世界遺産と世界史12.ヘレニズム時代
シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の歴史」では世界史と関連の世界遺産の数々を紹介します。
なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。
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1.古代編、2.中世編、3.近世編、4.近代編、5.世界大戦編
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<アレクサンドロス帝国>
■マケドニアによるギリシア支配
アテネ①、スパルタ、テーベといったポリスの覇権争いから距離を取り、力を蓄えていたのがエゲ(アイガイ)②に首都を置くギリシア人国家マケドニアです。
マケドニアのフィリッポス2世は3年間、テーベに人質として預けられていましたが、その間に政治や軍略を学んでこれを自国に取り入れます。
紀元前338年。
力を増すマケドニアの台頭を恐れたアテネとテーベは同盟を結んで戦いを挑みます。
フィリッポス2世はカイロネイアの戦いでこれを退け、 コリントス同盟(ヘラス同盟)を結成。
スパルタ以外の全ポリスが参加して、マケドニアのギリシア支配が固まりました。
※①世界遺産「アテネのアクロポリス(ギリシア)」
②世界遺産「エゲの考古遺跡[現在名ヴェルギナ](ギリシア)」
[関連サイト]
■アレクサンドロスの東征
アレクサンドロス帝国の版図の推移
マケドニアのファランクス戦術
紀元前336年。
フィリッポス2世が暗殺されるとアレクサンドロス3世(アレキサンダー大王)が弱冠20歳で王位に就きます。
絶大な行動力とカリスマ性を持っていたアレクサンドロス3世はギリシアをまとめ上げ、紀元前334年、総司令官として約4万の兵を率いてギリシア人の悲願・ペルシア討伐に乗り出します。
彼が率いた精鋭のうち、特徴的なのが重装歩兵ファランクスと重装騎兵ヘタイロイです。
上の動画にあるファランクスはサリッサと呼ばれる5mを超えるような長槍を持ち、これを一斉に敵に向けることで針の山のような防御壁を作って陣を進めました。
さらにその周囲でサリッサを持ったヘタイロイが馬に乗って敵の急所に突撃し、敵陣を打ち破りました。
紀元前334年、ダーダネルス海峡を渡って小アジアに入り、グラニコス河畔の戦いに勝利。
紀元前333年、ペルシア皇帝ダレイオス3世は自ら10万~50万ほどの兵を率い、現在のトルコ・シリア国境にほど近いイッソスで迎え撃ちます(イッソスの戦い)。
ペルシア軍は数的に圧倒していましたがファランクスの攻撃を受けきれずに敗退し、ダレイオス3世は母や妻子を見捨てて逃げ去ってしまいます。
マケドニア軍は一旦進路を南に取り、フェニキア、エジプトを攻略。
このときエジプトに築いたギリシア植民都市がアレクサンドリア※です。
※エジプトの世界遺産暫定リスト記載
■アケメネス朝の滅亡
紀元前331年、アレクサンドロス3世は再び東へ兵を進めると、ガウガメラでダレイオス3世と対峙します(ガウガメラ、あるいはアルベラの戦い)。
このときマケドニア軍4万~5万に対して、ペルシア軍20万~100万。
それでもアレクサンドロス3世の陣を崩せず、ダレイオス3世はまたしても敗走。
マケドニア軍はこれを追い、バビロン①、スーサ②、ペルセポリス③といったペルシア諸都市を次々と破壊しながら進軍します。
ところがダレイオス3世はサトラップ(地方長官)のベッソスに裏切られ、暗殺されてしまいます。
ベッソスはペルシア皇帝アルタクセルクセスを名乗って抵抗しますが、アレクサンドロス3世はこれを破って処刑し、アケメネス朝は滅亡します。
その後アレクサンドロス3世は現在のパキスタン~中央アジアを攻め上がり、サマルカンド④を落とします。
さらにカイバル峠を通り、インダス川を渡ってガンダーラのタキシラ⑤を占領すると、インドへ攻め込む準備を整えます。
しかし、疲れ果てた兵士たちの不満を聞き入れ、紀元前323年にスーサへ帰還。
そして同年大病を患い、「もっとも王にふさわしい者が国を治めよ」との言葉を遺して病死してしまいます。
この結果、後継者を決めるディアドコイ(後継者)戦争が勃発します。
※①世界遺産「バビロン(イラク)」
②世界遺産「スーサ(イラン)」
③世界遺産「ペルセポリス(イラン)」
④世界遺産「サマルカンド-文化交差路(ウズベキスタン)」
⑤世界遺産「タキシラ(パキスタン)」
[関連サイト]
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<ヘレニズム時代>
■ヘレニズム3王国とパルティア
ディアドコイ戦争の様子。Antipater=アンティパトロス、Lysimachus=リュシマコス、Antigonus=アンティゴノス、Ptolemy=プトレマイオス、Peithon of Crateuas=クラテウスのペイトン、Eumenes=エウメネス、Seleucus=セレウコス、Polyperchon=ポリュペルコン、Cassander=カサンドロス、Demetrius=デメトリオス、Macedonian Kingdom=マケドニア、Thracian Kingdom=トラキア、Antigonid Kingdom=アンティゴノス朝、Ptolemaic Kingdom=プトレマイオス朝、Seleucid Kingdom=セレウコス朝
アレクサンドロス3世の時代からプトレマイオス朝エジプトの滅亡(紀元前30年)までをヘレニズム時代といいます。
この時代に主導権を握ったのがマケドニア人によるヘレニズム3王国、アンティゴノス朝マケドニア、プトレマイオス朝エジプト、セレウコス朝シリアです。
このうち最初に滅んだのがアンティゴノス2世が建てたアンティゴノス朝マケドニアで、共和政ローマが勢力を増すとマケドニア戦争で討伐され、紀元前168年に滅亡しました。
セレウコス1世が建てたセレウコス朝シリアは3王国でももっとも大きな国土を治めました。
一時は小アジア(トルコ)からインダス川に至る広大な領土を支配しましたが、中央アジアのバクトリアでギリシア人移民たちが反乱を起こしてバクトリア王国を建国。
続いて遊牧系ペルシア人の一派、パルティア人のアルサケスがその西でパルティア王国(アルサケス朝パルティア。初期の首都ニサ①)を興して独立してしまいます。
セレウコス朝と入れ替わるように勢力を拡大したのがこのパルティアです。
セレウコス朝からメソポタミアを奪い、さらにバクトリアを討ってインドに進出すると、メソポタミアからインド北部に至る大国を築き上げました。
セレウコス朝はローマとパルティアに挟まれると、紀元前63年、ローマのポンペイウスによって滅ぼされました。
国境を接したローマとパルティアは8度にわたり戦いを繰り広げますが、結局決着がつくことはありませんでした。
この時代にローマとの最前線に造ったパルティアの軍事都市がハトラ②です。
※①世界遺産「ニサのパルティア要塞群(トルクメニスタン)」
②世界遺産「ハトラ(イラク)」
■プトレマイオス朝エジプト
3王国でもっとも長く続いたのがプトレマイオス1世が建てたプトレマイオス朝エジプトです。
特に首都アレクサンドリア①は大いに繁栄し、オリエント中にその名を響かせたといいます。
プトレマイオス朝は古代エジプトのファラオの称号を継いでいました。
しかし末期になると権力闘争が激化して、王族同士で争いが絶えませんでした。
しかも周囲の国々は次々と共和政ローマに組み込まれ、ローマの属州に落ちるのも時間の問題でした。
紀元前51年、姉クレオパトラ(クレオパトラ7世)と弟プトレマイオス13世は父の遺言もあって姉弟で結婚し、エジプトの共同統治を開始します。
ところがまもなくプトレマイオス13世はクレオパトラを裏切り、彼女を追放してしまいます。
ローマ②ではこの頃カエサル(シーザー)とポンペイウスの争いが激化していました。
ポンペイウスはローマ内戦に敗れ、つてのあったエジプトに撤退しますがプトレマイオス13世に殺されてしまいます。
そんなとき、ポンペイウスを追っていたカエサルがエジプトに到着。
伝説では、クレオパトラは絨毯に身をくるみ、贈り物としてカエサルの元に届けさせます。
絨毯から現れたクレオパトラを見たカエサルはひと目で恋に落ち、彼女を愛人にしたといいます。
カエサルの援護を得たクレオパトラは紀元前47年、ナイルの戦いでプトレマイオス13世を撃破。
そしてカエサルとの間に息子カエサリオンが誕生します(異父説あり)。
しかし紀元前44年、そのカエサルが暗殺され、遺言により養子オクタウィアヌス(後のローマ初代皇帝アウグストゥス)が遺産を相続します。
クレオパトラはローマを去ってエジプトに戻り、カエサリオンをプトレマイオス15世に即位させて息子と共同統治を開始します。
その後、今度はオクタウィアヌスとライバル関係にあるアントニウスを誘惑し、彼と結婚して3人の子をもうけます(結婚していないともいわれます)。
紀元前31年。
ローマにいたオクタウィアヌスは、アントニウスのパルティアに対する敗戦やクレオパトラに骨抜きにされて勝手な振る舞いを続ける態度に激怒して討伐軍を派遣します。
アントニウスとプトレマイオス朝連合軍はアクティウムの海戦で敗北。
伝説によると、クレオパトラの死の誤報を聞いたアントニウスは自刃し、駆け寄ったクレオパトラの腕の中で亡くなります。
そしてクレオパトラは毒蛇に乳房を噛ませ、アントニウスの後を追ったということです。
紀元前30年、カエサリオンがオクタウィアヌスに殺害されるとプトレマイオス朝は幕を下ろしました。
※①エジプトの世界遺産暫定リスト記載
②世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂(イタリア/バチカン共通)」
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次回はシルクロードとインドの仏教王国を紹介します。