世界遺産NEWS 21/08/19:反政府勢力がエチオピアの世界遺産ラリベラを占領
エチオピア政府は8月6日、反政府勢力であるTPLF(ティグレ人民解放戦線)が世界遺産「ラリベラの岩窟教会群」を占領したことを発表しました。
ティグレ紛争ではエリトリア軍が世界遺産「アクスム」の周辺で修道院を破壊するなど文化洗浄 "cultural cleansing" を行っているとの報告もあり、世界遺産への影響が懸念されています。
この件に関してUESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)は深い懸念を表明し、戦闘を行っている諸勢力に世界遺産の保護を呼び掛けています。
■UNESCO seriously concerned about the protection of World Heritage site of the Rock-Hewn Churches, Lalibela (Ethiopia)(UNESCO)
今回はこのニュースをお伝えします。
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エチオピア北端のティグレ州はエチオピアで3番目の人口を誇るティグレ人を中心としたエリアで、1991年から2018年まで首相を輩出してエチオピアの政治の中心を担っていました。
しかし、2018年に最多民族であるオロモ人のアビィ・アハメド氏が首相に就任すると政府と州との間で対立が激化し、テロが頻発するようになりました。
アビィ首相はエリトリアとの和平を実現して2019年にノーベル平和賞に輝いていますが、ティグレ人との対立は収まりませんでした。
2020年9月9日、複数の政党が選挙をボイコットする中でティグレ州の州議会選挙が強行され、TPLFは190の議席の内、争われた152議席のすべてを獲得しました。
これに対してアビィ首相は不正選挙であるとして選挙結果を認めず、TPLFをテロ組織に認定しました。
一方、TPLFは正当な州政府として認めることを要求しています。
2020年11月上旬、政府機関が攻撃を受けたとして政府軍が攻撃を開始してティグレ紛争が勃発。
戦車や戦闘機を持つ政府軍は圧倒的優位に立ち、わずか2日で州都メケレを落として勝利宣言を出しました。
TPLFは拠点を放棄してゲリラ戦を展開。
ティグレ州の北はエリトリアと国境を接していますが、エチオピア政府と結んだエリトリア軍が国境を固めて難民の流入を阻止しているだけでなく、ティグレ州に侵入して攻撃を行っています。
こうしてティグレ州は包囲されて連絡を絶たれ、国連などの支援の手はおろか、いっさいの情報が入らない陸の孤島となりました。
逃れてくる国内避難民や断続的に入る電話などからの情報によると、一部で深刻な虐殺や性暴力・飢餓が起きており、数千~数万人が虐殺されたとの情報も伝わっています。
国連やUNICEF(ユニセフ=国際連合児童基金)は2021年6月時点で約160万人が封鎖された地域に取り残されており、200万人以上が避難を余儀なくされ、約35万人が飢えに直面していると報告しています。
世界遺産関連では、エリトリア軍がティグレ州のアクスムに侵入し、世界遺産「アクスム」の構成資産であるシオンの聖マリア教会の周辺で略奪を行い、数百人を殺害したようです。
世界遺産には含まれていませんが、6世紀に建設されたアクスムのデブレダモ修道院が爆破され、写本類が略奪されたということです。
エチオピア政府軍による略奪や殺害も報告されており、家畜を略奪し、畑を焼き払って飢餓を促すといった行為も伝わっています。
6月に政府軍はティグレ州から撤退し、農繁期が終わる9月まで停戦を宣言しました。
しかし、TPLFは停戦に応じず、軍を進めてメケレを奪還。
少数民族のアガウ人などと連携して南のアムハラ州や東のアファール州にまで勢力を拡大しました。
TPLFによる略奪や虐殺、文化財の破壊も報告されています。
そして8月上旬にはアムハラ州のラリベラを占領。
エチオピア正教の聖地である世界遺産「ラリベラの岩窟教会群」を支配下に置きました。
これに対してUNESCOやアメリカは懸念を表明し、TPLFに遺跡の保護や両州からの撤退を呼び掛けています。
ただ、周辺住民の多くは町から退避しており、内部の状況はわかっていません。
現在、政府は適格者のすべてに従軍を呼び掛けており、あらゆる民族に対してTPLFに対する蜂起を促しています。
一方、TPLFは各地の少数民族との連帯を図っており、エチオピア全土への戦線拡大が憂慮されています。
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ティグレ紛争ではエチオピア政府軍、エリトリア軍、TPLFをはじめとするティグレ人の武装組織、その他の民族の武装組織が入り乱れて戦闘が行われています。
どの勢力がどのように略奪・虐殺・性暴力・文化洗浄を行っているのか、正確な情報はつかめていません。
ただ、スーダンへの難民や国内避難民などから断続的に情報や映像が届いており、惨状が報告されています。
8月中旬、遠く離れた中央アジアのアフガニスタンでイスラム教原理主義組織タリバンが首都カブールを制圧しました。
タリバンは2001年3月12日に世界遺産「バーミヤン渓谷の文化的景観と考古遺跡群」のふたつの磨崖仏(まがいぶつ。岩壁に収められた仏像)を爆破したことでも知られています。
すでに一部で略奪や娯楽的な殺人が報告されており、文化洗浄も憂慮されています。
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