世界遺産NEWS 22/09/11:モンスーンの大雨でモヘンジョダロが損壊
ヨーロッパが大旱魃に襲われている一方で、パキスタンは全土の約1/3が浸水し、3,300万人が被害を受けたといわれるほどの大洪水に見舞われています。
原因はモンスーン(季節風)による豪雨と氷河の融解と見られていますが、この雨によって世界遺産「モヘンジョダロの考古遺跡群」では壁が崩れるなどの深刻な被害を出しています。
■Pakistan’s monsoon rains threaten world heritage site of Mohenjo-daro(The Guardian)
今回はこのニュースをお伝えします。
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パキスタンは地球規模の気候変動の影響がもっとも大きく現れている国のひとつといわれています。
20世紀末から気温の上昇と降水量の増加に直面しており、近年では2010年、2015年、2017年にもモンスーンがもたらした豪雨と大洪水に見舞われています。
今年5~6月、パキスタン南部を記録的な熱波が襲いました。
この熱によってモンスーンに伴う熱帯低気圧が異常に発達し、6月中旬頃から大雨が続くようになりました。
特に南部のシンド州では8月の8~14日に1,400mm以上、16~26日には780mm以上という記録的な雨が降りました。
こうした雨に加えて気温上昇による氷河や万年雪の融解が重なり、パキスタン中央部を流れるインダス川の水位が急上昇して各地で洪水が頻発。
パキスタン最大の湖であるマンチャール湖が決壊し、周囲数百kmが水没しました。
パキスタン政府は8月25日に非常事態を宣言しています。
こうした洪水によってシンド州と西に隣接するバルーチスターン州を中心に国土の1/3が浸水し、6,500km以上の道路と250本以上の橋が破壊されたと報道されています。
人的被害については、160万棟以上の家屋が倒壊し、3,300万人に影響を与え、1,300人以上の犠牲者を出しています。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は9月9日にパキスタンを訪問し、首都イスラマバードで会見を行って被害額が300億ドル(約4兆2,800億円)に上ることを発表し、国際社会に大規模な支援を呼び掛けています。
すでにUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やUNICEF(ユニセフ=国際連合児童基金)、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)などによる緊急援助が開始されています。
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8月の豪雨はシンド州にある世界遺産「モヘンジョダロの考古遺跡群」にも深刻な影響を与えています。
モヘンジョダロは紀元前2500~前1500年前後に栄えたインダス文明の都市遺跡です。
碁盤の目状に整備された町の中に道路や貯水池・上下水道・井戸・ゴミ収集所・ガート(階段)といったインフラ施設や、浴室やトイレ・キッチンを備えた住居が連なっており、古代のものとはとても思えない高度な文化が見て取れます。
しかし、今回の豪雨で道路や家々の壁、ランドマークとなっているクシャーナ朝時代のストゥーパの土台などが損壊し、一部は崩壊してしまいました。
こうした壁は焼成レンガや日干しレンガで築かれており、長年の劣化や塩害のため脆くなっていて、もともと水に弱い素材でもあります。
長期にわたる豪雨によって大きなダメージを受けており、遺跡内部に水が貯まって崩壊を促しています。
このため遺跡の学芸員や地元の人々が一部を崩して排水作業を行いました。
この排水に古代の下水道が非常に役立っているそうです。
モヘンジョダロが数度の洪水に見舞われたことは確認されているのですが、こうした水害も織り込んで都市設計されているのかもしれません。
モヘンジョダロに洪水は到達していませんが、遺跡を観光する際に拠点となる近郊のラルカナの町は一部浸水しています。
雨はまだ続いているということなので心配です。
同じシンド州の世界遺産「タッタとマクリの歴史的建造物群」や世界遺産暫定リストに記載されているバルーチスターン州の「カレーズ・システムの文化的景観」でも被害が確認されています。
世界遺産ではありませんが、コト・ディジの遺跡は水没し、ラニコートやシャヒィ・マハルをはじめ、ほぼすべての遺跡が影響を受けているようです。
UNESCOは懸念を表明し、洪水で被害を受けたふたつの世界遺産の復旧と予防措置のために15万ドル、その他の文化遺産に20万ドル、計35万ドル(約5,000万円)を緊急拠出することを発表しました。
すでにポンプによる排水や壁の修復、一帯を覆う土砂の除去といった復旧作業が開始されています。
1922年に発見されたモヘンジョダロは今年、発見から100周年を迎えています。
11月にフランスのパリで100周年記念行事を行う予定ですが、救済キャンペーンとする方針であるそうです。
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