世界遺産NEWS 21/09/30:復元された平城宮跡の大極殿院・南門が姿を現す
奈良県奈良市に位置する世界遺産「古都奈良の文化財」の8つの構成資産のひとつ「平城宮跡」。
こちらの第一次大極殿院では南門の復元が進められており、9月下旬に素屋根(覆屋)の多くが取り外されてその威容を現しました。
また、平城宮跡については現在、近鉄奈良線が横断していますが、遺跡の外に移設することを今年3月に奈良県、奈良市、近畿日本鉄道の3者が合意しています。
年内には国を交えての話し合いが開始される予定です。
今回はこれらのニュースをお伝えします。
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世界遺産「古都奈良の文化財」には8つの構成資産がありますが、そのひとつが平城宮跡です。
平城宮跡は歴史上重要な事件や施設などのあった場所を示す「史跡」で、文化財保護法で特別史跡に指定されています。
史跡なので建物は残っておらず、地中に基礎や遺物が残るのみとなっています。
平城宮は奈良時代に首都が置かれていた平城京の北部中央に位置する大内裏(宮城)で、天皇が生活を行う内裏や正庁である朝堂院(八省院)、官衙(かんが。官庁)といった施設が設けられていました。
中でも最重要の施設が大極殿院の中に設置された正殿・大極殿で、天皇の玉座である高御座(たかみくら)を備え、国家の儀式や謁見が行われました。
平城京から恭仁京(くにきょう)に一時遷都する740~745年以前、正門である朱雀門の北には第一次朝堂院と第一次大極殿院が縦に並んでいました。
聖武天皇が恭仁京に遷都すると大極殿なども解体して移設され、平城宮に戻った際には以前の朱雀門・第一次朝堂院・第一次大極殿院の東に隣接して壬生門・第二次朝堂院・第二次大極殿院が築かれました。
上の地図でも第一次と第二次の朝堂院・大極殿院が並んでいる様子が確認できます。
そのような表記があるので拡大・縮小して探してみてください。
平城宮跡は史跡であるわけですが、文化庁は現在、特別史跡平城宮跡保存整備基本構想に基づいて復元事業を進めています。
1998年に朱雀門、2001年に東院庭園、2010年に第一次大極殿が復元され、現在は第一次大極殿院の正門である南門の整備工事が進行中です。
南門は間口約22.1m・奥行約8.8m・高さ約20.0mという朱雀門より少し小さい門で、2017年11月から伝統的な素材や工法を用いて建設が進められており、2022年3月に竣工する予定です。
長らく建設の足場となり、風雨から守る素屋根で覆われていましたが、この9月1日から素屋根のスライドがはじまり、9月下旬にその全貌を現しました。
それが上の動画ですが、大極殿と並んでいる様子も捉えられています。
完成すると南から朱雀門、南門、大極殿が一直線上に並ぶわけですが、さぞ壮観でしょう。
そして南門完成後も第一次大極殿院の回廊、東西楼、内庭広場が順次整備される予定です。
さて、上の地図を見るとわかりますが、朱雀門と第一次朝堂院跡の間を近鉄奈良線が横断しています。
同線が開通した1914年当時、遺跡が未発見であったためですが、世界文化遺産の調査・評価を行っているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)はこの状況を懸念してルートの変更を検討するよう要請しています。
2008年に国営公園として事業化が決まり、2018年に平城宮跡歴史公園が一部開園すると線路の移設が本格的に検討されるようになりました。
2020年7月から奈良県と奈良市、近畿日本鉄道の3者は協議を開始し、今年2021年3月25日、近鉄奈良線の移設を盛り込んだ事業計画を国土交通大臣に提出しました。
その内容ですが、近鉄奈良線を平城宮跡の南を通る大宮通りまで南下させ、さらに大和西大寺駅から近鉄奈良駅間の多くを地下化するというものです。
加えて大和西大寺駅の高架化や新大宮駅の地下化、2つの新駅設置なども盛り込まれており、総工費2,000億円、工事期間2040~60年の20年間という壮大な計画になっています。
まだ計画段階ですが、今年中に3者に国を加えて話し合いがはじまる予定です。
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世界遺産の活動は人類共通の遺産を守ることを目的としています。
基本的には形を変えずに保護・保全していくものですが、平城宮跡のように姿を大きく変えつづけているものも存在します。
もっともICOMOSは現地に残るオリジナルの材料を組み合わせての復元には理解を示していますが、0からの復元には否定的です。
認知度を向上させたり遺跡に対する理解を深めるといった経済的・広報的・教育的な効果は認めつつも、そうした新しい建造物に世界遺産の資産としての価値はありませんし、地中の遺構・遺物にダメージを与えたり、科学的根拠の乏しい推測による再建が懸念されるためです。
バグラティ大聖堂のように、そのような再建を行ったため世界遺産リストから抹消された物件も存在します(詳細はリンクを参照)。
世界遺産も進化しています。
その姿も概念も守り方も変化していくものであるようです。
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