エッセイ5:クメールのほほ笑み
プノン・バケンを歩いていた。
とてもかわいらしい、でもくすりとも笑わない不思議な少女に出会った。
物売りをしているおそらく5歳前後の少女。
彼女は小さな弟と一緒に、ミサンガのような腕輪を売っていた。
彼女と最初会ったのは昼間。
「お兄さん、お兄さん、これ安いよ」
「高いよ」
「高くな~い、安い安い」
この子、この調子で5か国語を操るらしい。
もちろん勉強なんかしたことないのに。
「買ってくれないと生きていけない」
そんな悲痛な顔をして迫ってくるので何度も何度も買おうと思ったけれど、なぜだかやっぱり買わなかった。
買う気がないと見るや、少女はすぐに次の人を見つけて売りに行き、同じことを繰り返す。
夕方、ふたたびプノン・バケンに行った。
やはり少女は暗い顔をして声をかけてくる。
私は買わない。
でも。
彼女があまりにかわいらしかったので、「写真を撮らせてよ」。
「3ドル」
迷ったけれど結局撮らなかった。
少女の動きをよく見ていると、売れた後はいつも親の下に駆けていき、売り上げを渡していた。
カンボジアの農村部、たとえばバンテアイ・スレイ周辺の村人の稼ぎは1日1ドルを切るという。
少女は腕輪ひとつで1ドルを売る。
稼ぎ頭なのだろう。
次の日の昼、シュムリアップの街を歩いていると、突然「おにいさーん」と声が掛かった。
彼女が友達たちと遊んでいて、満面の笑みで手を振っていた。
写真を撮れ撮れ言うので写真を撮る。
ぼくが「ありがとう」。
そう言うと、また満面の笑みで手を振り、走り去っていった。
Dai@カンボジア、アンコール