世界遺産NEWS 19/05/14:ICOMOSが百舌鳥・古市古墳群に登録勧告
2019年6月30日~7月10日にアゼルバイジャンのバクーで行われる第43回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録可否が決まる「百舌鳥・古市古墳群」。
文化庁は本日5月14日、世界遺産委員会の諮問機関で世界文化遺産の調査や評価を行っているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)から「登録勧告」を受けたことを発表しました。
登録勧告が覆ることはほとんどなく、事実上の内定となります。
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
最初にUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産の登録プロセスを確認しておきましょう。
登録は、登録を目指す前年2月1日までに登録推薦書をUNESCO世界遺産センターに提出するところからはじまります。
○世界遺産の登録プロセス
・推薦年
2月1日まで:世界遺産センターに登録推薦書を提出
夏~秋:文化遺産はICOMOS、自然遺産はIUCNが現地調査を含む専門調査を実施
・登録年
4~5月:ICOMOS、IUCNが勧告を記した評価報告書を世界遺産センターに提出
6~7月:評価報告書を参考に、世界遺産委員会が登録可否を決定
ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、IUCN(国際自然保護連合)は世界遺産委員会の諮問機関で、前者は文化遺産を専門とする国際NGO、後者は自然遺産の専門家からなる国際機関です。
両機関は推薦されたすべての候補地について現地調査を含む専門調査を行い、その結果を調査報告書にまとめて勧告を下します。
勧告は以下4段階に分かれています(政府や一部マスコミは4段階の勧告を「記載、情報照会、記載延期、不記載」と表記しています)。
○4段階の勧告
- 登録:世界遺産リストへの登録にふさわしい
- 情報照会:追加情報の提供を要請。3年以内に提出すれば再審査が可能
- 登録延期:物件の構成やコンセプトを再考して登録推薦書の提出からやり直し
- 不登録:登録には不適で、世界遺産委員会で確定した場合は再推薦も不可
そして勧告や調査報告書をもとに、世界遺産委員会が最終的な決定をやはり4段階で下します。
例年、情報照会や登録延期勧告からの逆転登録は起こっていますが、勧告より結果が悪くなることはほとんどありません。
特に登録勧告からの逆転不登録はほぼないので、登録勧告は事実上の内定といえます(わずかな例外はありますが、特殊な事情が絡んでいます)。
日本は昨年「百舌鳥・古市古墳群」の登録推薦書を提出しています。
そして本日、それに対する勧告の内容が発表され、結果は「登録勧告」でした。
* * *
近年、日本では世界文化遺産の推薦枠1件を巡って激しい争いが繰り広げられてきました。
大阪府の「百舌鳥・古市古墳群」は2013年から5年連続で立候補を行い、2017年にようやく推薦枠を勝ち取りました。
構成資産は大阪府の堺市、藤井寺市、羽曳野市にまたがる45件49基の古墳群で、登録された場合、大阪府としては初の世界遺産になります。
ICOMOSの勧告結果ですが、文化庁は会見で「傑出した古墳時代の埋葬の伝統と社会的・政治的構造を、当時のものをしっかり示していると評価いただいた」と、高く評価を受けたことを述べています。
顕著な普遍的価値や真正性(文化庁では真実性)、保存状況にも問題なく、パーフェクトに近い評価としています。
ICOMOSは主な懸念として開発圧力を挙げており、これに対して文化庁は「遺産影響評価の手法についてしっかりと関係自治体とともに取り組んでいきたい」としています。
また、菅義偉官房長官は「勧告に至るまでの地元関係者の努力に心から敬意を表したい」とし、「勧告通り本年夏、世界遺産委員会で登録されるよう、政府としては油断することなく全力で取り組んでいきたい」と述べています。
文化庁の報道資料より、勧告内容を抜粋しましょう。
<文化遺産候補地「百舌鳥・古市古墳群」勧告概要>
■遺産概要
百舌鳥・古市古墳群は、古墳時代の最盛期であった4世紀後半から5世紀後半にかけて、当時の政治・文化の中心地のひとつであり、大陸に向かう航路の発着点であった大阪湾に接する平野上に築造された。世界でも独特な、墳長500メートル近くに達する前方後円墳から20メートル台の墳墓まで、大きさと形状に多様性を示す古墳により構成される。墳丘は葬送儀礼の舞台であり、幾何学的にデザインされ、埴輪などで外観が飾り立てられた。本資産は、土製建造物のたぐいまれな技術的到達点を表し、墳墓によって権力を象徴した日本列島の人々の歴史を物語る顕著な物証である。
■構成資産
百舌鳥エリア23基、古市エリア26基、計45件49基。
なお、45件という数字は主たる陵墓とそれに従う陪塚(ばいちょう。大古墳の近親者の古墳)を1件と数えた数字です。
仁徳天皇陵古墳に対して茶山古墳と大安寺山古墳、応神天皇陵古墳に対して誉田丸山古墳と二ツ塚古墳を陪塚としています。
- 反正天皇陵古墳(堺市)
- 仁徳天皇陵古墳、茶山古墳及び大安寺山古墳(堺市)
- 永山古墳(堺市)
- 源右衛門山古墳(堺市)
- 塚廻古墳(堺市)
- 収塚古墳(堺市)
- 孫太夫山古墳(堺市)
- 竜佐山古墳(堺市)
- 銅亀山古墳(堺市)
- 菰山塚古墳(堺市)
- 丸保山古墳(堺市)
- 長塚古墳(堺市)
- 旗塚古墳(堺市)
- 銭塚古墳(堺市)
- 履中天皇陵古墳(堺市)
- 寺山南山古墳(堺市)
- 七観音古墳(堺市)
- いたすけ古墳(堺市)
- 善右エ門山古墳(堺市)
- 御廟山古墳(堺市)
- ニサンザイ古墳(堺市)
- 津堂城山古墳(藤井寺市)
- 仲哀天皇陵古墳(藤井寺市)
- 鉢塚古墳(藤井寺市)
- 允恭天皇陵古墳(藤井寺市)
- 仲姫命陵古墳(藤井寺市)
- 鍋塚古墳(藤井寺市)
- 助太山古墳(藤井寺市)
- 中山塚古墳(藤井寺市)
- 八島塚古墳(藤井寺市)
- 古室山古墳(藤井寺市)
- 大鳥塚古墳(藤井寺市)
- 応神天皇陵古墳、誉田丸山古墳及び二ツ塚古墳(羽曳野市)
- 東馬塚古墳(羽曳野市)
- 栗塚古墳(羽曳野市)
- 東山古墳(藤井寺市)
- はざみ山古墳(藤井寺市)
- 墓山古墳(羽曳野市、藤井寺市)
- 野中古墳(藤井寺市)
- 向墓山古墳(羽曳野市)
- 西馬塚古墳(羽曳野市)
- 浄元寺山古墳(藤井寺市)
- 青山古墳(藤井寺市)
- 峯ヶ塚古墳(羽曳野市)
- 白鳥陵古墳(羽曳野市)
■勧告概要
1.顕著な普遍的価値(OUV)について
百舌鳥・古市古墳群における45件49基の構成資産は,傑出した古墳時代の埋葬の伝統と社会政治的構造を証明しており,一連の資産は顕著な普遍的価値を証明していると考える。
2.完全性について
イコモスは,完全性の状態は45件49基の構成資産ごとに異なるものの,概ね担保されていると考える。
3.真実性について
古墳の歴史性や保存状況にもとづき,真実性は満たされていると考えるが,その程度には多様性が認められる。
4.比較研究について
イコモスは,比較研究は適切であると考える。
5.評価基準の適用について
・基準(iii)について
イコモスは,本推薦資産がこの評価基準に適合していると考える。
・基準(iv)について,
イコモスは,本推薦資産がこの評価基準に適合していると考える。
6.資産に影響を与える要因について
イコモスは,資産に与える主な懸念は,都市における開発圧力であると考える。管理体制の文脈において,遺産影響評価(世界遺産の資産・緩衝地帯の範囲内外において事業が計画された際にその影響を評価すること)の仕組みを整える必要がある。また,自然現象による古墳への影響もまた懸念される。
7.保存管理について(資産範囲,緩衝地帯(バッファー・ゾーン),保護措置,管理運営)
イコモスは,各資産及び緩衝地帯は,適切な範囲が法的に保護されていると考える。保存・管理体制は適切であるが,国・自治体・個人・地域共同体といった様々な主体間の調整が肝要である。モニタリグ体制は適切であるが,古墳の状態について墳丘に影響しない手法により定期的にモニタリングする必要がある。また地域コミュニティが保存・管理体制に主体的に参画できるよう図るべきである。
8.勧告
イコモスは,評価基準(iii)及び(iv)の下に世界遺産一覧表に記載することを勧告する。
イコモスは,締約国が以下を考慮することを併せて勧告する。
a)構成資産における無形的な側面に関する記録を継続すること
b)構成資産20(御廟山古墳)の国レベルでの保護措置と,構成資産44(峯ケ塚古墳)の緩衝地帯についての範囲に関する調整を終えること(*)
c)史跡指定されている構成資産に対して準備されている整備基本計画を完成すること
d)墳丘の構造的安定性を評価するための方法について検討すること
e)管理システムにおける地域住民の関与の在り方について検討すること
f)緩衝地帯とその周辺環境の関係を踏まえて,必要に応じて周辺環境においてさらに保護すべき対象とその手段について検討すること
g)計画されているガイダンス施設(堺市)の遺産影響評価について,世界遺産の顕著な普遍的価値の言及に基づき,より検討を深めること
h)全ての将来的な開発計画について遺産影響評価の手法を開発し実施すること。具体的には,自転車博物館,大仙公園基本計画,南海高野鉄道の高架事業等
i)世界遺産条約の作業指針の172 項に基づき,構成資産に影響をもたらす可能
性のある全ての主要な事業については世界遺産センターに情報提供をすること
*構成資産20については平成30 年10 月に史跡の追加指定を完了している。また,構成資産44については関連自治体にて協議中である
* * *
無事登録が決まりそうですね。
関係者の方、おめでとうございます!
[関連記事]
※各記事にさらに関連の過去記事にリンクあり
世界遺産NEWS 19/07/08:速報! 2019年新登録の世界遺産!!(登録決定の続報)
世界遺産NEWS 19/05/21:2019年、世界遺産候補地の勧告結果(他の候補地の勧告結果)
世界遺産NEWS 18/05/20:2019年の世界遺産候補地
世界遺産NEWS 18/10/16:百舌鳥古墳群の仁徳天皇陵、初の外部調査へ
世界遺産NEWS 17/07/31:文化庁文化審議会、「百舌鳥・古市古墳群」の推薦を決定