世界遺産NEWS 17/05/22:2017年、世界遺産候補地の勧告結果
今年も世界遺産委員会の季節が近づいてまいりました。
第41回世界遺産委員会の開催地は世界遺産「クラクフ歴史地区」を擁するポーランドのクラクフで、期間は7月2~12日の予定です。
この委員会で今年も新たな世界遺産が誕生するわけですが、候補地の勧告結果が発表されているので紹介しましょう。
※07/10追記
新しい世界遺産の審議が終了したので速報記事を出しました。また、本記事にも登録の可否を追記しました。
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最初に「勧告」についての解説です。
世界遺産を目指す物件は、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに登録推薦書を提出しなければなりません。
そして推薦書を提出した物件について、文化遺産はICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産の場合はIUCN(国際自然保護連合)、複合遺産の場合は両組織が現地調査を含む専門調査を行います。
そしてICOMOSとIUCNは下記4段階の勧告と提言で構成される評価報告書を作成し、世界遺産委員会の6週間前までに世界遺産センターに提出します。
この報告書を参考に、世界遺産委員会が登録の可否を決定します。
○4段階の勧告
- 登録:世界遺産リストへの登録にふさわしい
- 情報照会:追加情報の提供を要請。3年以内に提出すれば再審査が可能
- 登録延期:物件の構成やコンセプトを再考して登録推薦書の提出からやり直し
- 不登録:登録には不適で、確定した場合は再推薦も不可
例年、情報照会や登録延期勧告からの逆転登録は起こっています。
しかしながら登録勧告からの逆転不登録はほとんど例がありません。
つまり、登録勧告は事実上の内定ということができるでしょう。
ちなみに、日本の推薦物件である「宗像・沖ノ島と関連遺産群」はICOMOSから登録勧告を得ていますが、構成資産8件のうち沖ノ島周辺の物件以外の4件を除外すべきという非常に厳しい条件が付いています。
ICOMOSの提言に従って宗像大社の中津宮や辺津宮、新原・奴山古墳群などを削って4件に絞るか、このまま8件で押しとおすか、難しい選択を迫られています。
アフリカのアンゴラとエリトリアの2か国が世界遺産の初登録に挑戦していますが、両国の物件とも登録勧告を得ています。
世界遺産非保有国は現在27か国ありますが、減りそうですね。
一方、世界遺産最多保有国はイタリアで51件、第2位が中国で50件となっていますが、イタリアが1件の登録勧告、対して中国が2件の登録勧告を得ています。
イタリアは1件、登録延期勧告の物件がありますが、こちらが登録できなかった場合、中国がイタリアと並んで1位に躍り出るかもしれません。
ちなみに、2018年についてはイタリア、中国とも2件を推薦しています。
混戦が続きそうです。
また、パレスチナから緊急的登録推薦が行われています。
緊急的登録推薦とは、通常は推薦から登録まで1年半かかる登録プロセスを短縮して緊急的に推薦するものなのですが、パレスチナは2011年、2013年にも行っています。
ICOMOSはこれら2回の緊急的登録推薦に対して緊急性がないということで不登録勧告を出していましたが、逆転で2012年に「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」、2014年に「パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観」の登録に成功しています。
今回推薦されているのは「ヘブロン/アル・ハリル旧市街」という物件です。
ヘブロンはエルサレムと同様、イスラエル-パレスチナの領有権問題で揺れている土地で、現在は国際監視団が展開しているものの、ユダヤ人入植地問題やこれに対するテロなどが収まっていません。
前回バティールの物件が登録された際も、入植地の問題から世界遺産登録が政治利用されたと非難されましたが、今回も同様の混乱が予想されます。
ヘブロン自体はユダヤ・キリスト・イスラム3教の始祖である預言者アブラハムをはじめ、イサクやヤコブらの墓がある聖地であり古都で、歴史ある遺跡やモスクが立ち並んでいます。
世界最古級の町であることから一定の評価は得られるでしょうけれど、そもそも緊急性がどのように評価されるか気になるところです。
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湖と山と草原、氷河によって削られたU字谷といった風光明媚かつダイナミックな景観が広がるイギリスの「イングランドの湖水地方」の文化的景観。ピーターラビットゆかりの地で、ワーズワースやコールリッジといった詩人たちに愛された土地でもあります
それでは2017年の世界遺産候補地45件(範囲変更6件含)のリストです。
内容は、文化遺産34件、自然遺産10件、複合遺産1件となっています。
ただし、すでに推薦を辞退した物件も含んでいます。
新登録物件については登録・情報照会・登録延期・不登録の4段階、範囲変更物件については承認・不承認の2段階の勧告結果を記しています。
昨年の記事「世界遺産NEWS 16/06/04:2017年の世界遺産候補地」から名称を変更している物件も存在します。
順番は、文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれはヨーロッパ→アジア→オセアニア→北米→南米→アフリカ、さらに国別五十音順です。
日本語名は私が適当に訳したものです。
勘違い等あるかもしれませんがご容赦ください。
正式な推薦名称は英語の表記になります。
名称や登録基準は今後変わる可能性があります。
※07/10追記
登録が決定した物件については「→登録決定」の文字を入れました。
★2017年に世界遺産登録を目指す物件一覧表
<文化遺産34件(範囲変更4件含)>
■ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区 →不登録勧告
Historic Centre of Sheki with the Khan’s Palace
アゼルバイジャン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■イングランドの湖水地方 →登録勧告 →登録決定
The English Lake District
イギリス、文化遺産(ii)(v)(vi)
■20世紀の産業都市イヴレーア →2018年の審議へ
Ivrea, industrial city of the 20th century
イタリア、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■15~17世紀におけるベネチアの防衛施設 →登録勧告 →登録決定
Venetian Works of Defence between 15th and 17th Centuries
イタリア/クロアチア/モンテネグロ共通、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■メノルカ島のタラヨット →登録延期勧告
Talayotic Minorca
スペイン、文化遺産(iii)(iv)
■ゲラティ修道院 →2015年の情報照会決議から継続審議 →範囲変更決定
Gelati Monastery
※「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院(ジョージア、1994年、文化遺産(iv))」の範囲変更
■クヤータ・グリーンランド:氷帽末端におけるノース人とイヌイットの農業景観 →情報照会勧告 →登録決定
Kujataa Greenland: Norse and Inuit Farming at the Edge of the Ice Cap
デンマーク、文化遺産(v)
■シュヴァーベン・ジュラにおける洞窟群と氷河時代の芸術 →登録勧告 →登録決定
Caves and Ice Age Art in the Swabian Jura
ドイツ、文化遺産(i)(iii)
■ナウムブルク大聖堂とザーレ川・ウンシュトルト川の文化的景観における関連遺産群 →不登録勧告
Naumburg Cathedral and related sites in the Cultural Landscape of the Rivers Saale and Unstrut
ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iv)
■ワイマール、デッサウ、ベルナウのバウハウスと関連遺産群 →拡大承認勧告 →範囲変更決定
The Bauhaus and its sites in Weimar, Dessau and Bernau
※「ワイマールとデッサウのバウハウスとその関連遺産群(ドイツ、1996年、文化遺産(ii)(iv)(vi))」の拡大
ドイツ、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■ドイツ中部のルターの遺跡群 →拡大不承認勧告
Luther Sites in Central Germany
※「アイスレーベンとヴィッテンベルクにあるルターの記念建造物群(ドイツ、1996年、文化遺産(iv)(vi))」の拡大
ドイツ、文化遺産(iv)(vi)
■アフロディシアス →登録延期勧告 →登録決定
Aphrodisias
トルコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■タプタプアテア →登録勧告 →登録決定
Taputapuātea
フランス、文化遺産、(iii)(iv)(vi)
■ストラスブール、グラン・ディル、ノイシュタット →拡大承認勧告 →範囲変更決定
Strasbourg, Grande-Île and Neustadt
※「ストラスブールのグラン・ディル(フランス、1988年、文化遺産(i)(ii)(iv))」の拡大
フランス、文化遺産(i)(ii)(iv)
■タルノフスキェ・グルィの鉛・銀・亜鉛鉱山と地下水管理システム →登録延期勧告 →登録決定
Tarnowskie Góry Lead-Silver-Zinc Mine and its Underground Water Management System
ポーランド、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■オルヘイ・ヴェクの考古的景観 →不登録勧告
Orheiul Vechi Archaeological Landscape
モルドバ、文化遺産(v)
■古代プスコフの建造物群 →2018年の審議へ
Monuments of Ancient Pskov
ロシア、文化遺産(ii)(iv)
■スヴィヤズスク島の被昇天大聖堂 →登録勧告 →登録決定
The Assumption Cathedral of the town-island of Sviyazhsk
ロシア、文化遺産(ii)(iv)
■伝統的商業港ホール・ドバイ →不登録勧告
Khor Dubai, a Traditional Merchant’s Harbour
アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■古都ヤズド →登録延期勧告 →登録決定
Historic City of Yazd
イラン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■古都アーマダバード →登録延期勧告 →登録決定
Historic City of Ahmadabad
インド、文化遺産(ii)(v)(vi)
■交易の時代:ジャカルタ旧市街[旧名バタヴィア]と4つの島嶼部[オンルス、ケロル、クチピル、ビダダリ] →2018年の審議へ
Age of Trade: Old Town of Jakarta (formerly Old Batavia) and 4 Outlaying Islands (Onrust, Kelor, Kecipir and Bidadari)
インドネシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■古代都市カルハット →2018年の審議へ
Ancient City of Qalhat
オマーン、文化遺産(iii)(v)(vi)
■ソウルの城壁、漢陽都城 →辞退
Hanyangdoseong, the Seoul City Wall
韓国、文化遺産(iii)(iv)(v)
■古代イーシャナプラのサンボー・プレイ・クック考古遺跡 →登録延期勧告 →登録決定
Sambor Prei Kuk Archaeological Site of Ancient Ishanapura
カンボジア、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■歴史的万国租界、鼓浪嶼(ころうしょ) →登録勧告 →登録決定
Kulangsu: a historic international settlement
中国、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■宗像・沖ノ島と関連遺産群 →登録勧告 →登録決定
Sacred Island of Okinoshima and Associated Sites in the Munakata Region
日本、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■ヘブロン/アル・ハリル旧市街 →緊急的登録推薦 →登録決定
Hebron/Al-Khalil Old Town
パレスチナ、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■ディルムン古墳群 →辞退
Dilmun Burial Mounds
バーレーン、文化遺産(iii)(iv)
■レヴァント地方における建築言語の起源と進化、1865~1925年にかけてのアス・サルト折衷建築 →不登録勧告
As-Salt Eclectic Architecture (1865-1925), Origins and Evolution of an Architectural Language in the Levant
ヨルダン、文化遺産(ii)(iii)
■ヴァロンゴ埠頭考古遺跡 →登録勧告 →登録決定
Valongo Wharf Archaeological Site
ブラジル、文化遺産(iii)(vi)
■ムバンザ・コンゴ、コンゴ王国の首都の痕跡 →登録勧告 →登録決定
Centre historique de Mbanza Kongo
Mbanza Kongo, vestiges of the capital of the former Kingdom of Kongo
アンゴラ、文化遺産(iii)(v)(vi)
■アフリカの近代都市アスマラ →登録勧告 →登録決定
Asmara: Africa’s Modernist City
エリトリア、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■コマニの文化的景観 →登録延期勧告 →登録決定
ǂKhomani Cultural Landscape
南アフリカ、文化遺産(iii)(iv)(v)(vi)
<自然遺産10件(範囲変更2件含)>
■カルパチア山地とヨーロッパ他地域のブナ原生林 →登録延期勧告 →範囲変更決定
Primeval Beech Forests of the Carpathians and Other Regions of Europe
※「カルパチア山地のブナ原生林とドイツの古代ブナ林(ウクライナ/スロバキア/ドイツ共通、2007年、2011年拡大、自然遺産(ix))」の拡大
アルバニア/イタリア/ウクライナ/オーストリア/クロアチア/スペイン/スロバキア/スロベニア/ドイツ/ブルガリア/ベルギー/ポーランド/ルーマニア、自然遺産(ix)
■シーラ国立公園 →辞退
Sila National Park
イタリア、自然遺産(viii)(ix)(x)
■アラスバーラン生物圏保存地域 →2018年の審議へ
Arasbaran Biosphere Reserve
イラン、自然遺産(viii)(ix)(x)
■ビターカニカ保全地域 →不登録勧告
Bhitarkanika Conservation Area
インド、自然遺産(vii)(ix)(x)
■青海フフシル →登録勧告 →登録決定
Qinghai Hoh Xil
中国、自然遺産(vii)(x)
■ダウリアの景観群 →2015年の情報照会決議からの再審議 →登録決定
Landscapes of Dauria
モンゴル/ロシア共通、自然遺産(ix)(x)
■ロス・アレルセス国立公園 →登録勧告 →登録決定
Los Alerces National Park
アルゼンチン、自然遺産(vii)(x)
■モール国立公園 →不登録勧告
Mole National Park
ガーナ、自然遺産(vii)(ix)(x)
■ザクマ国立公園 →辞退
Parc National de Zakouma
チャド、自然遺産(ix)(x)
■W=アルリ=ペンジャリ国立公園複合体 →拡大承認勧告 →範囲変更決定
W-ARLY-PENDJARI COMPLEX
※「ニジェールのW国立公園(ニジェール、1996年、自然遺産(ix)(x))」の拡大
ニジェール/ブルキナファソ/ベナン、自然遺産(ix)(x)
<複合遺産1件>
■メソアメリカの固有生息地、テワカン-クイカトラン渓谷 →文化遺産・自然遺産とも登録延期勧告
Tehuacán-Cuicatlán Valley: originary habitat of Mesoamerica
メキシコ、文化遺産(iii)(iv)(vi)、自然遺産(x)
* * *
7月に新世界遺産が出揃ったら速報します。
また、まもなく2018年に新登録を目指す世界遺産候補地の記事もアップします!
お楽しみに!!
[関連記事]
世界遺産NEWS 17/07/10:速報! 2017年新登録の世界遺産!!(続報)
世界遺産NEWS 17/05/06:宗像・沖ノ島に条件付き登録勧告(さらに以前の記事へリンクあり)
世界遺産NEWS 16/06/04:2017年の世界遺産候補地
世界遺産NEWS 17/05/25:2018年の世界遺産候補地