世界遺産NEWS 18/01/31:カルメル山でユーラシア最古の現生人類の化石発見
この1月、イスラエル・テルアビブ大学の古人類学チームは科学雑誌『サイエンス』誌上で、同国のカルメル山で発掘した現生人類の化石が194,000~177,000年前のものであることを発表しました。
これはアフリカ以外で発見された同種の化石としては圧倒的に古いもので、現生人類の誕生や出アフリカの時期が大幅に前倒しされることになるかもしれません。
■Oldest Human Fossil Outside Africa Discovered(National Geographic)
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
初期人類に関する研究は近年目覚ましい成果を上げていて、さまざまな仮説が提唱されているため追跡するのも難しいくらいです。
おおまかに「猿人→原人→旧人→新人」という進化の流れは聞いたことがあるかと思いますが、古くはジャワ原人や北京原人が旧人であるネアンデルタール人に進化し、現生人類になったと考えられていました。
しかし、現在ではユーラシア大陸で発見された原人や旧人はすべて絶滅し、現生人類にほとんど血がつながっていないことが明らかになっています。
では、ぼくたちいつどこから来たのでしょうか?
この問いに対しては、ミトコンドリアやY染色体の遺伝子に関する研究が明らかにしています。
ミトコンドリアは細胞の核に含まれる小器官なのですが、ミトコンドリアDNAは母親のものが子供に引き継がれる特徴があります。
これを調べることで母の母の母の……と辿ることができるのですが、この結果、全人類が20万~10万年前に生きたひとりの女性=ミトコンドリア・イヴの遺伝子を引き継いでいることがわかりました。
また、人は父親のY染色体を引き継ぐと男性(XY)になり、引き継がないと女性(XX)になります。
男性のY染色体を調べると父の父の父の……と辿ることができるのですが、すべての男性が30万~10万年前に生きたひとりの男性=Y染色体・アダムの遺伝子を引き継いでいることが判明しました。
こうした研究成果から、人類は各地の原人や旧人がそれぞれ進化して現在の人種に分かれたのではなく、アフリカにいた共通の祖先が世界各地に広まったというアフリカ単一起源説が強く支持されるようになりました。
なお、「現生人類」という言葉はさまざまな意味で使われますが、ここではヒト属ヒトのホモ・サピエンス、亜種名まで入れるとホモ・サピエンス・サピエンスのことを表現しています。
旧人のネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)やデニソワ人(ホモ・デニソワあるいはホモ・アルタイエンシス)とは異なります。
ホモ・サピエンス・サピエンスの直接の祖先と考えられているのがヘルト人(ホモ・サピエンス・イダルトゥ)で、1997年にエチオピアのアワッシュ川流域で16万年前の化石が発見されています。
* * *
さて、今回の発見です。
問題の化石はイスラエルのカルメル山腹に位置するミスリヤ洞窟で発掘されました。
カルメル山には多くの洞窟があり、一部は「人類の進化を示すカルメル山の遺跡:ナハル・メアロット/ワディ・エルムガーラ渓谷の洞窟群」として世界遺産リストに登録されています。
この洞窟群の特徴は約50万年という非常に長い期間にわたる初期人類の化石が発見されている点で、人類の進化史の究明に大きな役割を果たしています。
残念ながらミスリヤ洞窟はバッファーゾーンに入っているだけで世界遺産には登録されていませんが、将来的には拡大登録を目指しているようです。
発見された化石は上顎と歯ですが、その形状からネアンデルタール人のものではなく、より現生人類に近いホモ・サピエンスのものと考えられています。
年代については4種類の年代測定法で調査した結果、194,000~177,000年前のものと推定されています。
これは先に書いた現生人類の直接の祖先であるヘルト人より古いものですから驚くべき結果です。
定説では、現生人類は約20万年前に登場し、12万年ほど前から断続的にアフリカを出はじめて、6万~5万年ほど前に大規模な移動を行ったとしていますが、これらが覆されるかもしれません。
また、ネアンデルタール人の絶滅は3万~2万年ほど前と考えられていますから、現生人類は20万年ほど前から長きにわたって彼らと共存していたのかもしれません。
近年、アフリカのサハラ以南の民族を除き、わずかではありますがほぼすべての人類がネアンデルタール人の遺伝子を持つという研究結果も発表されています。
同様に、デニソワ人の遺伝子も発見されていますから、現生人類は想像以上にダイナミックに旧人たちと共生・交配していたのかもしれません。
また、昨年6月にはトルコのジェベル・イルード鉱山で現生人類のものと思われる下顎骨と頭蓋骨の化石が発見されています。
年代は約286,000年前と、これまで考えられていた現生人類の誕生よりはるかに古いものです。
ネアンデルタール人の特徴も有しているようで、彼らが現生人類に分類されるのか、旧人に含まれるのかは今後の研究次第であるようです。
いやー、おもいろいですね。
数年後には本当に教科書が書き換わっているかもしれません。
[関連記事&サイト]
世界遺産NEWS 21/09/11:カナダのバージェス頁岩地帯で5億年前の巨大新生物を発見
世界遺産NEWS 20/01/21:山火事広がるブルー・マウンテンズで生きている化石=ウォレミマツを救出
世界遺産NEWS 19/12/22:ワディ・アル=ヒタンでクジラの祖先の新種を発見
世界遺産NEWS 18/02/24:ネアンデルタール人が描いた最古の洞窟壁画発見か
世界遺産NEWS 15/06/30:古代生物ハルキゲニアの復元像が修正へ