世界遺産NEWS 18/03/12:慶州・仏国寺で進むマンション建設計画
日本の奈良市と姉妹都市である韓国の慶州市は奈良と同様、古代から中世に至る数多くの文化財が遺されていることで知られています。
世界遺産としては「慶州歴史地域」と「石窟庵と仏国寺」があり、近郊には「韓国の歴史的集落群:河回と良洞」もあったりします。
慶州では新羅の首都・金城を復元するプロジェクトが進行していますが、一方で都市開発も進んでおり、マンションの乱開発が問題になっているようです。
■慶州仏国寺、マンション乱開発で世界遺産の地位揺らぐ(HANKYOREH JAPAN)
今回はこのニュースをお伝えします。
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以前、韓国政府と慶州市は1,000億円を投入して新羅の王宮・金城を修復・復元するプロジェクトを進めているという記事をアップしました。
月浄橋など、史料がないまま推測で復元していることから世界遺産の「真正性(authenticity)」が問題となっていると書きましたが、その件については下の記事を参照してください。
ずっと下に置いた動画が昨年末に完成した月浄橋です。
■世界遺産NEWS 17/04/18:「慶州歴史地域」の修復と世界遺産の真正性
こうした修復・復元の問題と同時に、実は周辺の再開発も数多くの問題を引き起こしています。
一例がマンションの建設で、下の地図のように、2017年までに世界遺産「石窟庵と仏国寺」の仏国寺正面付近に14階建のマンション10棟が竣工しています。
仏国寺は地図の右上(北東)820mに位置しています。
ここにさらに5棟のマンションと1棟のオフィスビルの建設計画があるのですが、1月下旬に慶州市がこれを通過させたことで問題が再燃しています。
先の記事によると、市は2010年に一帯の自然緑地地域を高層ビルの建設が可能な一般商業地域に変更しており、これを受けて10棟のマンションが建設されています。
慶州古都保存会などの組織はこの変更に関する疑惑の究明を要求しています。
一方、慶州市と文化財庁の回答は、「建築審議など適法な行政手順を踏んでおり、国家史跡の境界から500メートル以内を歴史文化環境保存地域に指定した文化財保護法にも反していない」ということです。
これに対して記事では、「ユネスコが眺望景観の保存を世界遺産登載維持の重要条件として規定しており、乱開発が度重なれば仏国寺の世界遺産の地位が揺らぎかねないという見解も出ている」としています。
実際にいくつかの世界遺産で同様の問題が持ち上がっていますが、特に注目されたのは「ケルン大聖堂」です。
20世紀末、ライン川西岸に立つケルン大聖堂に対して、ケルン市は東岸に高層ビル群の建設計画を発表しました。
これに対して世界遺産委員会は2004年、このビル群が大聖堂を含む景観を阻害して視覚的な完全性(Integrity)を損なうとして危機遺産リストに登載しました。
この決定は驚きをもって迎えられました。
というのは、計画中の高層ビル群は大聖堂から1kmも離れた場所にあり、世界遺産のプロパティ(資産。登録範囲)にもバッファーゾーン(緩衝地帯)にも含まれておらず、しかも大聖堂はもともと文化的景観を登録理由にしていたわけでもなかったからです。
ドイツはこうした問題に対する対処を地方に任せているのですが、ケルン市は結局ビル計画を撤回し、高さ制限を設け、バッファーゾーン(緩衝地帯)を拡張して対応しました。
こうした努力が実り、ケルン大聖堂は2006年に無事、危機遺産リストから解除されています。
一方、同じように景観が問題になっていた同国の「ドレスデン・エルベ渓谷」では、市が問題の橋の建設を進めたため、世界遺産リストから抹消されています(詳細は下のリンク参照)。
昨年末に復元された慶州歴史地域の月浄橋
話を韓国に戻しましょう。
先の記事では「石窟庵と仏国寺」だけでなく、世界遺産登録を目指している釜山の福泉洞古墳群でも同様の問題が起こっていると指摘しています。
3~6世紀に朝鮮半島南部で成立した加羅(伽耶)は数多くの古墳を残しているのですが、その主要部は「金海=咸安の加羅古墳群 "Gaya Tumuli of Gimhae - Haman"」として韓国の世界遺産暫定リストに記載されています。
中でも福泉洞古墳群は加羅最大級の遺跡なのですが、1月下旬、釜山市はこれまでの8度もの否決を覆し、高層マンションの建設を認める現状変更審議案を通過させました。
遺跡の隣接地は5~9階建てに制限されるようですが、この古墳群を囲むようにマンション建設が進められる懸念が高まっています。
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景観が問題となっている世界遺産は少なくなく、イギリスの「海商都市リヴァプール」やオーストリアの「ウィーン歴史地区」はビル建設による景観の破壊が原因で危機遺産リストに記載されています。
日本の物件でも「広島平和記念碑[原爆ドーム]」周辺のビル群や「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の三保松原の消波ブロックなど、多くの物件が世界遺産委員会で景観に関する指摘を受けています。
いずれの国でも文化財そのものは各国の文化財保護法で保護されています(世界遺産リストに登録されるためには国内法で保護されている必要があります)。
しかし、景観は周辺部分を含むため保護が難しく、日本では景観法や景観条例で高さ制限などを行っていますが、開発との関係もあって文化財保護法に比べて非常に弱いものになっています。
京都市では昨年、景観保護を強化するために、世界遺産「古都京都の文化財[京都市、宇治市、大津市]」の構成資産を含む27件の文化財の敷地内と周囲500mに対し、新たな建造物を建てる際に事前協議を義務づける眺望景観創生条例計画を発表しました。
韓国でもこうした規制を望む声が高まっており、慶州古都保存会はUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)への問題提起も検討しているようです。
世界遺産の保護活動は、文化財そのものの保護から周辺を含む文化景観の保全へと広がりつつあるようです。
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