世界遺産NEWS 19/03/12:ケニア山が山火事、東レンネルが原油流出で危機
UNESCO(ユネスコ。国際連合教育科学文化機関)の公式サイトではケニアの世界遺産「ケニア山国立公園/自然林」とソロモン諸島の「東レンネル」について、それぞれ山火事と原油流出に関して深い懸念が表明されています。
■UNESCO Director-General deplores fires in Mount Kenya National Park(UNESCO公式サイト)
■Concern for oil spill near East Rennell, Solomon Islands, in central Pacific(UNESCO公式サイト)
今回はこのニュースをお伝えします。
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標高5,199mを誇るケニア山は赤道付近であるにもかかわらず氷河を有する貴重な地形と生態系が評価されて世界遺産「ケニア山国立公園/自然林」に登録されています。
世界遺産の資産(登録範囲)は202,000haですが、2月下旬に起こった山火事によって120,000ha以上と半分以上が焼き尽くされる大惨事になっています。
消防局はもちろん森林局のレンジャーや国防軍、野生生物局、ボランティア組織などが出動し、ヘリコプターや飛行機を導入して消火に当たっています。
ただ、高地や崖地・渓谷が入り組んだ土地が多く、本格的な消火作業ができない地域も少なくないようです。
3月3日に大雨が降ったこともあって多くが鎮火して小康状態となっていたようですが、8日に残り火からと見られる別の火災が発生したとの報道があり、予断を許さない状況です。
山中で起こったため人的被害はほとんど出ていないようですが、貴重な生態系が破壊されており、当局は被害状況の把握に努めています。
ケニア山では年100件を超える山火事が報告されているようですが、ほとんどは火の不始末など人為的なものであるようです。
今回の火災の原因は特定されていませんが、18人が逮捕されたとの情報もあり、火の不始末なのか焼き畑のような不法栽培なのかわかりませんが人災ではありそうです。
山火事がこれほど広がった理由のひとつに気候変動が挙げられています。
ケニアでは2018年10~12月の少雨季に雨が非常に少ないまま2019年1~3月の乾季に入っていました。
UNESCOのオードレ・アズレ事務局長はいち早く支援を表明し、気候変動リスクの低減に努めるとの声明を出しています。
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2019年2月5日、ソロモン諸島のレンネル島西部でボーキサイト鉱石を積み込んだ全長約225mの大型貨物船がサイクロンに煽られて座礁しました。
レンネル島は世界最大のサンゴ島で、島の約半分、東部が世界遺産「東レンネル」に登録されています。
東部のさらに半分程度をテガノ湖という汽水湖(淡水と海水がまじり合った湖)が占めており、独特の生態系が広がっています。
事故の報告を受けた当初から付近では海水浴や漁業が禁じられ、住民たちは雨水や、飛行機を使って運び込まれる配給物資に頼った生活を強いられています。
UNESCO世界遺産センターとオーストラリア政府はいち早く支援を開始しており、原油流出に目を光らせていました。
数日後から海岸に到達しはじめ、油による火傷や臭いによって眠れないなどの被害が報告されはじめました。
貨物船が積んでいる原油は約700tと見られており、これまでに約80tが流出し、6kmにわたって海岸を侵食しています。
香港籍の海運会社と韓国籍の保険会社が対応に当たっていますが、オーストラリア政府は先週時点では流出の拡大に歯止めが掛かっておらず、漏れ出した油の回収も進んでいないとして「失望している」と懸念を表明しています。
まだ世界遺産には到達していないようですがそれも時間の問題であるようです。
今後貨物船が転覆する可能性もあり、その場合流出の規模はさらに大きくなると警告しています。
専門家によると、原油が一度漂着するとその影響は完全に分解されるまで数年にわたり、生態系に大きな被害を与えるようです。
これを阻止するためにUNESCOやオーストラリアが中心となって戦略を練り直しており、3月18日までに海運会社と保険会社に引き継ぎたいとしています。
UNESCO世界遺産センターのメヒティルト・レスラー所長はオーストラリアの支援に謝意を述べるとともに、世界遺産周辺での開発や航行に対して懸念を表明しています。
世界遺産の資産の中での開発は認められていませんが、周辺での開発や航行は禁止されておらず、同様の原油流出事故がバングラデシュの世界遺産「シュンドルボン」やオーストラリアの「グレートバリアリーフ」などでも起きています。
心配ですね。
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