世界遺産NEWS 17/06/11:政治的対立が深まる世界の記憶

6月1日、モンゴルの市民団体が中国の文化大革命期に内モンゴル自治区で起きた虐殺・拷問関連資料をUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の「世界の記憶(ユネスコ記憶遺産、世界記録遺産)」に推薦する方針を表明しました。

 

中国文革期の虐殺 ユネスコ記憶遺産申請へ(SankeiBiz)

 

南京事件や慰安婦関連資料の推薦・登録を巡って日中韓の対立が深刻化している世界の記憶ですが、これら以外にも通州事件やチベット虐殺、天安門事件等々の資料の登録活動が進んでおり、反発する声も上がっています。

今回はこうしたニュースをお伝えします。

 

* * *

 

上の産経新聞の報道によると、世界南モンゴル会議は6月1日、文化大革命期にモンゴル人が民族差別を受けて虐殺・拷問されたことを示す資料を来年にも世界の記憶に推薦することを発表しました。

 

文化大革命とは、毛沢東が主導する中国共産党が1966~76年に行った権力闘争・思想統制で、社会主義革命に反対する人々を徹底的に弾圧した運動です。

犠牲者は数百万人とされ、直前に行われた大躍進政策も合わせると4千万人とも5千万人とも言われる人々が拷問・虐殺されたと言われています。

 

張戎(ユン・チアン)が自身の体験を書き下ろした『ワイルド・スワン』という世界的ベストセラーがありますが、ここで描かれた大躍進政策と文化大革命は狂気のひとことです。

ノンフィクションとして強力にオススメしますので、興味がある方はぜひご一読ください。

 

一方、外モンゴルと言われる地域は1911年に清朝から独立し、1924年のモンゴル革命で社会主義国になりました。

中国北部・内モンゴル(南モンゴル)のモンゴル人たちは内外モンゴルの統一を目指して独立運動を行いましたが、文化大革命期に弾圧が加速して数万~数十万人が犠牲になったと言われます。

 

推薦を目指すのは内モンゴルの虐殺・拷問関連資料で、ショブチョード・テムチルト代表はその目的について「中国政府を批判することではなく、後世に悲惨な歴史の記録を残したいからだ。二度と同じことが行われないよう祈って行動している」と語っています。

推薦は2018年に行い、2019年のIAC(国際諮問委員会)での登録を目指すということです。

 

会見は東京の永田町で行われましたが、これを中国の内モンゴルで開催できないところに中国の現在が見えてきます。

中国は内モンゴル、チベット、新疆ウイグルなどの地域への圧力を強めていますから、反発が予想されます。

* * *

 

こうした東アジアの虐殺・拷問等に関する資料の世界の記憶への登録活動はここ数年、非常に活発化しています。

その発端となったのが中国による下記2件の推薦です。

 

  • 南京虐殺のドキュメント
  • 大日本帝国軍の性奴隷『慰安婦』に関するアーカイブ

 

日本は真正性(史資料の来歴が明らかで本物であり、憶測に基づいていないこと)が証明されていないとして反発しましたが、2015年に「南京虐殺のドキュメント」の登録が決まりました。

慰安婦関係の資料は登録されませんでしたが、9か国の市民団体が共同で「慰安婦の声」を再推薦しており、今年10月に登録の可否が決まります。

 

これ以降、こうした反日的な活動に反発する市民団体の活動が活発化し、同種の資料の推薦活動が加速しています。

 

たとえば、なでしこアクションなどの市民団体は慰安婦の実情を示す資料を集めた「慰安婦と日本軍規律に関する文書」や、1937年に北京で起きた中国人による日本人虐殺・強姦事件である通州事件とチベットに対する侵略・弾圧の証拠を集めた「20世紀中国大陸における政治暴力の記録:チベット、日本」の推薦を進めています。

また、中国ではその存在さえ消されている1989年の天安門事件関係の資料の登録活動も行われています。

 

これらの運動の特徴は、「複数国の市民団体」による活動であるという点にあります。

これは、世界の記憶への推薦が国家の推薦でなくても構わないという規定と、複数国による共同推薦であれば1か国2件までという各国の推薦枠外から推薦できるという規定に起因します。

これにより政府の関与を受けることなく推薦することができるわけです。

 

現在、日本の反発を受けて世界の記憶の登録プロセスの改善が進められています。

たとえば2019年のIACから、審査過程を透明化して推薦物件の内容と審議を公開し、関係国が異議を唱えた場合は対話による解決を促し、最長4年の協議期間を設けるといった施策が行われる予定です。

これに対して日本は今年10月の第13回IACへの適用を求めています。

 

こうした変更が適用された場合、上に記した物件の登録にも大きな影響を及ぼすと思われます。

 

* * *

 

これまでに掲げたいずれの物件も、悲劇を記憶に留め教訓とすることを目的に掲げています。

しかし、実際にはそれ以上の政治的意図を持つものも少なくないはずです。

 

今後、東アジアだけでなく、世界中で民族的あるいは政治的主張を行うためにこうした負の遺産の登録が活発化するのではないでしょうか?

それはUNESCOの健全な活動と言えるのでしょうか?

 

UNESCO憲章前文には「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった」と書かれています。

そしてUNESCOは教育・科学・文化を通じて疑惑と不信を払拭し、諸国民の連帯を促して世界の平和と福祉に貢献することを目的に設立されました。

 

世界の記憶は疑惑と不信を増進する方向に進んでいる気がしてなりません。

 

 

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※リンク先にさらに関連記事へのリンクあり

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