グルメ6:みたらしだんごとわらびもち at 一幸庵
みたらしだんごとわらびもち。
みたらしだんごとわらびもち。
みたらしだんごとわらびもち。
……なんだかとてもよい響き。
うちのばーちゃんはよくお菓子を買ってきてくれた。
それも普段自分じゃ買わない和菓子が多かった。
よく覚えているのがみたらしだんご。
弟はみたらしだんごが好き。
ぼくはみたらしだんごが嫌い。
で、みたらしだんごがないと弟がスネる。
みたらしだんごしかないとぼくがスネる。
というわけで、いつもみたらしだんごと何かを一緒に買ってきてくれた。
写真は小石川の「お菓子調進所 一幸庵」のみたらしだんごとわらびもち。
このお店、いま東京で一番おいしいと噂される和菓子屋で、生菓子なんて午後少し遅く行くともう完売している。
で、この日もほとんど完売していて、残っていたのがみたらしだんご少々とわらびもちが2つのみ。
ばーちゃんはぼくが海外に旅している間に亡くなった。
ばーちゃんがよく自分の和室でお経を読んでいたことを思い出し、仏陀が悟りをひらいたというブッダガヤで菩提樹から作った数珠をばーちゃんのために買っていた頃、ばーちゃんは亡くなったようだ。
きっともういないだろう。
なぜだかそんなことを考えながら数珠を買ったのを覚えている。
家族はそのことをぼくに知らせず、ぼくも聞こうとせず、わかったのはそれから2年以上たったあと帰国してからだった。
一幸庵でみたらしだんごとわらびもちを買って家に帰り、ばーちゃんを思い出しながら食べた。
わらびもちはいままで食べたことないほどおいしくて、なるほど東京一、日本一かもしれないと心底感動した。
でも、みたらしだんごはなぜだかばーちゃんのがおいしかった。
そんな気がした。
嫌いだって言ってスネてたのにね。
写真の黄とピンクの紙にはみたらしだんごとわらびもちにまつわる物語が書き付けられている。
みたらしだんごは小石川に伝わる、竜が恩返しに贈ったという極楽の井戸に湧く水の泡をかたどったもの、わらびもちは飛騨高山の最高の蕨粉を覚悟を決めて一心不乱に練り倒したもの。
だってさ。
みたらしだんごと一緒に買ってきてくれたいろんなお菓子の味はあまりよく覚えていないけれど、なぜだかみたらしだんごの味はよく覚えている。
いいもの食べさせてくれていたんだね。
そういえば、ばーちゃん手作りの梅干や干し柿、かしわもちなんかもおいしかったもんなー。
かしわもちのあの歯ごたえと味わいは、いまだに家以外で体験したことがない。
よし、今度弟の子供たちにこのみたらしだんごとわらびもちを食べさせてやろう。
特にこのわらびもちは自信もって伝えられる。
な、ばーちゃん。
ばーちゃんは亡くなった。
でもばーちゃんにまつわるみたらしだんごの物語はぼくや弟や親たちに引き継がれ、たとえばぼくが実家に帰省したとき弟の子供たちにこのみたらしだんごとわらびもちを食べさせたりすることで、あるいはまったく別の何かおいしいものを食べさせたりすることで、さらにその子供たちへ子供たちへと引き継がれていくのだろう。
もしかしたら竜の物語やなんかも乗っかったりしながら。
もしかしたらぼくという人間の物語にも触れたりなんかしながら。
なんだかお酒が飲みたくなってきた。
ちょっと甘いお酒がいいな。
ぼくも家族と一緒、酒飲みになってね、ばーちゃん。
じゃ、乾杯。
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