世界遺産NEWS 15/06/01:2016年の世界遺産候補地
かなり気が早いですが、今回は2016年の第40回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録を目指す物件を紹介しましょう。
その前に。
まだ2015年の世界遺産も決まっていないのに、なぜ2016年のリストが公表されているのでしょう?
世界遺産に物件を登録するためには、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターに推薦書を送る必要があります。
2016年の物件については2015年2月1日が〆切で、本リストはその時点で立候補の表明があった物件ということになります。
ただし、緊急登録物件や過去に情報照会の決議を受けた物件の再審査があったりするためこのリスト外から登録されることもありますし、書類の不備等から審査に及ばない物件や推薦を取り下げる物件も相当数出てきます。
そして2015年の夏から秋にかけて、文化遺産についてはICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産についてはIUCN(国際自然保護連合)、複合遺産は両組織が現地視察を含めた調査を行い、2016年春に評価報告書を作成します。
その報告書を参考に、初夏に行われる第40回世界遺産委員会で世界遺産リストへの記載の可否が決定します。
※以下続報です
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* * *
個人的に注目している候補物件をピックアップしてみましょう。
日本が関係しているのは2件、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」と「ル・コルビュジエの建築作品 - 近代建築運動への顕著な貢献」です。
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、キリスト教が日本に伝来し、禁止され、開国を迎えて解禁されるまでの3つの段階、14の構成資産からなっています。
特に今年2015年は信徒発見150周年の年。
これは日本が開国してキリスト教が解禁され、1865年に大浦天主堂が建設されたときに、フランス人神父のもとに15人の潜伏キリシタンが現れて「我らの胸、あなたの胸と同じ」と信仰を告白したという事件です。
禁教が250年も続いたにもかかわらずキリスト教が伝えられていたことで「奇跡」といわれ、バチカンを大いに感動させたということです。
構成資産を以下に記しておきましょう。
■城跡(キリスト教の伝達・繁栄を示す城郭跡や鎖国の原因となる島原・天草一揆の関連遺跡)
- 日野江城跡(南島原市)
- 原城跡(南島原市)
■歴史的景観(キリスト教の禁止以降にできた潜伏キリシタンの隠れ集落とそれを取り巻く景観)
- 平戸の聖地と集落[春日集落と安満岳](平戸市)
- 平戸の聖地と集落[中江ノ島](平戸市)
- 天草の崎津集落(天草市)
■教会建築(明治以降、キリスト教が解禁されてから建設された土着の教会群)
- 大浦天主堂と関連施設(長崎市)
- 出津教会堂と関連遺跡(長崎市)
- 大野教会堂(長崎市)
- 黒島天主堂(佐世保市)
- 田平天主堂(平戸市)
- 旧野首教会堂と関連遺跡(小値賀町)
- 頭ケ島天主堂(新上五島町)
- 旧五輪教会堂(五島市)
- 江上天主堂(五島市)
一方、「ル・コルビュジエの建築作品 - 近代建築運動への顕著な貢献」については3度目の挑戦になります(推薦名称は都度異なります)。
過去2回はフランスを中心としたスイス、ドイツ、ベルギー、日本、アルゼンチンの6か国共同推薦でしたが、2009年は情報照会(追加資料の提出で再審査が可能)、2011年は登録延期(物件の構成を再考)で登録に失敗しました。
2009年は22作品、2011年は19作品をまとめての推薦でしたが、普遍的価値の証明の不明確さや、近代建築運動というコンセプトがあいまいであること、22件なり19件が選ばれた理由が不明確である点などが理由に挙げられました。
今回は国立西洋美術館本館やサヴォア邸、ユニテ・ダビタシオン、ロンシャンの礼拝堂などに加えて、きわめて評価の高かったインドのチャンディーガルを加え、物件を17件に絞り、国数を7か国に増やしての推薦です。
フランク・ロイド・ライト設計の落水荘。CGで構造がよく理解できる
ル・コルビュジエと並んで近代建築の三大巨匠に数えられるフランク・ロイド・ライトの作品群もノミネートしています。
アメリカ国内の代表作10点をまとめたシリアル・ノミネーションで、落水荘やグッゲンハイム美術館などが含まれています。
今回の候補には含まれていませんが、日本にも帝国ホテル・旧本館や自由学園の明日館(みょうにちかん)などがありますが、こちらも人気が出そうですね。
ちなみに、三大巨匠の残りのひとり、ミース・ファン・デル・ローエについては「ブルノのトゥーゲントハート邸」がチェコの世界遺産に登録されています。
このところすさまじい勢いで世界遺産を増やしている中国はまた2件を推薦しています。
現在世界遺産リストへの推薦は1か国2件まで(2件の場合、1件は自然遺産か文化的景観でなければならない)となっているのですが、ほぼ毎年枠を使い切っています。
中国の世界遺産総数は47件で現在2位ですが、2016年はトップのイタリア(50件)の推薦がないので差を詰めそうです。
今回は古代チワン族が残した花山の岩絵と、多彩な森林群を誇る神農架の推薦です。
このところ中国に次いで世界遺産を急増させているのがイランです。
やはり今回も2件の推薦で、「ペルシャのカナート」と「ルート砂漠」です。
イランの国土はほとんどが砂漠とステップなのですが、そのひとつがルート砂漠であり、そんな乾燥地で水を確保するための工夫がカナートと呼ばれる水利施設です。
私はイランの「バムとその文化的景観」でカナートを知りましたが、なるほどと感心しました。
実は中東の水利施設はすでにイランの「シューシュタルの歴史的水利施設」、オマーンの「アフラージュ、オマーンの灌漑システム」などが世界遺産に登録されています。
逆に世界遺産を持っていない国の中では、ミクロネシア、アンティグア・バーブーダ、アンゴラが初登録に挑戦します。
2015年に「エフェソス」の登録が濃厚となっているトルコですが、2016年はアニ遺跡とアフロディシアス遺跡を推薦しています。
アニ遺跡はキリスト教会を中心に、ヨーロッパとメソポタミア両面の文化の跡が残る遺跡。
一方、アフロディシアス遺跡はヘレニズム文化を伝える都市遺跡で、とても美しい廃墟で知られています。
アジア、ヨーロッパ、アフリカをつなぐトルコはやっぱりいい遺跡がたくさんありますね。
「あれ、文化遺産は1か国1件までじゃないの?」と思うのですが、アニ遺跡が文化的景観なのでセーフのようです。
イラクからは「世界の七不思議」に数えられる「バビロンの空中庭園」で知られるバビロンがエントリーしています。
バビロンはいまから5,000年も前に誕生したと伝えられる古代都市で、紀元前6世紀頃には新バビロニアの首都となり、空中庭園を備えた華麗な都市として栄えました。
しかしながらアケメネス朝ペルシアに滅ぼされると街は破壊され、一時はアレクサンドロス3世(アレキサンダー大王)の都として復興しましたがその後は衰退し、廃墟となって打ち捨てられました。
気になる空中庭園ですが、空中に浮いていたというわけではなく、丘の上にあって浮いたように見えたということのようです。
* * *
それでは2016年の世界遺産候補地42件(拡大・変更等3件含)のリストです。
内容は、文化遺産26件、自然遺産10件、複合遺産6件となっています。
順番は、文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれの中はヨーロッパ→アジア→オセアニア→北米→南米→アフリカで、さらに国別五十音順です。
登録基準については、文化遺産と自然遺産を分けて表記しました。
日本語名は私が適当に訳したものです。
勘違い等あるかもしれませんがご容赦ください。
正式な推薦名称は英語の表記になります。
なお、推薦名称や登録基準は今後変わる可能性があります。
★2016年に世界遺産登録を目指す物件一覧表
<文化遺産26件(変更1件含)>
■ジブラルタルのネアンデルタール人の洞窟群と環境
Gibraltar Neanderthal Caves and Environments
イギリス、文化遺産(iii)(v)
■フィリッピの古代遺跡
Archaeological Site of Philippi
ギリシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■公共広場フォルムにおける記念碑的建造物群のあるザダル半島のローマ時代アーバニズム
Roman Urbanism of the Zadar Peninsula with the Monumental Complex on the Forum
クロアチア、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■ステチュツィ - 中世の墓石
Stecci - Medieval Tombstones
クロアチア/セルビア/ボスニア・ヘルツェゴビナ/モンテネグロ共通、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■アンテケラの巨石遺跡
Antequera Dolmens Site
スペイン、文化遺産(i)(ii)
■ル・コルビュジエの建築作品 - 近代建築運動への顕著な貢献
L’OEuvre architecturale de Le Corbusier - Une contribution exceptionnelle au Mouvement Moderne
スイス/ドイツ/フランス/ベルギー/インド/日本/アルゼンチン共通、文化遺産(ii)(vi)
■鉱業に関する文化的景観、エルツとクルスノホリ
Mining Cultural Landscape Erzgebirge / Krusnohori
チェコ/ドイツ共通、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
■ハレのフランケ財団
Francke Foundations, Halle
ドイツ、文化遺産(iv)(vi)
■アニの文化的景観
Ani Cultural Landscape
トルコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■アフロディシアス
Aphrodisias
トルコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)
■オルヘイ・ヴェクの考古的景観
Orheiul Vechi Archaeological Landscape
モルドバ、文化遺産(v)
■ツェティニェの歴史地区
Historic Center of Cetinje
モンテネグロ、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■バビロンの文化的景観と都市遺跡
Babylon Cultural Landscape and Archaeological City
イラク、文化遺産(ii)(iv)(v)(vi)
■ペルシャのカナート
The Persian Qanat
イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi)
■ナーランダ僧院の出土遺跡
Excavated remains of Nalanda Mahavihara
インド、文化遺産(iv)(vi)
■ソウォン[書院]、朝鮮王朝期の新儒教教育
Seowon, Neo-Confucian Academies of the Joseon Dynasty
韓国、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■プー・プラバート歴史公園
Phu Phrabat Historical Park
タイ、文化遺産(iii)(iv)(v)(vi)
■左江花山のロックアートの文化的景観
Zuojiang Huashan Rock Art Cultural Landscape
中国、文化遺産(i)(iii)(vi)
■長崎の教会群とキリスト教関連遺産
Churches and Christian Sites in Nagasaki
日本、文化遺産(ii)(iii)(vi)
■ナン・マトール:東ミクロネシアの祭式遺跡
Nan Madol: Ceremonial Center of the Eastern Micronesia
ミクロネシア、文化遺産(iii)(iv)(vi)
■フランク・ロイド・ライトによる近代建築の主要作品
Key Works of Modern Architecture by Frank Lloyd Wright
アメリカ、文化遺産(i)(ii)
■アンティグア海軍造船所と関連の考古遺跡
Antigua Naval Dockyard and Related Archaeological Sites
アンティグア・バーブーダ、文化遺産(iv)
■パナマの歴史地区と考古遺跡
※「パナマ・ビエホの考古遺跡とパナマ歴史地区」の登録範囲の変更
Archaeological Site and Historic Centre of Panama City
[Significant boundary modification of the property inscribed in 1997 and extended in 2003 under criteria (ii)(iv)(vi)]
パナマ、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■パンプーリャ近代遺跡
Pampulha Modern Ensemble
ブラジル、文化遺産(i)(ii)(iv)
■ンバンザ・コンゴ歴史地区
Centre historique de Mbanza Kongo
アンゴラ、文化遺産(iii)(v)(vi)
■ディレ・シェイク・フセインの宗教的文化的歴史的遺跡
Dirre Sheikh Hussein Religious, Cultural and Historical Site
エチオピア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
<自然遺産10件(拡大2件含)>
■西コーカサス山脈
※「西コーカサス山脈」の登録範囲の変更
Western Caucasus
[Significant boundary modification of the property inscribed in 1999 under criteria (ix)(x)]
ロシア、自然遺産(ix)(x)
■コミ原生林
※「コミ原生林」の登録範囲と登録基準の変更
Virgin Komi Forests
[Significant boundary modification of the property inscribed in 1995 under criteria (vii)(ix)]
ロシア、自然遺産(vii)(ix) + (viii)(x)
■ルート砂漠
Lut Desert
イラン、自然遺産(vii)(viii)
■西天山
Western Tien-Shan
ウズベキスタン/カザフスタン/キルギス共通、自然遺産(viii)(x)
■湖北省の神農架
Hubei Shennongjia
中国、自然遺産(ix)(x)
■バシズ草原の生態系
Bathyz Grassland Ecosystem
トルクメニスタン、自然遺産(vii)(ix)(x)
■クイテンダグの山地生態系
Mountain Ecosystems of Koytendag
トルクメニスタン、自然遺産(vii)(ix)(x)
■ミステイクン・ポイント
Mistaken Point
カナダ、自然遺産(viii)
■レビジャヒヘド諸島
Archipielago de Revillagigedo
メキシコ、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)
■モール国立公園
Mole National Park
ガーナ、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)
<複合遺産6件>
■南イラクのアフワール:生物多様性保護区とメソポタミア都市群の残存景観
The Ahwar of Southern Iraq: refuge of biodiversity and the relict landscape of the Mesopotamian Cities
イラク、文化遺産(iii)(v)、自然遺産(ix)(x)
■カンチェンツォンガ国立公園
Khangchendzonga National Park
インド、文化遺産(iii)、自然遺産(vii)(x)
■ピマチオウィン・アキ
Pimachiowin Aki
カナダ、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(ix)
■パラチ - 文化と生物多様性
Paraty - Culture and Biodiversity
ブラジル、文化遺産(ii)(v)(vi)、自然遺産(vii)(x)
■エネディ山塊:文化及び自然景観
Massif de l’Ennedi : paysage naturel et culturel
チャド、文化遺産(iii)、自然遺産(vii)(ix)
■ホルカ・ソフ・オマルの自然・文化遺産[ソフ・オマル:神秘の洞窟]
Holqa Sof Umar: Natural and Cultural Heritage (Sof Umar: Caves of Mystery)
エチオピア、文化遺産(iii)(v)(vi)、自然遺産(vii)(viii)
2016年春になったらICOMOS、IUCNの勧告状況を報告します。
※追記
続報です
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