グルメ4:スパイスとカレーの関係 at エチオピア
カレーの真髄はスパイスだ。
香りを嗅ぎに通うカレー・ショップは神保町のここだけ。
最初にこのカレーを食べたとき、これをうまいと言うべきかどうか、正直迷った。
スパイス一つひとつが立っていてとても心地よいのだが、全体的に味が薄めでうま味がひとつ。
そう思った。
神田・神保町と言えばカレー激戦区だ。
欧風カレーの老舗からタイ料理の本場、私がいちばん好きなカレーを出すインド料理店など、カレーのレベルはとにかく高い。
そんななかにあって特異なのがこの店、エチオピアのカレーだ。
神田・神保町の会社に通っていた頃、いろいろなカレーを食べ歩いたが、それらの老舗をレギュラーに食べていると、ふとエチオピアの刺激がほしくなる。
たとえば「今日はカレーが食べたいなー。どこに行こうか」と思うわけだが、エチオピアの場合これが「今日はエチオピアのカレーが食べたい」となる。
私の田舎は静岡。
同じような体験を思い出した。
初ガツオだ。
初ガツオは秋のカツオに比べて脂が乗っていない。
そんなにたいしたもんじゃない。
調理して脂を補って食べた方がいい。
そういう人がいた。
違う。
初ガツオは春を食べるものだ。
鮎に夏が乗るように、脂の代わりに初ガツオには春が乗る。
もちろん調理してもいいが、とりあえずはその香りを楽しみたい。
だから脂が乗っていなくてもまずは刺身。
それが初ガツオだ。
刺身を冷の日本酒でキュッとやれば春に包まれる。
エチオピアのカレーは香りの鮮烈な刺激を楽しむものだ。
複雑に折り重なるスパイスが、一つひとつ鮮烈に舌を鼻を刺激する。
これ以上コクがあるとスパイスの輪郭が曇る。
これ以上トロミがあると香りが眠くなる。
そのギリギリを見切り、これがカレーだと、エチオピアは主張する。
ここまで世界をお膳立てされたらこちらがすることはひとつだけ。
その世界に浸る。
そしてスパイスに揺られ、激しい刺激に身を委ねるだけ。
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