世界遺産NEWS 23/07/18:アメリカが4年半ぶりにUNESCOに復帰
UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)は2018年末に脱退したアメリカが7月10日に復帰したことを発表しました。
これによりUNESCOの加盟国・地域は194か国となりました。
■The United States becomes the 194th Member State of UNESCO(UNESCO)
今回はこのニュースをお伝えします。
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7月10日、アメリカが正式にUNESCOに復帰し、194番目の加盟国・地域となりました。
それ以前の6月29~30日、パリのUNESCO本部で臨時総会が開催され、アメリカの復帰が審議されました。
そして30日の投票で、193の加盟国・地域のうち2/3以上に当たる132の支持票を得て復帰が承認されました。
反対票は10票で、ベラルーシ、ロシア、イラン、インドネシア、北朝鮮、シリア、中国、パレスチナ、ニカラグア、エリトリアによるものです。
中国は「UNESCOがアメリカの覇権を支持した」、ロシアは「西側のイデオロギー的支配を強化することになる」と非難しています。
アメリカは2018年末にイスラエルとともにUNESCOを脱退していますが、それ以前の2011~17年にかけて拠出金の支払いを停止していました。
この未払金6.19億ドルの支払い手続きが完了したことで、正式な復帰となったようです。
近年のUNESCOは予算的に逼迫し、事業・人員・機材とあらゆる面で削減を強いられていました。
しかし、予算の約22%を負担してきたアメリカが復帰することで一息つくことになりそうです。
オードレ・アズレ事務局長は「UNESCOの多国間主義にとってすばらしいニュース」とし、事業の強化を図ることができると歓迎しています。
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そもそもなぜアメリカは脱退していたのでしょうか?
実はアメリカは1984年にもUNESCOを脱退していますが(2003年復帰)、加盟国の政治に介入するその活動をしばしば批判していました。
2011年にパレスチナのUNESCO加盟が決定すると、国家として認めないアメリカとイスラエルは反発して分担金の拠出を凍結しました。
国連(国際連合)加盟については安保理(国際連合安全保障理事会)の承認が必要であることから拒否権を発動できますが、UNESCOには拒否権がないため、賛成107・反対14・棄権52という2/3以上の賛成をもって加盟が承認されました。
パレスチナはその後、アメリカやイスラエルの反対を押し切って世界遺産登録を進めていきます。
2012年に「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」、2014年に「パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観」が緊急的登録推薦という例外的な方法で登録されました。
この2件について、世界遺産条約の諮問機関であり文化遺産の専門的組織であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)が顕著な普遍的価値も緊急性も確認できないということで不登録を勧告しましたが、逆転で登録が決定しました。
2017年に登録された「ヘブロン/アル・ハリル旧市街」も緊急的登録推薦で、この地がユダヤ教にとってもきわめて重要な聖地であったことから、イスラエルはICOMOS調査団の入国さえ拒否しました。
それでも世界遺産委員会は登録の決議を下しました。
これら以外にもイスラエルはエルサレムに対する過剰な開発や分離壁の建設といった侵略的行為のためしばしば非難決議を受けています。
こうした動きを受けてイスラエルとアメリカは2017年に脱退を表明し、2018年末に脱退しました。
この辺りの詳細については最後にリンクを張った関連記事を参照ください。
今回のアメリカの復帰ですが、国連の各機関で中国がプレゼンスを強めているためといわれています。
一部の報道では、特にAIとEdTech(エドテック。科学技術の教育分野における活用)の分野でスタンダードを取られる懸念のためとしています。
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結局、アメリカはUNESCOの政治的性格を嫌って脱退を繰り返し、政治的意図をもって復帰したということであるようです。
各国が自国の利益を追求するのは当たり前だし、それぞれが政治的意図を持っているのも当然です。
そんな中での国際機関であるわけですが、「教育・科学・文化」を掲げ、拒否権のないUNESCOだからこそできることがあるはずで、その機能と役割に期待したいところです。
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