世界遺産NEWS 18/03/21:奄美大島でノネコ減少計画をスタート
今年の6月24日~7月4日、バーレーンのマナマにて開催される第42回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録可否が決まる沖縄県と鹿児島県の「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」ですが、奄美大島では4月からノネコ(野猫)の数を減らすプロジェクトを始動させるということです。
■「ノネコが希少種を襲う」退治に本腰 引き取り手なければ安楽死も(西日本新聞)
今回はこのニュースをお伝えします。
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いずれの世界自然遺産でも多かれ少なかれ外来種が問題になっています。
飛行機や船で世界中が結ばれ、自動車や電車で行けない場所はほとんどありませんから、仕方ないことなのかもしれません。
人間の居住地に近い自然遺産で必ずと言っていいほど問題になるのが農作物や家畜・ペットの問題です。
多くの場合、それらはもともとその国・その地方に生息していたものではありませんから、野生化した場合、外来種問題を引き起こしてしまうことになるわけです。
その中でもネコは数が多く、生命力・繁殖力ともに強いということで問題になりがちな生き物です。
実際にオーストラリアの世界遺産「ロード・ハウ諸島」やエクアドルの「ガラパゴス諸島」、日本の「小笠原諸島」をはじめ、多くの自然遺産で問題になっています。
特にネコが島で繁殖すると、天敵がいない状態で生態系の頂点に君臨して爆発的に増えることがあります。
その結果、小笠原諸島ではアカガシラカラスバト、奄美大島や徳之島ではアマミノクロウサギやケナガネズミなどの希少種が狩られて激減するという事態が発生しています。
ノネコに襲われるケナガネズミ。徳之島にて
特に被害が深刻なのがアマミノクロウサギです。
アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島の2島にのみ生息する固有種で、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧種(Endangered)の指定を受けています。
環境省のデータによると、生息数は奄美大島で2,000~4,800頭、徳之島で約200頭と見積もられています(2003年と少し古いデータです)。
これに対して、上の記事では奄美大島に生息するイエネコ(家猫。飼いネコ)が4,000~5,000匹、ノラネコ(野良猫。町で人に依存して生活するネコ)が10,000匹、ノネコ(野猫。山などで野生化したネコ)が600~1,200匹としています。
別の資料によると、徳之島のイエネコは500匹以上、ノラネコは2,000~3,000匹、ノネコは150~200匹となっています。
ノネコの糞の成分の65%がアマミノクロウサギを含む希少種だったとする研究結果があり、ノネコ1匹あたり年間40匹前後のアマミノクロウサギを捕食するという仮説もあったりします(確認されているネコ被害によるアマミノクロウサギの死体自体はそれほど多く発見されてはいないようです)。
アマミノクロウサギとノネコの数を見ると、対策を急がなければならないことがわかります。
イエネコに対しては、両島とも登録を義務化し、避妊や去勢、マイクロチップの埋め込みなどを助成しており、奄美大島では2017年10月にチップの埋め込みを義務化しています。
徳之島では2014年に「徳之島ごとさくらねこ一斉TNRプロジェクト」が始動しており、すでにノラネコやノネコの捕獲・収容が行われています。
プロジェクト名のTNRは "Trap"(罠による捕獲)、"Neuter"(中性化手術。去勢手術)、"Return" (放出。元に戻す)の頭文字で、ノラネコやノネコ約3,000匹の全頭を捕まえて不妊手術を施し、元の場所に戻すというプロジェクトです。
これまでに延べ3,000匹以上が不妊手術を受け、95%以上のネコが手術済みで、2016~17年にかけてネコによるアマミノクロウサギの被害は確認されていないとしています。
詳細は、主催する「どうぶつ基金」へリンクを張ったので確認してみてください。
徳之島ごとさくらねこ一斉TNRプロジェクト
今回発表された奄美大島のプロジェクトは環境省と自治体が10年間の管理計画を策定して行うもので、特に重要な地域で年間300~360匹を目標にノネコを捕獲し、1週間収容したのち、引き取り手が見つからなければ安楽死させるとしています。
TNRを行わない理由はわかりませんが、TNRではネコを戻しますし、ネコの数がすぐには減らないので即効性がなかったり、島の面積が徳之島の2.87倍もあるので実効性に乏しいといったことなのかもしれません。
こうした対策には批判も少なくないようです。
安楽死にしても去勢にしても倫理的な問題は回避できませんし、もともとネコは人間の都合で持ち込んだものですから。
たまたま世界遺産が絡んだためこうした対策が急がれることになりましたが、ノネコ・ノラネコはいずれの地方でも問題になっています。
そういう意味で、誰にとっても非常に身近な問題であるはずです。
[関連サイト&記事]
徳之島ごとさくらねこTNRプロジェクト総括(どうぶつ基金)
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