世界遺産NEWS 21/10/22:カナダのヴァイキング遺跡ランス・オ・メドーの木片伐採年を特定

コロンブスのアメリカ大陸到達より約500年早い10~11世紀、ヴァイキング(北ヨーロッパを拠点とするノルマン人)がアメリカ大陸に到達したことは知られていましたが、正確な年代は特定されていませんでした。

10月20日、オランダのフローニンゲン大学を中心とした研究チームはヴァイキングの北アメリカ大陸における最初の入植地跡とされるカナダの世界遺産「ランス・オ・メドー国定史跡」から出土した木片の伐採年代を1021年と特定しました。

ヨーロッパ人による最初期の入植生活の年代と内容を知る手掛かりになりそうです。

 

Evidence for European presence in the Americas in AD 1021(nature)

 

なお、年代の特定には名古屋大学の三宅芙沙准教授らによる日本の世界遺産「屋久島」における放射性炭素C14に関する研究成果が応用されています。

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

少し前まで、ヨーロッパ人で最初にアメリカ大陸を発見したのはイタリア人航海士コロンブスで、カリブ海に浮かぶサン・サルバドル島に上陸した1492年10月12日が新大陸発見の日とされていました。

しかし、コロンブスは北アメリカ大陸には直接上陸していませんし、少なくとも2万年~1万年前には黄色人種の一派がアメリカ大陸に進出してネイティブ・アメリカンとなっていることから「新大陸発見」という表現は徐々に消えていきました。

 

そして1960年にカナダのニューファンドランド島北部の遺跡でヴァイキングの居住地跡が発見されました。

発掘された鍛冶場や製材所・住居の遺構や鉄釘などの遺物は明らかに北ヨーロッパのもので、ヴァイキングの航海士レイフ・エリクソンの航海の様子を描いた叙事物語集サガの記述とも一致することから彼の入植地と考えられるようになりました。

この遺跡がカナダの世界遺産「ランス・オ・メドー国定史跡」です。

この時点でコロンブスはアメリカ大陸に足を踏み入れた最初のヨーロッパ人でもなくなりました。

 

レイフ・エリクソンのニューファンドランド島への到達年代ですが、サガなどの記述から1000年前後と考えられています。

出土した有機物が放射性炭素年代測定法で測定されていますが、990〜1050年という結果が出ています。

 

放射性炭素年代測定法は一般的な炭素C12とは異なる放射性炭素C14の割合を用いて年代を測るものです。

地球上のC12の割合は98.89%、C13は1.11%、C14はわずか1.2×10^-8%で、この割合は大気中でも生きている生物の体内でも変わりません。

 

しかし、放射性炭素であるC14は放射線を出しつづけ、やがて窒素原子に変わってしまいます。

C14が半分になるまでの期間を半減期といいますが、半減期は5730±40年と知られています。

 

大気中ではC14の崩壊と生成の数はほとんど変わらないため割合はほぼ一定に保たれています。

しかし、生物の死後は代謝が行われないためC14の割合は減りつづけます。

このためこの割合を調べることで年代がおおよそ測定できることになるわけです。

 

* * *

カナダの世界遺産「ランス・オ・メドー国定史跡」
カナダの世界遺産「ランス・オ・メドー国定史跡」(C) Dylan Kereluk de White Rock, Canada

さて、今回のニュースです。

 

オランダのフローニンゲン大学を中心とした研究チームは10月20日、ランス・オ・メドーから出土したモミとネズ(あるいはクロベ)の枝と切り株の計3点の伐採年代を1021年と特定したことをイギリスの科学雑誌『ネイチャー』で発表しました。

年代の測定方法ですが、C14を利用していますが先の放射性炭素年代測定法とは異なります。

 

実は2012~13年に名古屋大学の三宅芙沙准教授を中心としたチームは世界遺産「屋久島」で伐採された屋久杉の年輪から、993年にC14の割合が急上昇している事実を突き止めて発表しました。

大規模な太陽嵐(爆発的な太陽フレアによる強力な太陽風の襲来)が原因と考えられています。

 

ランス・オ・メドーの3点の木片の年輪をAMS(加速器質量分析装置)で詳細に調べた結果、C14の急上昇を示す年輪が発見され、これが993年であることが特定されました。

そこから金属による切断面までの年輪を数えた結果、1021年になりました。

 

つまり、1021年にヴァイキングが鉄の斧を使ってモミとネズを伐採したということであるようです。

この年代の鉄器はアメリカ大陸の他の場所では発見されていませんから、これもヴァイキングによるものであることを示しています。

 

今後、この1021年という年代を基準にしてヴァイキングの活動がより詳細に研究されそうです。

また、C14の急上昇は775年など他の年代でも発見されていることから、年輪中のC14をタイムマーカーとして使用することでさまざまな年代測定に応用することができそうです。

 

思わぬところでの世界遺産「ランス・オ・メドー国定史跡」と「屋久島」のコラボレーション。

おもしろいですね。

 

 

[関連記事]

世界遺産NEWS 17/03/02:人類はいつアメリカ大陸へ渡ったのか?

世界遺産と世界史6.人類の夜明け

世界遺産と世界史16.南北アメリカ大陸の古代文明

 


News

★姉妹サイト「世界遺産データベース」を制作中です。現在、ヨーロッパの世界遺産を執筆しています。

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」を立ち上げました。世界遺産を通して世界の建築を学びましょう。

 →世界遺産で学ぶ世界の建築

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産検定攻略法」が始動! 最難関の1級とマイスター攻略を中心に、受検戦略や学習法を紹介します。

 →世界遺産検定攻略法

E-book

■Amazon Kindle

■楽天Kobo

自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の魅力を解説
自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が5月に登録勧告を得て7月の正式登録が確実なものとなった。その内容を紹介する。クリックで外部記事へ
文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群」の魅力を解説
2021年7月に世界遺産登録の可否が決まる文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・岩手・秋田)」の魅力を解説する。クリックで外部記事へ

Topics

 

・All About 世界遺産 新記事

 北海道・北東北の縄文遺跡群

 奄美・徳之島・沖縄島・西表島

 2019年新登録の世界遺産

 ンゴロンゴロ/タンザニア

 イエローストーン/アメリカ

 

・その他

『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『Fine』自然遺産特集執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

New articles

<旅論:たびロジー>

1.あなたは幸せですか?

.麻薬は悪? ゴキブリは汚い?

.裸とワイセツ

 

<エロス論:エロジー>

.遊びの本質

.おいしい、美しい、気持ちいい

.文化SM論

 

<絵と写真の話>

.アートと魂~抽象画とポロック

.ロスコの扉 ~ロスコ・ルーム~

10.写真と抽象芸術~グルスキー

 

<哲学的探究:哲学入門>

1.哲学とは何か?

2.「正しい-間違い」とは何か?

3.証明とは何か?

4.わかる・理解するとは何か?

5.力とは何か? 波とは何か?

6.物質とは何か?

7.見る・感じるとは何か?

8.空間とは何か?

9.時間とは何か?

10.物質と時間を超えて

以下続く。

 

<哲学的考察:ウソだ!>

.無と偶然

.ことだま-はじめに言葉ありき

10.物質とは何か?

11.神とは何か?-一神教と多神教

 

<世界遺産NEWS>

世界遺産最新情報/ニュース

 

<世界遺産ランキング集>

登録基準に見る世界遺産

世界の七不思議

国内集計の世界遺産ランキング

海外集計の世界遺産ランキング

世界遺産国別ランキング

 

<UNESCOリスト集>

日本の遺産リスト

無形文化遺産リスト

世界の記憶リスト

世界遺産リスト

ユネスコエコパーク・リスト

世界ジオパーク・リスト

創造都市リスト

世界危機言語アトラス・リスト

 

<世界遺産の見方>

知性的鑑賞法

感性的鑑賞法

異文化理解の方法論

正しい・間違いの基準

星と大地と古代遺跡

 

<味わう世界遺産>

.王様のワイン トカイ

.命の水 テキーラ

.ポルトガルの宝石 ポート

.神の贈り物チョコレート

 

<世界遺産で学ぶ世界史>

01.宇宙と地球の誕生

02.大陸の形成

03.地形の形成

04.生命の誕生

05.生命の進化

06.人類の夜明け

07.文明の誕生

08.エジプト文明

09.インダス文明

10.中国文明

以下続く。

 

<世界遺産で学ぶ世界の建築>

01.建築の種類1:城と宮殿

02.建築の種類2:宗教建築

03.建築の種類3:メガリス

04.木造建築の基礎知識

05.石造建築の基礎知識

06.ギリシア建築

07.ローマ建築

08.ビザンツ/ビザンチン建築

09.ロマネスク建築

10.ゴシック建築

以下続く。

 

<世界遺産写真館>

1.文化交差路サマルカンド1

2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレア・ヴィヒア寺院

8.福建の土楼1

9.福建の土楼2

10.フォンニャ=ケバン国立公園1

以下続く。

 

<世界遺産攻略法>

1.世界遺産検定攻略の理念と背景

2.世界遺産検定の概要

3.試験戦略の一般論

4.試験戦略の理念

5.世界遺産検定の受検戦略

6.試験勉強の3要素

7.世界遺産検定 最効率学習法

8.時事問題・世界史・検定講座

9.マイスター試験の概要

10.マイスター試験問1・2対策

11.マイスター試験問3対策

12.マイスター試験時間術&解答術

Blog

Link

Search

Site map

○Travel[旅]

○World heritage[世界遺産]

○Art[芸術]

○Logic[哲学]

○Library[私的図書館]

○Profile[プロフィール]

○Work[仕事について]

○Inquiry[お問合せ]

○Blog[ブログ]

※本サイトはリンクフリーです