世界遺産NEWS 16/01/20:沖ノ島 世界遺産推薦&紀伊山地 追加提案へ
1月14日、政府は外務省で世界遺産条約関係省庁連絡会議を開催して下記2件を了承し、翌日閣議了解されて正式に決定されました。
- 2017年の世界遺産委員会に「宗像(むなかた)・沖ノ島(おきのしま)と関連遺産群」を推薦する
- 2016年の世界遺産委員会で、すでに世界遺産に登録されている「紀伊山地の霊場と参詣道」に22件の追加提案を行う
今回はこれらの内容について報告します。
* * *
まず、2017年に開催される第41回世界遺産委員会に「宗像・沖ノ島と関連遺産群」を推薦することが決まりました。
政府は今月中に推薦書を作成し、外務省を通じてUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)に送付する予定です。
今後の日程は以下となっています。
- 2月1日まで:登録推薦書をUNESCO世界遺産センターに送付
- 2016年夏~秋:ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議が現地調査)が現地調査
- 2017年春:ICOMOSが評価報告書を発表
- 2017年夏:評価報告書をもとに第41回世界遺産委員会で登録の可否が決定
昨年夏の時点で内定は出ており、5件の構成資産が決まっていました(後述)。
今回暫定推薦書を精査したした結果、これまでの構成資産に以下の3件が追加されました。
- 小屋島(こやじま)
- 御門柱(みかどばしら)
- 天狗岩(てんぐいわ)
この3件は沖ノ島の南1kmほどに並んだ島々で、日本列島と沖ノ島の間に位置し、ご神体とされる沖ノ島の門や鳥居のような役割をしていました。
下のGoogleマップでも沖ノ島の下に小さな島々が見えますが、いちばん大きな島が小屋島、その右の上の岩礁が天狗岩、下が御門柱です。
以前も掲載しましたが、自治体が文化庁に提出した「世界遺産暫定一覧表記載資産 準備状況報告書」から重要と思われる部分を抜粋してみます。
■資産名称
宗像・沖ノ島と関連遺産群
■所在地
福岡県宗像市ならびに福津市
■構成資産
- 沖ノ島(宗像大社沖津宮)
- 沖津宮遙拝所
- 宗像大社中津宮
- 宗像大社辺津宮
- 新原・奴山古墳群
- 小屋島
- 御門柱
- 天狗岩
■資産の概要
本資産は、海に生きた人々による聖なる島に対する信仰が、対外交流の展開の中で自然崇拝から発展してきた過程を古代から現在まで継続的に示す物証として、他に例を見ない顕著で普遍的な価値を有する信仰の資産である。構成資産は、沖ノ島(宗像大社沖津宮)と、大島の沖津宮遙拝所及び宗像大社中津宮、九州本島の宗像大社辺津宮、新原・奴山古墳群から成り、古代から続く海との一体性をもった広大な信仰空間を構成している。4世紀後半、日本列島と大陸との対外交流の舞台となった海域に位置する沖ノ島において、航海の安全を願いおびただしい量の貴重な品々が捧げられ、自然崇拝を背景とした祭祀が行われるようになった。政治や社会、信仰など古代の国家や地域の発展に貢献した交流の航路の守り神として、沖ノ島の神に対する信仰は発展していった。沖ノ島の巨岩群においては、古代国家の成立期をも含む約500年という長期にわたる祭祀の変遷を伝える古代祭祀遺跡が残されている。また、沖ノ島祭祀を奉斎した氏族によって沖ノ島とその海域を遥かに望む台地上に築かれた新原・奴山古墳群は、海との一体性をもつ広大な信仰空間を形成し、海に生きた人々の信仰の発展を伝えている。さらに、沖ノ島に対する信仰は、宗像三女神を祀る宗像大社沖津宮・中津宮・辺津宮へと発展する。沖ノ島、大島、九州本土と島伝いに展開する信仰の場からなる宗像大社は、海との一体性をもった信仰空間を現代に受け継いでいる。
■登録基準の適用
〇評価基準( ii )
本資産は、対外交流とともに発展した海に生きた人々による信仰の資産である。古代日本の中心部と大陸との間の海を越えた交流の重要性が、その舞台となった海に生きた人々による神宿る島に対する信仰を特別なものに変えた。新たな文化や優れた品々を日本列島にもたらしたその交流は、中央集権国家の成立に代表されるように政治や社会、信仰などあらゆる面の発展に貢献し、宗像地域もそれとともに変化・発展していった。本資産における自然崇拝に根差した信仰の発展は、こうした古代の対外交流に影響を受けた国家や地域の展開と並行するものである。また沖ノ島には当時高い価値をもった大陸からの品々が数多く奉献されており、それら祭祀遺物の変遷には、各時期の対外交流の展開が反映されている。本資産にみられる、対外交流の舞台となった海の守り神に対する信仰の発展は、当時の海を越えた価値観の交流を表象するものである。
〇評価基準( iii )
本資産では、聖なる島沖ノ島を中心として、海に生きた人々による信仰が一体的な信仰空間とともに古代以来発展してきた過程を継続的にみることができる。日本列島と大陸との対外交流の舞台となった海域に位置し、自然崇拝を背景とした信仰が生まれた沖ノ島には、巨岩群周辺に4世紀後半から約500 年間に及ぶ突出した規模の古代祭祀遺跡が残され、やがて神を祀る社殿が築かれた。また、沖ノ島とその海域を遥かに望む陸地においては、海との一体性をもつ広大な信仰空間が形成された。5~6世紀には入海に面した古墳群が築かれ、7世紀には、沖ノ島に対する信仰が発展して生まれた宗像三女神を祀る宗像大社の三つの信仰の場が形成される。そして宗像大社沖津宮・中津宮・辺津宮からなる海との一体性をもった信仰空間は、現代まで受け継がれてきた。そこでは、自然崇拝に根差した海に生きた人々による信仰の発展過程を、対外交流や国家、地域の展開とともに連続的にみることができる。本資産は、海に生きた人々による聖なる島沖ノ島を中心とする信仰という文化的伝統の物証として無二の存在である。
〇評価基準( vi )
本資産における信仰は、海に生きる宗像地域の人々によって支えられ、沖ノ島を守り続けてきた禁忌や継続する祭祀など、地域に根差した生きた伝統として現在も息づいている。本資産は、遥かな古代の沖ノ島に対する信仰から現在の宗像大社に至るまで途切れることのない、海に生きる人々の信仰の継続性とそれを支える生きた伝統を示す稀有な資産である。
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また、2004年に世界遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」について、和歌山県の22の物件の追加提案が行われることになりました。
こちらは今年の夏にトルコのイスタンブールで開催される第40回世界遺産委員会で追加の可否が決まる予定です。
22件は2004年の世界遺産登録には調査が間に合わなかったり、管理者の同意が得られなかった場所が中心になっています。
これらの追加がすべて認められた場合、世界遺産登録の参詣道307.6kmは、40.1km追加されて347.7kmに延長されます。
追加予定の提案資産は以下となっています。
■熊野参詣道 中辺路
北郡越、長尾坂、潮見峠越、赤木越、小狗子峠、かけぬけ道、八上王子跡、稲葉根王子跡、阿須賀王子跡
■熊野参詣道 大辺路
富田坂、タオの峠、新田平見道、富山平見道、飛渡谷道、清水峠、二河峠、駿田峠、闘鶏神社
■高野参詣道
三谷坂(丹生酒殿神社等)、京大坂道不動坂、黒河道、女人道
今回の追加は登録範囲の「軽微な変更」というもので、「重大な変更」、いわゆる「拡大登録」ではありません。
拡大登録の場合は新しい世界遺産の登録と同様に、世界遺産委員会の場で普遍的価値の証明を行わなければなりません。
でも「軽微な変更」の場合は、すでに登録されている世界遺産と同様の価値を持つものと認められるので、承認だけで済むのです。
日本の世界遺産では過去「石見銀山遺跡とその文化的景観」が適用を受けています。
「世界遺産条約履行のための作業指針」の第163条以降に規定があるので抜粋しましょう。
■登録範囲の軽微な変更
163. 軽微な変更とは、資産の範囲に重大な影響を及ぼさず、その顕著な普遍的価値に影響を与えない変更のことをいう。
164. 締約国が世界遺産一覧表にすでに登録されている資産の境界線に関する軽微な変更を要望する場合は、2 月1 日までに事務局を通じて委員会に要請を行うこと。この場合、事務局は関係諮問機関に助言を求めること。委員会は、変更を承認するか、要請された境界線の変更が資産の登録範囲の拡張となるような重大な変更であると判断した場合は、新規登録推薦の手続きが適用される。
■登録範囲の重大な変更
165. 締約国が世界遺産一覧表にすでに登録されている資産の境界線に関する重大な変更を要望する場合は、締約国は新規登録推薦と同様の手続きをとること。この再登録推薦書の提出期限は2 月1 日とし、第168条に示す手続きとスケジュールに則って1年半の審査サイクルに付される。本規定は、登録範囲の拡張にも縮小にも同様に適用される
世界遺産委員会が楽しみですね。
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