世界遺産NEWS 19/05/24:2020年の世界遺産候補地
2020年夏に開催される第44回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録を目指す世界遺産候補地のリストが公表されました。
今回はこのリストを紹介します。
※2020年11月3日追記
第44回世界遺産委員会は1年ずらして2021年6~7月に中国・福州で開催されることに決まりました。
※2021年4月22日追記
第44回世界遺産委員会は2021年7月16~31日にオンラインで行われることになりました。また、第45回は2022年6~7月にロシアのカザンで開催されることに決まりました。
※2021年6月7日追記
1年間延期された結果、第44回世界遺産委員会では第45回への推薦分まで、つまり2年分の推薦物件の審議を行うことになりました。これらのリストと勧告結果は下記の記事で紹介しています。
■世界遺産NEWS 21/06/07:2021年の世界遺産候補地と勧告結果
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簡単にこのリストの概要を解説しておきましょう。
毎年書いているので不要でしたらパスしてください。
まだ2019年の世界遺産委員会もはじまっていないのに、なぜ2020年の世界遺産候補地のリストが公表されているのでしょうか?
世界遺産リストに物件を登録するためには、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターに登録推薦書を送らなければなりません。
2020年の登録を目指す場合2019年2月1日が〆切で、本リストはその時点で立候補の表明があった物件ということになります。
ただし、前年の世界遺産委員会に推薦されていてスライドされた物件や、以前の世界遺産委員会で「情報照会」の決議を受けた物件(3年以内に情報を提出した場合は再審査が可能)、緊急的登録推薦(明確に顕著な普遍的価値を持ち、危機的状況にある物件の例外的な緊急推薦)の物件が入ってきたりすることがあるため、このリスト外から審議される物件もあったりします。
また、毎年書類の不備等から審査に及ばない物件や、推薦を取り下げる物件も相当数出てきます。
第44回世界遺産委員会までの日程は以下のようになっています。
なお、世界遺産委員会の諮問機関であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は文化遺産、IUCN(国際自然保護連合)は自然遺産、複合遺産は両組織が調査・評価を行います。
○2019
- 2月1日:登録推薦書の提出期限
- 夏以降:ICOMOS、IUCNが現地調査を含む専門調査を実施
○2020年
- 4~5月:ICOMOS、IUCNが評価報告書を世界遺産センターに提出
- 6~7月:評価報告書を参考に第44回世界遺産委員会で登録可否を決定
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日本からは自然遺産候補地として「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(鹿児島・沖縄)」が推薦されています。
奄美大島と徳之島の奄美群島国立公園、沖縄島のやんばる国立公園、西表島の西表石垣国立公園からなる物件です。
この物件は2018年の世界遺産登録を目指して2017年に一度推薦されていますが、IUCN(国際自然保護連合)の勧告が「登録延期」と芳しくなく、指摘の内容も簡単にクリアできるものではなかったことから2018年6月に推薦を取り下げました。
今回はそのリベンジになります。
前回の経緯については以下の記事を参照ください(さらに関連記事がリンクされています)。
■世界遺産NEWS 18/06/06:「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」推薦取り下げを決定
環境省の報道資料より概要と構成資産を抜粋しましょう。
<「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」遺産概要>
日本列島の南端部に、約1,200kmにわたって弧状に点在する琉球列島の一部であり、鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県の沖縄島北部と西表島の4つの地域から構成される。
○登録基準(x)
島の成り立ちを反映した独自の生物進化を背景とした、国際的にも希少な固有種に代表される生物多様性保全上重要な地域である。
推薦地は、イリオモテヤマネコ(CR)、アマミノクロウサギ(EN)、ヤンバルクイナ(EN)など、IUCN のレッドリストの絶滅危惧種95 種(そのうち75 種は固有種)を含む陸生動植物の生息・生育地である。
また、その地史を反映し遺存固有種と新固有種の多様な事例がみられ、世界的にみても生物多様性の生息域内保全にとって極めて重要な自然の生息・生育地を包含した地域となっている。
※CR=絶滅寸前種、EN=絶滅危惧種
○構成資産
奄美大島:資産11,640ha(奄美市、大和村、宇検村、瀬戸内町、龍郷町)
徳之島:資産2,515ha(徳之島町、天城町、伊仙町)
沖縄島北部:資産7,721ha(国頭村、大宜味村、東村)
西表島:資産20,822ha(竹富町)
今回はじめてとなる世界遺産登録に挑戦するのがルワンダです。
物件は「虐殺記念サイト:ニヤマタ、ムランビ、ギソチ、ビセセロ」で、昨年も紹介したのですが、いったん推薦を取り下げて今年の推薦に持ち越したようです。
数十万といわれる犠牲者を出した1994年のルワンダ虐殺の4つの記念館を構成資産としています。
世界遺産の最多保有国であるイタリアは今回も2件の推薦です。
第2位の中国は珍しく推薦がありません※。
中国は今世紀に入ってから2002年以外は毎年推薦どころか登録があるので、非常に珍しいことです。
※2019/07/08追記
第43回世界遺産委員会の結果、中国がイタリアと並んで世界遺産登録数首位に躍り出ています。
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それでは2020年の世界遺産候補地29件(範囲変更2件含)のリストです。
内容は、文化遺産23件、自然遺産5件、複合遺産1件となっています。
順番は文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれヨーロッパ→アジア→オセアニア→北米→南米→アフリカ、さらに国別五十音順です。
日本語名は私が適当に訳したものです。
勘違い等あるかもしれませんがご容赦ください。
正式な推薦名称は英語の表記になります。
名称や登録基準は今後変わる可能性があります。
★2020年に世界遺産登録を目指す物件一覧表
<文化遺産23件>
■ヨーロッパのグレート・スパ
The Great Spas of Europe
イギリス/イタリア/オーストリア/チェコ/ドイツ/フランス/ベルギー共通、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■絵画の町パドヴァ、ジョットによるスクロヴェーニ礼拝堂とパドヴァの14世紀のフレスコ・サイクル
Padova Urbs picta, Giotto’s Scrovegni Chapel and Padua’s fourteenth-century fresco cycles
イタリア、文化遺産(i)(ii)(iii)
■オランダのウオーター・ディフェンス・ライン
※世界遺産「アムステルダムのディフェンス・ライン」の範囲拡大
Dutch Water Defence Lines
オランダ、文化遺産(ii)(iv)(v)
■スピナロンガの要塞
Fortress of Spinalonga
ギリシア、文化遺産(iv)(vi)
■プラド通りとブエン・レティーロ、芸術と科学の景観
Paseo del Prado and Buen Retiro, a landscape of Arts and Sciences
スペイン、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■ダルムシュタットのマティルデンヘーエ
Mathildenhöhe Darmstadt
ドイツ、文化遺産(ii)(iv)
■アルスランテペの古墳
Arslantepe Mound
トルコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)
■コルドゥアン灯台
Le phare de Cordouan
フランス、文化遺産(i)(iv)
■グダニスク造船所-「連帯」誕生地と東・中欧における共産主義没落の象徴
The Gdańsk Shipyard – the birthplace of “Solidarity” and the symbol of the fall of Communism in East-Central Europe
ポーランド、文化遺産(iv)(vi)
■イラン横断鉄道
Trans-Iranian Railway
イラン、文化遺産(ii)(iv)
■栄光のカカティーヤ朝寺院群と関門-ルドレシュワラ[ラマッパ]寺院、パランペット、ジャヤシャンカール・ブーパルパリー地区、テランガーナ州
The Glorious Kakatiya Temples and Gateways – Rudreshwara (Ramappa) Temple, Palampet, Jayashankar Bhupalpally District, Telangana State
インド、文化遺産(i)(ii)(iii)
■ヒマ・ナジランの文化的ロックアート
Cultural Rock Arts in Himã Najrãn
サウジアラビア、文化遺産(i)(ii)(iii)(v)
■クルブの中世都市
Medieval Town of Khulbuk
タジキスタン、文化遺産(ii)(iii)
■バンボールの港
Port of Banbhore
パキスタン、文化遺産(i)(ii)(iii)
■鹿石の記念物群と関連遺跡、青銅器文化の核心
Deer Stone Monuments and Related Sites, the Heart of Bronze Age Culture
モンゴル、文化遺産(i)(iii)(iv)
■サルト:寛容と都市的歓待の地
As-Salt: The Place of Tolerance and Urban Hospitality
ヨルダン、文化遺産(ii)(iii)
■ラ・イサベラの歴史的考古学的遺跡
Historical and Archaeological Site of La Isabela
ドミニカ共和国、文化遺産(ii)(v)
■トラスカラの修道院と聖母被昇天大聖堂のフランシスコ会建造物群
※世界遺産「ポポカテペトル山腹の16世紀初頭の修道院群」の範囲と登録基準の拡大
Franciscan Ensemble of the Monastery and Cathedral of Our Lady of the Assumption, Tlaxcala
メキシコ、文化遺産(ii)(iv)(vi)
■工学者エラディオ・ディエステの作品:アトランティーダ教会
L’oeuvre de l’ingénieur Eladio Dieste : église d’Atlántida
ウルグアイ、文化遺産(iv)
■ホベルト・ブーレ・マルクスの地
Sítio Roberto Burle Marx
ブラジル、文化遺産(ii)(iv)
■チャンキヨの太陽観測所と儀礼センター
Chankillo Solar Observatory and ceremonial center
ペルー、文化遺産(i)(v)
■ディレ・シェイク・フセインの宗教的文化的歴史的遺跡
Dirre Sheikh Hussein Religious, Cultural and Historical Site
エチオピア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
■虐殺記念サイト:ニヤマタ、ムランビ、ギソチ、ビセセロ
Sites mémoriaux du génocide : Nyamata, Murambi, Gisozi et Bisesero
ルワンダ、文化遺産(iii)(vi)
ブラジルの世界遺産候補地「レンソイス・マラニャンセス国立公園」の絶景
<自然遺産5件>
■クラシカル・カルスト
Classical Karst
スロベニア、自然遺産(vii)(viii)(ix)(x)
■コルチックの雨林と湿地
Colchic Rainforests and Wetlands
ジョージア、自然遺産(ix)(x)
■ゲッボル、韓国の干潟
Getbol, Korean Tidal Flat
韓国、自然遺産(viii)(ix)(x)
■奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島
Amami-Oshima Island, Tokunoshima Island, Northern part of Okinawa Island, and Iriomote Island
日本、自然遺産(x)
■レンソイス・マラニャンセス国立公園
Lençóis Maranhenses National Park
ブラジル、自然遺産(vii)(viii)(x)
<複合遺産1件>
■ホルカ・ソフ・オマール:自然・文化遺産[ソフ・オマール:神秘の洞窟群]
Holqa Sof Umar: Natural and Cultural Heritage (Sof Umar: Caves of Mystery)
エチオピア、複合遺産(iii)(v)(vi)(vii)(viii)
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先述したように、第44回世界遺産委員会では第45回への推薦分も含めた2年分の推薦物件の審議を行うことになりました。
2年分のリストと勧告結果は記事「世界遺産NEWS 21/06/07:2021年の世界遺産候補地と勧告結果」で紹介しています。
[関連記事]
※いずれもさらに過去の関連記事へリンクあり
世界遺産NEWS 20/04/23:第44回世界遺産委員会の延期が決定(続報)
世界遺産NEWS 20/11/05:第44回世界遺産委員会、2021年6~7月開催へ(続々報)
世界遺産NEWS 21/06/07:2021年の世界遺産候補地と勧告結果(続々々報)
世界遺産NEWS 21/07/29:速報! 2021年新登録の世界遺産!!(結果)
世界遺産NEWS 21/07/02:2022年の世界遺産候補地(翌年の世界遺産候補地)
世界遺産NEWS 19/01/25:奄美・沖縄2020年、縄文遺跡群2021年の登録を目指し推薦へ
世界遺産NEWS 18/05/20:2019年の世界遺産候補地(前年の世界遺産候補地)