの古代マヤ都市と熱帯林保護区(「カンペチェ州、カラクムルの古代マヤ都市」の拡大)
Ancient Maya City and Protected Tropical Forests of Calakmul, Campeche [renomination and extension of the "Ancient Maya City of Calakmul, Campeche"]
メキシコ、複合遺産(i)(ii)(iii)(iv)(vi)(ix)(x)
2014年春になったらICOMOS、IUCNの勧告状況をご報告する予定です。
楽しみですね。
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