世界遺産NEWS 20/09/14:台風の影響で軍艦島のビルや施設が破損
世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産のひとつである端島(はしま)、通称・軍艦島。
先日の台風9号・10号の影響で軍艦島の一部のビルや施設で被害が出ています。
■軍艦島「30号棟」一部崩落 台風10号 世界遺産、史跡に爪痕(長崎新聞)
軍艦島の保全が難しいことは世界遺産登録時から懸念されていました。
こうした災害によって改めて対応方法が問われています。
今回はこのニュースをお伝えします。
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9月2日、台風9号メイサークが長崎県の五島列島沖を北上し、長崎県が暴風域に入りました。
五島市では最大瞬間風速44.8m/sを記録し、被害が報告されています。
4日に軍艦島の被害状況を調査した長崎市は、島を囲むコンクリート製の護岸のうち西側上部の幅約10m・高さ約4mが崩落し、護岸の内側の石積みが剥き出しになっているのを発見しました。
また、転落防止柵の一部が破損し、ドルフィン桟橋の防舷材3基が流出していました。
9月7日には台風10号ハイシェンが五島列島を通過し、九州の多くが暴風域に入りました。
軍艦島の南の野母崎では最大瞬間風速59.4m/sを記録しました。
やはり長崎市の調査が入ったのですが、以前から倒壊が懸念されていた日本初の鉄筋コンクリート(RC)造の高層アパート建築である30号棟で崩落が確認されました。
下の写真、中央奥が7階建ての30号棟です。
この写真と上の動画を比べると30号棟の中央やや右が縦に崩れているのが確認できます。
実は崩落の大部分は6月中旬の大雨によるもので、南側4~7階、西側6~7階の外壁や床などが崩れました。
その後も崩落が進み、今回3~4階が崩落してこのような形になりました。
倒壊の可能性ですが、記事にあるように長崎市の世界遺産室は「現時点で建物全体に大きな傾きはなく、倒壊に至る状況ではない」と応えています。
また、30号棟以外にも石炭の貯蔵施設につながる貯炭ベルトコンベアの支柱の一部が破損しています。
長崎県では他にも世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の大浦天主堂や外海の出津集落の旧出津救助院で瓦が吹き飛ぶなどの被害を出しています。
次の大雨や台風までに修復する必要があり、自治体は対応に追われています。
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観光客の上陸施設であるドルフィン桟橋が破損していることから現在軍艦島のツアーは停止されており、修復が進められています。
コンクリート製の護岸や転落防止柵も修復される予定ですが、30号棟については修復不可能と考えられています。
30号棟は以前から倒壊の危険が指摘されており、その危険性から内部へ立ち入ることができず、補修工事もできていません。
実際長崎市も30号棟を保全対象に指定していません。
そもそも30号棟は1916年の竣工で、築100年を超えています。
RC造の法定耐用年数(資産価値が0になるまでの年数)は47年、メンテナンスを行った場合の耐用年数は100~150年前後といわれていますが、30号棟はつねに潮風にさらされており、長年廃墟として打ち捨てられていてメンテナンスもされていませんから、倒壊は不可避と考えられています。
日本初のRC造高層アパート建築であるのに非常に残念です。
しかし、軍艦島には大正年間(1912~26年)に築かれたRC造が7棟、太平洋戦争の戦前戦中(1926~45年)に築かれたRC造が7棟あり、いずれも築70年以上が経過しています。
これらのビルでも損傷が進んでおり、一部は倒壊の危険があるといわれています。
ただ、損傷具合の特定は非常に難しく、実際の状態はほとんど確認できません。
RC造は鉄筋をコンクリートで覆っているわけですが、鉄筋の腐食具合は実際に壊して確認するしかないからです。
これが完成されている建造物であれば伝統的な素材や工法等を用いて本来の形状に修復することが可能です。
大浦天主堂の瓦が飛ばされても、当時と同じ素材・工法・形状の瓦に取り替えれば世界遺産としての顕著な普遍的価値は維持されると考えられています。
しかし、軍艦島や「原爆ドーム」のように使用や破壊の跡に価値がある物件の場合、そのような修復は行えません。
廃墟を廃墟のまま留める必要があるわけですが、これがきわめて難題です。
原爆ドームでは地面から切り離す免震システムやドームで覆う室内化が提案されたこともありますが、世界遺産では景観や地盤も資産を構成する重要な要素と考えられていますし、そこまでやっても劣化は進むことから抜本的な解決にはなりそうもありません。
これらは海外の世界遺産でも問題になっており、世界遺産を貫くひとつの課題となっています。
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