Study 6:付喪神 ~Good-bye, My G
愛用だった腕時計。
もう20年以上の付き合いになると思う。
ついに壊れた。
特にデザインが好きというわけではない。
強いと聞いていたので買って、本当にタフに使った。
学生のころはウインド・サーフィンにはまっていた時期があって防水のこいつが海上でいつも一緒にいた。
どんなに激しく転んでも壊れないっていうのでスノーボードをはじめたときだってこいつを連れて出た。
3分毎にアラームする機能があるので空手の自主トレでいつもこいつが1ラウンドを教えてくれた。
時間を2つ表示できるので現地時間と日本時間を知るために世界のどこにいてもこいつを手放さなかった。
30m以上ダイビングするときも標高5,500mに登ったときも、地表面温度50度超のときも氷点下20度超のときだって、飽和状態の塩水湖の中でもシャワーを浴びているときでさえ。
海外で盗まれそうになったこともあるし、空手で突きを出したら電柱にぶつかってゴム・バンドが吹っ飛んだこともあり、自動車から投げ出されて転んだときコンクリートに叩きつけられて傷ついたことだってあるのに、こいつはいつも側にいて正確に時間を刻み続けた。
ありがとう。
君の2代目を買うことにするよ。
そして君の思い出を語り継いでいくことにするよ。
こうしてぼくはこの時計を“君”とか“彼”と呼び、彼にまつわる思い出を生涯背負う。
なにかと彼の話をするようになり、それがまた人との交流を生み、少しずつ少しずつぼくの人生を変えていく。
まるで人のように。
まるで神のように。
彼は友人や神様がぼくの人生を変えるのと同じようにぼくの人生を変える。
猿に心はあるのだろうか?
何億年たってもこの問いには答えが出ない。
あなたに心はあるのだろうか?
同じ。
では「彼」には?
付喪神(つくもがみ)――
物にはたしかに魂が宿るのである。
ありがとね。