世界遺産NEWS 16/01/13:日本の支援でシルクロードを世界遺産登録へ
1月上旬、読売新聞系列のオンラインニュースで、日本が中央アジア4か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)を支援して2020年にシルクロード(絹の道)の世界遺産登録を目指すとの報道がありました。
■世界遺産「絹の道」さらに西へ拡張、日本が支援(YOMIURI ONLINE)
シルクロードは2014年に「シルクロード:長安-天山回廊の交易路網」の名でカザフスタン、キルギス、中国共通の世界遺産として登録されています。
実は、日本は以前からシルクロードの発掘・調査・保存活動などを支援しており、上の登録にも深く関わっていたりします。
今回はシルクロードと日本の支援について紹介しましょう。
シルクロードといっても、上の写真のようにさまざまなルートがあります。
よく見ると大陸の緑の部分を避けるように道が通っているのがわかります。
森林は移動が困難であるうえに、そうした土地に住む人々はもともと豊かで移動する必要がありません。
文明は砂漠の周辺で開花しましたが、乾燥地帯では生きるために高いレベルの知恵が必要で、移動が容易であったことから各地の知恵、つまり文化が集積できたことが大きかったのだと思います。
いずれのルートも共通しているのはユーラシア大陸の東西を結んでいる点で、中国原産の超高級織物・シルク(絹)を主要交易品としていたことからこの名がつきました。
このうち、中国北部からカスピ海の上を通っていくルートをステップロード(草原の道)、その下のルートをオアシスロード(オアシスの道)、海上のルートをシーロード(海の道。海のシルクロード)と呼ぶこともあります。
日本もシルクロードの東の終着点ということで法隆寺や正倉院の宝物、1960年代からライフワークとしてシルクロードの絵を描き続けた平山郁夫氏の絵画、1980年代に一世を風靡したNHK特集『シルクロード』などでなじみ深いかと思います。
↓の喜多郎氏のテーマ曲もヒットしましたね。
2002年頃からUNESCO(ユネスコ。国際連合教育科学文化機関)はシンポジウムを設置してシルクロードの研究・保護活動を開始しました。
平山郁夫氏や2009年までUNESCO事務局長を務めた松浦晃一郎氏らの尽力もあって世界遺産構想が進められ、日本も積極的に参加しました。
2010年にはユネスコ文化遺産保存日本信託基金を利用して、中央アジア5か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)を支援する世界遺産登録支援事業がスタート。
2010年時点で日本は16件の世界遺産をミスなしで一発登録していたのに対し、中央アジアには5か国合わせても12件しかなく、人的・資金的な不足はもちろん、世界遺産登録や遺跡保存のノウハウもまったく不足した状態でした。
2011~2014年に最初のフェイズとなるワークショップが開催され、人材の育成とノウハウの提供が行われました。
シルクロードといっても範囲があまりに広大で各国の足並みもそろわなかったことから、世界遺産登録は中央アジアをふたつに分けて進められました。
2014年に世界遺産登録を目指したのは下記の2件です。
- シルクロード:長安-天山回廊の交易路網(カザフスタン/キルギス/中国共通)
- シルクロード:ペンジケント-サマルカンド-パイケンドの回廊(ウズベキスタン/タジキスタン共通)
いずれも2014年に開催された第38回世界遺産委員会で登録が審議されました。
結果は、前者が登録、後者は構成資産の選定理由が不明確であることや普遍的価値の証明が不十分であるとして登録が見送られました。
前者の構成資産には中国からカザフスタン、キルギスまでの33の遺跡、たとえば長安城の未央宮遺跡、大雁塔、玉門関、キジル石窟、アク・ベシム、ブラナの塔、カヤリクなどが含まれています。
2014年には、2017年までの予定で世界遺産登録支援事業の新しいフェイズがスタートしました。
そしてこの1月に2020年の世界遺産登録を目指すことが決まったということのようですね。
次回、世界遺産登録を目指すのは2014年に登録されたシルクロードの西方、キルギス西部~タジキスタン~ウズベキスタン~カザフスタン南部・西部のルート、いわゆるステップロードの遺跡群です。
また、これらとは別にトルクメニスタンの遺跡の支援も行っていくようです。
ちなみに、現在世界遺産暫定リストには「シルクロード」の名がつく物件が7件も登録されています。
- ウズベキスタンのシルクロード遺跡(ウズベキスタン)
- キルギスのシルクロード遺跡(キルギス)
- シルクロード(カザフスタン)
- タジキスタンのシルクロード遺跡(タジキスタン)
- トルクメニスタンのシルクロード遺跡(トルクメニスタン)
- シルクルート[シルクロード](イラン)
- インドのシルクロード遺跡(インド)
そうそう、シルクロードといえば最近話題なのは中国が打ち出したシルクロード経済ベルト「一帯一路 "OBOR=
One Belt, One Road"」ですね。
中国から中央アジア、ロシアを経てヨーロッパに至るシルクロードと、中国を南下してインドシナ半島・マレー半島を回り、インド洋を越え、東アフリカを経て地中海に至る海のシルクロード上の国々をつなぐ新しい経済圏の構想です。
ヨーロッパ主導のEU(欧州連合)、アメリカ・日本主導のTPP(環太平洋経済連携協定)、ロシア主導のEEU(ユーラシア経済連合)などのメガRTAと主導権争いをするものと見られており、AIIB(アジアインフラ投資銀行)なども絡んで今後の動きが気になるところです。
いやー、シルクロード、熱いですね。
実は、2016年は中央アジアからコーカサス地方に入ってトルコから東ヨーロッパに抜けるシルクロードの旅を計画しています。
中央アジア5か国、コーカサス地方3か国ははじめての訪問になるのでとても楽しみです。
中国の森林地帯から砂漠に入り、ステップを経てトルコの森林に抜けるその道を、ぜひこの目で見てみたいと思っています。
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