世界遺産NEWS 17/03/30:京都市が歴史的資産の景観保護に新制度
3月24日、京都市は27か所の歴史的資産の敷地内と周囲500mに対し、新たな建造物を建てる際に事前協議を義務づける計画を発表しました。
■重要寺社などの周囲の建築、協議義務化へ 京都市(京都新聞公式サイトより)
27か所には、世界遺産「古都京都の文化財[京都市、宇治市、大津市]」の構成資産17件のうち京都市の14件が含まれていますが、世界遺産とその周辺の景観に関する問題は近年、世界遺産委員会でも大きな論点になっています。
今回はこの問題を取り上げます。
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京都市は24日、27か所の歴史的資産の敷地内と周囲500mに対し、そのすぐれた景観を保護するために以下の場合に事前協議を義務づける規制の計画を発表しました。
■新規制の枠組み
- 境内・参道に面した民有地:いかなる新築・増築にも事前協議を義務づけ
- 境内の端から周囲500m以内:大規模な新築・増築時に事前協議を義務づけ
歴史的資産の建物そのものは文化財保護法などによって保護されていますし、京都市内の新たな建造物も景観法や景観条例などによって段階的な高さ制限などが設けられています。
今回の規制は歴史的資産の周囲の建造物に対するもので、資産とともに構成される歴史的景観を保護するためのものと言えそうです。
新規制は景観条例改正案として提案される予定ですが、これが実現した場合、法に基づく申請手続きの前に市に計画書を提出し、市は必要に応じて学者や建築家など専門家を交えた事前協議を行って望ましい計画への誘導を図るということです。
27か所の歴史的資産は以下となっています。
■27の歴史的資産
★は世界遺産構成資産
- 上賀茂神社(賀茂別雷神社)★
- 下鴨神社(賀茂御祖神社)★
- 二条城★
- 東寺(教王護国寺)★
- 西本願寺★
- 鹿苑寺(金閣)★
- 龍安寺★
- 仁和寺★
- 天龍寺★
- 西芳寺(苔寺)★
- 高山寺★
- 清水寺★
- 慈照寺(銀閣)★
- 醍醐寺★
- 京都御所
- 建仁寺
- 東福寺
- 修学院離宮
- 桂離宮
- 大徳寺
- 北野天満宮
- 相国寺
- 妙心寺
- 東本願寺
- 南禅寺
- 平安神宮
- 知恩院
京都市の景観問題は本サイトでも「世界遺産NEWS 15/11/12:古都京都のコンビニ&マンション問題」として取り上げたことがあります。
コンビニ問題とは、世界遺産の構成資産のひとつである仁和寺の二王門の近くにコンビニとガソリンスタンドの建設計画が持ち上がったのですが、仁和寺と周辺住民は世界遺産としての景観を損ね、住環境が悪化するということで撤回を求め、出店計画が中止になった問題です。
マンション問題とは、やはり世界遺産である下鴨神社の南に広がる原生林・糺の森(ただすのもり)の南端でマンションの建設計画が立ち上がった問題で、こちらは建設がかなり進んでいます。
いずれも世界遺産の資産(世界遺産区域)ではありませんが、バッファーゾーン(緩衝地帯)に含まれていたことから大きな問題になりました。
コンビニの場合は計画が撤回され、マンションの場合は周辺景観に悪影響を与えないデザインが採用されるなどして建設されていますが訴訟に及んでいます。
これらの計画は景観法や景観条例上の問題がないため反対運動が知られるまで表面化することはありませんでした。
今回の新規制は景観問題に対して事前に対応を図るためのものになりそうです。
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実はこの景観問題、近年さまざまな世界遺産で大きな問題となっています。
記憶に新しいのはドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」と「ケルン大聖堂」の問題です。
「ドレスデン・エルベ渓谷」は2004年に世界遺産リストに登録されましたが、当初からエルベ川に新たな橋を架ける計画が明らかになっていて、文化遺産の調査や審査を行っているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)が懸念を表明していました。
世界遺産委員会は2006年に「橋を架けることでエルベ渓谷と街並みが一体となった文化的景観が失われ、顕著で普遍的な価値が損なわれる」としてこの物件を危機遺産リストに登載しました。
橋の建設が進んだことから2009年に世界遺産リストから抹消され、2013年にワルトシュレスヘン橋が開通しています。
一方、「ケルン大聖堂」はライン川の対岸に計画された高層ビル群が、大聖堂が作り出す "skyline"、つまり空を含む文化的景観を損なうということで2004年に危機遺産リストに加えられました。
しかしながらこの高層ビル群は大聖堂から1kmも離れており、資産どころかバッファーゾーンにさえ含まれていなかったことから内政干渉にあたる等々の批判を浴び、大きな論争が巻き起こりました。
しかしケルン市はビル計画を変更し、高さ制限を加えてバッファーゾーンを拡大することで、2006年に危機遺産リストから削除されました。
都市開発と景観の問題はこれ以外にもオーストリアの「ウィーン歴史地区」やスペインの「セビリアの大聖堂、アルカサルとインディアス古文書館」、日本の「広島平和記念碑[原爆ドーム]」をはじめさまざまな世界遺産で問題となっており、イギリスの「海商都市リヴァプール」はこれを理由に危機遺産リスト入りしています。
バッファーゾーンの外側における開発に対しても規制を呼び掛ける声が多くなっており、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)のようにバッファーゾーンの外側にトランジション・エリア(移行地帯)を設ける案も上がっています。
こうした中で京都市が掲げる周囲500mの規制はバッファーゾーンの外側にまで及ぶもので、かなり先進的な取り組みと言えるでしょう。
それだけでなく、こうした取り組みが国主導ではなく自治体主導で進むということは、地域住民が遺産の価値を十二分に理解していることを示します。
世界遺産の景観をバッファーゾーンの外側にまで拡張して保全し、世界遺産を生きている遺産(リビングヘリテージ)として位置づけて地域社会として活用・保全していこうという活動は、いますべての世界遺産に求められているものでもあります。
この辺りは2012年に京都で開催された世界遺産条約採択40周年記念最終会合(京都会合)でまとめられた「京都ビジョン」でも表明されていますが、そのひとつの成果とも言えるでしょうか。
さすが古都・京都ですね。
京都市は2018年に眺望景観創生条例改正案として提出することを目指しているようですが、すでに懸念を表明する寺社があるように反発も予想されます。
この取り組みが今後どのような展開を迎えるのか、注目していきたいと思います。
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