世界遺産NEWS 15/07/29:宗像・沖ノ島、世界遺産へ推薦決定
文化庁文化審議会の特別委員会は7月28日、2017年の世界遺産委員会に推薦する候補物件を「宗像(むなかた)・沖ノ島(おきのしま)と関連遺産群」に決定しました。
現在、世界遺産の推薦は各国2件までに限られており、2件の場合、1件は自然遺産か文化的景観でなければなりません。
2017年の文化遺産の推薦に関して文化審議会が4月に以下4件に絞っていましたが、この中から選ばれた形です。
関係者の皆さん、おめでとうございます!
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北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群(北海道、青森県、秋田県、岩手県)
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金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟県)
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百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群(大阪府)
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宗像・沖ノ島と関連遺産群(福岡県)
今後の予定ですが、今年9月までにUNESCO(国際連合教育科学文化機関)に暫定版推薦書を、2016年2月1日までに正式な推薦書を提出する予定です。
そして2016年の夏~秋にかけてICOMOS(国際記念物遺跡会議)が現地調査を含む調査を行い、2017年の4~5月に4段階の評価とその理由からなる報告書を作成します。
それを参考に、2017年夏の第41回世界遺産委員会で登録の可否が決定します。
ちなみに、来年2016年については「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」と「ル・コルビュジエの建築作品 - 近代化運動への顕著な貢献」の国立西洋美術館本館の推薦書がすでに提出済みとなっており、今年の夏にICOMOSの現地調査を受ける予定です。
この物件の内容を簡単に紹介しておきましょう。
宗像大社は全国の宗像神社や厳島神社の総本山で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が須佐之男命(すさのおのみこと)の持つ十束剣(とつかのつるぎ)から産み出した「宗像三女神」を祀る神社です。
三人の女神は道主貴(みちぬしのむち)とも呼ばれる道の神で、大陸に近いことから日本を守り導く神様として重要視されました。
市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)は辺津宮(へつぐう)、湍津姫神(たぎつひめのかみ)は中津宮(なかつぐう)、田心姫神(たごりひめのかみ)は沖津宮(おきつぐう)に祀られており、これら三つの宮を総称して「宗像大社」と呼びます。
一般に宗像大社と呼ばれているのは本社である辺津宮です。
本殿は1578年に建てられた五間社流造の建物で、安土桃山時代の優雅で流麗な姿を伝えています。
高宮祭場は三女神降臨の地とされています。
辺津宮の北西11kmに位置する大島に建てられたのが中津宮です。
辺津宮と向かい合わせに建っており、七夕発祥の地とされています。
大島の北西49kmに浮かぶ沖ノ島に建つのが沖津宮です。
沖ノ島は立入禁止の神域で、5月27日の大祭にのみ人数限定・女人禁制で入島が認められています。
4世紀から祭祀が行われており、鏡・勾玉・馬具や朝鮮の金製指輪・中国の唐三彩・ペルシアのカットグラスなど国内外の奉納品約8万点が出土していることから「海の正倉院」の異名を持っています。
これらに加えて新原・奴山(しんばる・ぬやま)古墳群が構成資産に含まれています。
この古墳群は宗像神社を守り伝えた宗像氏の墳墓群で、海に面した台地上に建ち、5~6世紀の文化と信仰を伝えています。
沖ノ島については以下の動画も参照してみてください。
自治体が文化庁に提出した「世界遺産暫定一覧表記載資産 準備状況報告書」から重要と思われる部分を抜粋してみましょう。
■資産名称
宗像・沖ノ島と関連遺産群
■所在地
福岡県宗像市ならびに福津市
■構成資産
- 沖ノ島(宗像大社沖津宮)
- 沖津宮遙拝所
- 宗像大社中津宮
- 宗像大社辺津宮
- 新原・奴山古墳群
※2016年1月の正式推薦にあたって構成資産が変更されています。詳細は続報である記事「世界遺産NEWS 16/01/20:沖ノ島 世界遺産推薦&紀伊山地 追加提案へ」を参照ください
■資産の概要
本資産は、海に生きた人々による聖なる島に対する信仰が、対外交流の展開の中で自然崇拝から発展してきた過程を古代から現在まで継続的に示す物証として、他に例を見ない顕著で普遍的な価値を有する信仰の資産である。構成資産は、沖ノ島(宗像大社沖津宮)と、大島の沖津宮遙拝所及び宗像大社中津宮、九州本島の宗像大社辺津宮、新原・奴山古墳群から成り、古代から続く海との一体性をもった広大な信仰空間を構成している。4世紀後半、日本列島と大陸との対外交流の舞台となった海域に位置する沖ノ島において、航海の安全を願いおびただしい量の貴重な品々が捧げられ、自然崇拝を背景とした祭祀が行われるようになった。政治や社会、信仰など古代の国家や地域の発展に貢献した交流の航路の守り神として、沖ノ島の神に対する信仰は発展していった。沖ノ島の巨岩群においては、古代国家の成立期をも含む約500年という長期にわたる祭祀の変遷を伝える古代祭祀遺跡が残されている。また、沖ノ島祭祀を奉斎した氏族によって沖ノ島とその海域を遥かに望む台地上に築かれた新原・奴山古墳群は、海との一体性をもつ広大な信仰空間を形成し、海に生きた人々の信仰の発展を伝えている。さらに、沖ノ島に対する信仰は、宗像三女神を祀る宗像大社沖津宮・中津宮・辺津宮へと発展する。沖ノ島、大島、九州本土と島伝いに展開する信仰の場からなる宗像大社は、海との一体性をもった信仰空間を現代に受け継いでいる。
■登録基準の適用
〇評価基準( iii )
本資産では、聖なる島沖ノ島を中心として、海に生きた人々による信仰が一体的な信仰空間とともに古代以来発展してきた過程を継続的にみることができる。日本列島と大陸との対外交流の舞台となった海域に位置し、自然崇拝を背景とした信仰が生まれた沖ノ島には、巨岩群周辺に4世紀後半から約500 年間に及ぶ突出した規模の古代祭祀遺跡が残され、やがて神を祀る社殿が築かれた。また、沖ノ島とその海域を遥かに望む陸地においては、海との一体性をもつ広大な信仰空間が形成された。5~6世紀には入海に面した古墳群が築かれ、7世紀には、沖ノ島に対する信仰が発展して生まれた宗像三女神を祀る宗像大社の三つの信仰の場が形成される。そして宗像大社沖津宮・中津宮・辺津宮からなる海との一体性をもった信仰空間は、現代まで受け継がれてきた。そこでは、自然崇拝に根差した海に生きた人々による信仰の発展過程を、対外交流や国家、地域の展開とともに連続的にみることができる。本資産は、海に生きた人々による聖なる島沖ノ島を中心とする信仰という文化的伝統の物証として無二の存在である。
〇評価基準( ii )
本資産は、対外交流とともに発展した海に生きた人々による信仰の資産である。古代日本の中心部と大陸との間の海を越えた交流の重要性が、その舞台となった海に生きた人々による神宿る島に対する信仰を特別なものに変えた。新たな文化や優れた品々を日本列島にもたらしたその交流は、中央集権国家の成立に代表されるように政治や社会、信仰などあらゆる面の発展に貢献し、宗像地域もそれとともに変化・発展していった。本資産における自然崇拝に根差した信仰の発展は、こうした古代の対外交流に影響を受けた国家や地域の展開と並行するものである。また沖ノ島には当時高い価値をもった大陸からの品々が数多く奉献されており、それら祭祀遺物の変遷には、各時期の対外交流の展開が反映されている。本資産にみられる、対外交流の舞台となった海の守り神に対する信仰の発展は、当時の海を越えた価値観の交流を表象するものである。
〇評価基準( vi )
本資産における信仰は、海に生きる宗像地域の人々によって支えられ、沖ノ島を守り続けてきた禁忌や継続する祭祀など、地域に根差した生きた伝統として現在も息づいている。本資産は、遥かな古代の沖ノ島に対する信仰から現在の宗像大社に至るまで途切れることのない、海に生きる人々の信仰の継続性とそれを支える生きた伝統を示す稀有な資産である。
「宗像・沖ノ島と関連遺産群」以外の3件については保存などに課題があるとのことですが、来年・再来年としばらくは毎年世界遺産を目指す物件が出てきそうです。
自然遺産については「琉球・奄美」が世界遺産暫定リストへの記載を目指していますが、なかなか実現していません。
進展がありましたらまた報告します。
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