私的旅行術 準備編12:薬と予防接種
今回は海外旅行に持っていく薬と、海外渡航の前に受ける予防接種を紹介します。
といっても、健康・生命にかかわることについては自分自身で責任を持つしかありません。
ぼくが世界を巡って感じるのは「人間は平等である」ということです。
戦場やスラム街、5つ星ホテルや高級リゾートに行ってもそう感じます。
人はどこでも幸せになりうるし不幸にもなりうる。
そしてどんな理不尽が起こっても人生について誰かが責任をとってくれるわけではありません。
ということで、今回は基礎知識を提供する程度に留めています。
特に長期旅行に際しては医師が提供する最新の情報を入手し、それに従うようにしてください。
○本記事の章立て
- 薬は何を持っていくべきか?
- 予防接種はどの程度、受けておくべきか?
- マラリア予防薬は用意すべきか?
- 高山病対策と予防薬
- コンドームを持っていくべし
* * *
■薬は何を持っていくべきか?
ぼくは日本にいるときも薬はほとんど飲みません。
「身体を信じる」ことにしていますし、多少調子が悪くなっても「身体の免疫力をいかに高めるか」に注意を払うに留めています。
特に海外では自分自身で体調管理をしなくてはなりません。
素人が自己判断で薬を飲む方が危険であると、ぼくは考えています。
一例が解熱剤、咳止め、鼻水止め、下痢止めといった対症療法的な薬です。
身体は細菌やウイルスの侵入に対して咳や鼻水・下痢といった防衛機能を働かせて異物を排除しようとします。
そして侵入されてしまった場合、熱を出して身体を守ろうとするわけです。
「その防衛機能を止めていいのか?」という判断は、素人には少々難しいもののように思えます。
一般的には、感染性の下痢に対して下痢止めは飲むべきではありませんが、冷えやストレスによる軽い下痢の場合は飲んでもよいとされています。
ぼくは基本的に下痢止めを飲みませんが、長距離移動に備えて緊急の下痢止めは持っています。
異常な下痢に対しては早急に病院に行った方がいいのは言うまでもないでしょう。
一般的に、旅行者が準備する薬には以下のようなものがあります。
ぼくはこんなに持っていませんが、必要に応じてピックアップしてみてください。
検疫所や病院に予防接種を受けに行く人は医師に相談してみるとよいでしょう。
特に普段、薬を飲んでいる人は飲み合わせもあるのでかかりつけの薬局に相談しておくべきでしょう。
○旅行者が持っていく一般的な薬品類
- カゼ薬:総合カゼ薬、解熱剤、うがい薬
- 胃腸薬:一般胃腸薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬
- 予防薬:高山病予防薬、マラリア予防薬
- 対症薬:痛み止め、かゆみ止め、酔い止め
- サプリメント:ビタミン類・アミノ酸・ミネラル等の錠剤
- その他:消毒液、絆創膏、包帯、目薬、体温計、日焼け止め、生理用品、コンドーム
- 虫対策:虫除け、蚊取線香類
薬を持っていく際はかさばってもパッケージごと持っていきましょう。
飲み方を知る必要があるし、バッグで破れたりする可能性もあるうえ、万一税関等でチェックを受けたときに見せることができるからです。
中央アジアのウズベキスタンやトルクメニスタンのように薬剤に対して厳しくチェックする国もあるので、税関事情も調べておくとよいかもしれません。
ぼくは少々の症状や病気であれば薬を飲まず、以下のような方法で免疫力を高めて対処しています。
普段からできることは普段から心掛けるとよいのでしょうね、あまりできていませんけど。
○普段心掛けていること
- 食事はよく味わう
- 睡眠・休息・栄養をとる
- 水をたくさん飲む
- フルーツを丸ごと買ってきて食べる
- 乳酸菌飲料や発酵食品を食べる
- サプリメントをとる
ぼくは日本でも食べ歩きが好きなのですが、よーく味わうと危険なものの多くは事前にわかると考えています(もちろん無味無臭の毒もありますけれど)。
たとえばレストランで出された水が飲用に適するかどうかなどは水の香りと味をよく味わうとわかります。
腐敗臭やカビ・カルキ臭さなどの情報はもちろん、硬水か軟水かなどもわかるので、人によっては「これはミネラル分が多すぎる」などと判断できるのではないかと思います。
休憩と水は当然多めに取った方がよいでしょう。
フルーツは丸ごと買ってきて自分で剥いて食べれば、菌やウイルス・寄生虫などの危険は大きく減ります。
体調が悪いときはフルーツとサプリメント、カロリーの高いチョコレートなどを買ってきて、薬を飲まずにすませることが多いです。
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■予防接種はどの程度、受けておくべきか?
ぼくは会社を辞めてから3年にわたる世界一周の旅に出掛けたのですが、実はこれがはじめての海外旅行でした。
ですから帰国した際には、海外旅行経験1度、渡航国数55か国というヘンテコな経歴になっていました。
当時は海外旅行のことについて何も知らなかったので、「1年後に世界一周に出掛ける!」と決めて予防接種の相談に横浜検疫所を訪ねました。
よくわからないままスケジュールを組んでもらった結果、ぼくは1年の間にA型肝炎(3回)、B型肝炎(3回)、狂犬病(3回)、破傷風(3回)、コレラ(2回)、ポリオ、日本脳炎、黄熱の注射を受けました。
総額軽く10万円超え……
ちょっとやりすぎたと思います。
そうはいってもこの問題、命と健康に関わることですから自分で判断するしかありません。
以下にFORTH(厚生労働省検疫所)のリンクを貼っておきますので、こちらも参考にしてみてください。
[関連サイト]
ここに注意!海外渡航にあたって(FORTH)
アフリカや南米の一部の国では入国する際に黄熱のイエローカード(国際黄熱予防接種証明書)を要求することがあります。
この場合は黄熱の予防接種を受けなくては入国できないことになります。
FORTHの「黄熱に注意しましょう!」のページでは、日本で黄熱の予防接種が受けられる場所やイエローカードを要求する国々のリストが掲載されているので、アフリカや南米に行く方は確認しておくとよいでしょう。
最新情報は各国大使館が発信しているので、外務省による各国大使館へのリンク集も貼り付けておきましょう。
[関連サイト]
黄熱に注意しましょう!(FORTH)
駐日外国公館ホームページ(外務省)
「予防接種はどの程度、受けておくべきか?」という問いに対して、FORTHは長期旅行の場合、以下のような態度をとっているようです。
○予防接種をおすすめしています
- 東・東南・南アジア、中近東、北・中部・南アフリカ、中南米:A型肝炎、破傷風
- 太平洋地域、オセアニア、北・西・東・南ヨーロッパ、ロシア、北米:破傷風
○リスクがある場合に接種を検討してください
- 東・東南アジア:日本脳炎、B型肝炎、狂犬病
- 南アジア:日本脳炎、B型肝炎、狂犬病、ポリオ
- 太平洋地域、南ヨーロッパ、ロシア:A型肝炎、B型肝炎、狂犬病
- 中近東、北・中部・南アフリカ:B型肝炎、狂犬病、ポリオ
- 北・西ヨーロッパ、北米:狂犬病
- 東ヨーロッパ:A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、ポリオ
- 中南米:B型肝炎、狂犬病
短期旅行については、東・東南・南アジア、中近東、太平洋地域、北・中部・南アフリカ、中南米の場合、A型肝炎について「リスクがある場合に接種を検討してください」としています。
黄熱については中部アフリカや中南米について予防接種を呼び掛けています。
これ以外にもジフテリアや腸チフス、流行性髄膜炎などについては予防接種が可能です。
この中で、A型肝炎とB型肝炎については予防接種を受けていなくても数週間~数か月の治療で多くの場合は完治します。
ポリオは無症状だったりカゼに似た軽い症状で終わることが多いのですが、まれに四肢の麻痺、いわゆる小児マヒを発症します。
いずれも死亡例もあるので注意が必要です。
これら以外の病気の致死率はきわめて高く、狂犬病100%、破傷風50%、黄熱50%、日本脳炎20~40%となっています。
その代わり実際に感染・発症する人は非常にまれで、万一のための予防接種ということになりそうです。
たとえば心配する人が多い狂犬病ですが、日本人の犠牲者はこの半世紀で5人もいませんから、実際はほとんど心配ありません。
これまで多くのバックパッカーや旅行者・旅行ガイド・旅行会社社員等と話してきましたが、たいていの人は注射を打ってもA型肝炎と破傷風・狂犬病くらいのものでした。
そしてぼくが実際に発症した話を聞いたことがあるのはA型肝炎のみです。
A型肝炎は致死率こそ低いものの途上国では感染する可能性が高いので、受ける価値はありそうです。
途上国でA型肝炎と並んで感染しやすい病気にコレラがありますが、コレラのワクチンは効果が低く副作用が見られることなどから2001年にWHO(世界保健機関)が中止を宣言しています。
注意しておきたいのは、予防接種を受ければ100%防げるものではないということです。
特に狂犬病の場合、感染していると思われる哺乳動物に噛まれたら、予防接種を受けていても追加接種を受けなければなりません。
そして予防接種で得た免疫には有効期間があるということも知っておきましょう。
おおよそ狂犬病で2年、日本脳炎で4年、A型肝炎で5~10年、破傷風10年、B型肝炎とポリオは10年以上、黄熱は一生に一度でOKといわれています(黄熱は以前は10年でしたが、2016年から生涯一度に変更されています)。
実際にどの予防接種を受けるかについては、予防接種を実施している検疫所や病院の医師と相談するのがいちばんでしょう。
下記にリンクを張っておくので検疫所を訪ねたり、電話相談してみてください。
なお、A型肝炎・B型肝炎・狂犬病・破傷風などは3回の接種で最大の効果を発揮します。
他の注射もするような場合、半年以上の月日を必要とするので早めの準備が必要です。
時間がない場合はその対処法なども相談してみるとよいでしょう。
[関連サイト]
予防接種実施機関の探し方(FORTH)
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■マラリア予防薬は用意すべきか?
東南・南アジア、南米のアマゾン流域、西・東・中部アフリカなどではマラリアのリスクがあります。
マラリアはマラリア原虫を保持した蚊に刺されることで感染する感染症で、2020年には推定で2.41億人の感染者と62.7万人の死者を出しています(WHO統計より)。
マラリアには三日熱・四日熱・卵形・熱帯熱という4つの種類があるのですが、この中で死者の95%はアフリカに多く見られる熱帯熱マラリアが原因です。
中部アフリカや東アフリカ諸国では死亡原因の上位に入るほどです。
実はぼく、アフリカのウガンダで熱帯熱マラリアを発症しました。
すぐに蒸発するのか汗さえかけない異常な高熱が出ているのに、身体は寒くて震えているというそれまで体験したことのない症状で、やがて座ることさえできないほどに衰弱してしまいました。
やっかいだったのはぼくがメフロキン(ラリアム)という予防薬を飲んでいたことで、これによって街の小さな病院の簡易検査ではマラリア原虫を発見できず、病気の特定が遅れてしまいました。
結局、大きな病院で精密検査して熱帯熱マラリアであることがわかったのですが、実はこのときウガンダの片田舎でエボラ出血熱が流行していたため、「もしかしたらエボラなのか?」とビビったなんていうエピソードもあったりします。
このとき聞いた現地の医師の話だと、栄養状態がよくて適切な治療を受けられれば、熱帯熱マラリアであろうとそれほど危険な病気ではないということです。
現地では医師が近くにいなかったり、現金収入がないため治療を受けられなかったり、十分な栄養がとれていない人たちが死亡率を引き上げているようです。
予防薬を飲むべきか否かの判断ですが、FORTHは「マラリア流行地へ渡航する際は、抗マラリア薬の予防内服を行うことが望ましいとされています」としています。
ただ、「渡航先の流行状況や滞在期間、活動内容、基礎疾患の有無などによって適応となる予防薬が異なります。ご自分の体調や渡航先について事前に専門医と相談し、必ず専門医の指示に従って服用してください」とも書いています。
感染地に行く方、特にアフリカに行く方は各地の検疫所や熱帯病に強い病院で医師に相談してみてください。
日本では処方箋がなければマラリアの予防薬は手に入りませんので、日本で入手する場合はやはり医師に相談しなければなりません。
ただ、マラリアが流行している地域では薬局で手軽に手に入れることもできたりします。
マラリヤ予防薬にはさまざまな種類がありますので、現地で手に入れる場合でも事前調査は必要でしょう。
実際旅行者はどうしているのかですが、熱帯熱マラリアは命にかかわるということで、アフリカ(北アフリカ、南アフリカを除く)を旅する旅行者は予防薬を飲んでいる人が多かったです。
一方、熱帯熱マラリアがあまり見られないアジアや南米では予防薬を飲んでいる人はほとんど見かけませんでした。
予防薬は副作用が強いものもあるので、この辺りも含めて医師に相談してみるとよいでしょう。
[関連サイト]
予防接種実施機関の探し方(FORTH)
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■高山病対策と予防薬
海外旅行では高地に行くこともあると思います。
ぼくは中国・チベット、ネパール、ペルー、ボリビア、チリなどで富士山の標高3,776m以上を経験しています。
最高到達点は5,000mを超えており、特にチベット行きのバスの中でかなりきつい高山病に苦しみました。
高山病でもっとも危険なのは、一気に標高を上げることです。
チベットのラサに行くバスに乗った際は、標高2,800mのゴルムドから5,200mまで1日で到達したのですが、このためほとんどの人が高山病にかかっていました。
飛行機の場合はさらに注意が必要で、たとえば四川省の成都からラサに飛行機で飛ぶ人は、標高500mの場所から3,650mの地に移動することになります。
ペルーのマチュピチュ観光に際してリマからクスコに飛ぶ場合、標高ほぼ0mから3,400mへのフライトです。
わずか1時間ほどで標高差3,000mを超える移動ですから、危険がないわけがありません。
高山病に対する最善の対策は、徐々に標高を上げていくことでしょう。
ラサやクスコといった高所に行く前に付近の観光地、たとえば麗江や九寨溝、アレキパといった標高2,000~2,500mの観光地で観光しておくとか、半年以内に日本で同程度の山に登っておくとある程度の高度順応はできるようです。
といっても、スケジュール的にそれができる人はあまりいないかもしれませんね。
高山病対策としては以下が知られています。
○高山病対策
- ゆっくり動く
- ゆっくり呼吸して、しばしば深呼吸する
- 水分を多くとる
- 糖分をとる
- 飲酒・喫煙を控える
- 食事はとりすぎない
- 身体を温める
- あまり気にせず楽観的に
- 薬を飲む
吐き気や頭痛といった高山病の症状が現れたときの対処法ですが、軽い症状であれば上の対策でなんとかなります。
痛み止めや酸素ボンベの使用などでもある程度対処できますが、それでもダメなら現地の医師を頼るか低地に移動して順応するのを待つしかありません。
実は高山病にはダイアモックスなどの薬があったりします。
入手には処方箋が必要ですし注意点等もあるので、標高の高い観光地への旅行を計画している人は事前に医師に相談してみるとよいでしょう。
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■コンドームを持っていくべし
「もっとみんな気をつけた方がいいんじゃないかなー」と思うのはセックスです。
途上国、特にアフリカでは死亡原因の上位にAIDS(エイズ=後天性免疫不全症候群)が入っていますし、性病の危険性も日本よりもはるかに高くなります。
特に傷と傷が触れ合う可能性がある接触の場合(たとえばアナルセックス)、血液感染であらゆる感染症の可能性が持ち上がります。
通常のセックスの場合、コンドームで多くの感染症や性病を防ぐことができます。
たとえばAIDSを引き起こすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の場合、感染率は避妊具なしのセックスでも1%をはるかに下回るといわれます(ただしアナルセックスの場合はその10倍以上)。
コンドームを使用すると、これをさらに1/10以下に減らすことができるようです。
このため南米やアフリカなどのユースホステルやゲストハウスではコンドームが無料で配られていたりするわけです。
HIVの場合、問題は自分だけではありません。
自分が他人に感染させたり、女性が妊娠した場合は子供に感染させる可能性もあるわけです(母子感染)。
たとえ自分の身に覚えがなくても、恋人やその恋人の前の彼氏・彼女がどうだったかはよくわかりません。
男女の区別なく、身を守るためにもやはりコンドームは用意しておくべきでしょう。
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次回は海外旅行に持っていくメインバッグやサブバッグを紹介します。