24/01/21:UNESCO、戦闘の危殆に瀕するスーダン・メロエ遺跡の保護を要請 - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 24/01/21:UNESCO、戦闘の危殆に瀕するスーダン・メロエ遺跡の保護を要請

アフリカのスーダンでは2023年4月から政府軍とRSF(即応支援部隊)の戦闘が続いており、内戦状態に陥っています。

世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」の近くでも戦闘が起きており、RSFが軍を展開しています。

 

UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)はこの状況に懸念を表明し、両軍に対して国際法の遵守と遺跡や遺物の保護を呼び掛けています。

 

Sudan: UNESCO calls for the protection of the World Heritage Site of the Island of Meroe(UNESCO)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

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スーダンの世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」、メロエのピラミッド群
スーダンの世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」、メロエのピラミッド群 (C) Ron Van Oers

RSFは2003年から続くスーダン西部のダルフール紛争において政府側に付いて反政府勢力と戦っていた軍事組織です。

インフラや文化財の破壊、虐殺やレイプといった非人道的行為で知られる「ジャンジャウィード」という民兵組織を前身とし、しばしば問題行動で非難されており、一部の指導者はICC(国際刑事裁判所)の調査対象になっています。

 

2023年4月15日、このRSFが武装蜂起し、首都ハルツームの大統領府やハルツーム国際空港をはじめ全土で戦闘を開始しました。

これを受けて政府はRSFを反政府勢力に指定し、鎮圧に乗り出しました。

 

各地の戦闘で多くの民間人が犠牲となり、スーダンとその周辺に避難者が殺到し、道路や水道といったインフラ網が寸断され、多くの教育・医療・文化施設が破壊されました。

これまでに犠牲者は最大12,000人と見積もられており、800万人が避難を強いられ、1,900万人の子供が通学を停止しており、多くがコレラなどの疾病や飢餓・栄養不良の危機に直面しています。

 

これを受けて翌5月に国連やUNESCOは国連安保理決議や国際人道法などに基づいて民間人や民間施設・文化施設・ジャーナリストなどに対する攻撃の中止を要請しました。

スーダンの世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」、ムサワラット・エス=スフラ遺跡
スーダンの世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」、ムサワラット・エス=スフラ遺跡 (C) Vaido Otsar

ハルツームの北東200kmほどに位置し、世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」のあるカブシヤ周辺でも昨年4月から戦闘が続いています。

政府軍の空軍機による空爆なども行われているようですが、RSFの掃討には至っていません。

空爆はしばしば無差別に行われているため、こちらへの批判も起きています。

 

メロエは紀元前10世紀頃に興った最古の黒人王国・クシュ王国の主要都市のひとつです。

クシュ王国は紀元前8世紀にエジプト全域を征服し、エジプト第25王朝を打ち立てました。

 

王朝は紀元前7世紀に滅びますが、紀元前6世紀にメロエに首都を遷して再興されました。

これ以降、4世紀に滅亡するまでの王国はメロエ王国とも呼ばれます。

 

「メロエ島の考古遺跡群」はメロエ王国の首都メロエと周辺の遺構を登録した世界遺産で、古代都市遺跡ナカ(ナガア)、神殿地区ムサワラット・エス=スフラ、死者の町ネクロポリスなどからなっています。

特にネクロポリスはエジプトより多い200超のピラミッド群が林立していることで知られています。

 

今年1月にはRSFがナカとムサワラット・エス=スフラの両遺跡に軍を展開しているのが確認されました。

RSFはこれまでに文化財の破壊のみならず略奪や不法取引にも手を染めていることからUNESCOは緊急声明を出し、1954年ハーグ条約(武力紛争の際の文化財の保護に関する条約)に基づいて文化遺産の保護と、文化財の搬出や取引の停止、不法に持ち出された場合はそれらの輸出入や購入を行わないようRSFや関係者に呼び掛けています。

スーダンの世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」、ナカ遺跡
スーダンの世界遺産「メロエ島の考古遺跡群」、ナカ遺跡 (C) COSV

RSFに対してロシアの民間軍事会社ワグネルやUAE(アラブ首長国連邦)が武器を供与しているとの情報もあり、短期間で事態は収束しそうにありません。

アメリカやサウジアラビアはこれらに反発しており、政府側にも問題があることから、国際社会も一枚岩になれずにいます。

 

スーダンではいまなお多くの地域で教育・医療施設が活動を停止しており、行政やインフラも十分に機能していません。

このような状況で大きな被害を受けるのはいつだって女性と子供です。

 

早期の停戦を願います。

 

 

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