世界遺産NEWS 18/04/14:ナスカ近郊で新たな地上絵50点以上を発見
歴史好きなら誰もが一度は心を躍らせた経験があるであろう「ナスカの地上絵」。
4月上旬、ナショナル・ジオグラフィックはナスカ近郊で新たに50点以上の地上絵が発見されたことを発表しました。
■Massive Ancient Drawings Found in Peruvian Desert(NATIONAL GEOGRAPHIC。英語)
すでに数十点の地上絵を発見している山形大学のニュースかと思いましたが、今回の功労者はペルーの考古学チームです。
こちらのニュースをお伝えします。
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上の動画を見ていただけたでしょうか?
とてもキュートな人物や動物の絵が描かれています。
ナスカの地上絵には宇宙飛行士(実際何を描いているのかわかっていません)などを除いて人物の絵がほとんどありませんから、そうした意味でも興味深いですね。
言い方を変えると少し幼稚というか洗練されていない印象を受けますが、この辺りはパルパの地上絵に似ています。
パルパの地上絵はナスカの地上絵の北10~20kmほどに点在しているもので、ナスカの地上絵の千年ほど前に描かれたものと言われています。
諸説ありますが、ナスカの地上絵は紀元前後~後8世紀頃に栄えたナスカ文化、パルパの地上絵は紀元前9~前1世紀頃のパラカス文化のものと考えられています。
世界遺産「ナスカとパルパの地上絵」はその名の通りこの両方を構成資産としており、今回の新しい地上絵群も登録範囲に含まれているようです。
↓がパルパの地上絵です。
さらに下に貼り付けたナスカの地上絵の映像と比べてみてください。
記事によると、今回発見された地上絵の多くは紀元前500~後200年ほどのもので、パラカス文化、あるいはパラカス文化とナスカ文化をつなぐトパラ文化のものと考えられているようです。
ナスカの地上絵に多い幾何学図形や昆虫や鳥などの絵はほとんど見られず、多くが人物絵なのですが、これについてペルーの考古学者ルイス・ハイメ氏は人物絵のほとんどは当時の戦士像であるとしています。
また、ナスカの地上絵の多くがほぼ水平な平原に描かれているのに対して、今回の絵の多くはパルパの地上絵と同様、山腹に描かれています。
このため当時は地上から眺めることができたようです。
ただ、長い年月を経て絵は薄くなって地上から確認することができなくなり、絵の規模や線の幅がナスカの地上絵と比べて小さく狭かったことから人工衛星や飛行機で発見することもできませんでした。
このため今回、ドローンによる低空撮影によってはじめて確認されることになりました。
今回のドローンによる撮影は地上絵の破壊に備えるために行われたものでした。
地上絵は岩石砂漠や礫砂漠に描かれているのですが、太陽光によって酸化した赤茶けた砂を20~30cmも取り除くと白い層が露出します。
たったこれだけの線で構成されている非常に不安定な絵なのですが、年間降水量わずか25mmという乾燥地であるためこうした絵が数千年も保たれているわけです。
しかし、辺りはただの砂漠で周囲と隔離されているわけでもないため、人や車が立ち入ることがあります。
今年2018年1月28日にもトラックが侵入して地上絵を踏みつけ、運転手が逮捕される事件が起きています。
こうした問題に対処するためナショナル・ジオグラフィック協会はグローバル・エクスプローラー・イニシアチブと呼ばれる構想を進めており、人工衛星を使って遺跡を撮影し、衛星写真を分析・保管しています。
ペルーがその構想に選ばれて撮影を進めていく中で、遺跡の破壊の兆候が見つかるとその情報をもとに地上調査が行われます。
考古学チームはその一環として1/2インチ(1.27cm)の物体さえ判別可能というドローンによる低空3Dスキャニングを行い、違法採掘現場の発見等と同時に、今回の予想外の発見につながりました。
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ナスカでは飛行機に乗って遊覧するだけでなく、展望台では地上絵のすぐ側まで寄って線を見学することができます。
ぼくもその線を見たのですが、「よくこんなものが二千年近く残ったな」と思ったものです。
ぼくがちょっと砂をかけるだけで消えてしまいそうな儚いものに見えました。
現地では人や車の侵入だけでなく、飛行機の墜落や気候変動による降水量の増加なども心配の種となっているようでした。
先述のグローバル・エクスプローラー・イニシアチブは遺跡が失われる前に記録しておこうという活動で、その過程で今回の発見となりました。
遺跡が失われ、こうした活動の成果が活躍するような事態が起こらぬことを切に願います。
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