20/03/17:14年にわたる修復を経てエジプト最古のピラミッドがリオープン - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 20/03/17:14年にわたる修復を経てエジプト最古のピラミッドがリオープン

約4,700年前に築かれたエジプト初のピラミッド「ジェセル王の階段ピラミッド」ですが、3月上旬、14年にわたる修復を終えてリオープンしました。

階段ピラミッドや周辺の神殿群が公開されただけでなく、5kmを超える地下回廊や少なくとも1930年代以降、非公開となっていたジェセル王の玄室も公開されています。

 

Egypt’s Oldest Pyramid Reopens to Public After 14-Year Hiatus(Smithsonian Magazine)

 

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

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世界遺産「メンフィスとその墓地遺跡-ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯」の名前にあるように、紀元前2700~前2200年頃のエジプト古王国時代の首都は現在のカイロ郊外のメンフィスに置かれていました。

そしてメンフィスの西に広がるギザやアブ・シール、サッカーラ、ダハシュール、メイドゥームといった場所には数多くのピラミッドが築かれました。

 

ピラミッドといえばメンカウラー王、カフラー王、クフ王の「ギザの3大ピラミッド」ですが、個人的には広大な砂漠のあちらこちらにピラミッドが点在するサッカーラやダハシュールの荒涼とした風景は3大ピラミッドに劣らぬものだと思います。

古王国時代、最終的に100を超えるピラミッドが築かれました。

世界遺産「南イラクのアフワール:生物の避難所と古代メソポタミア都市景観の残影(イラク)」、ジッグラト、エ・テメン・ニグル
メソポタミア都市国家ウル第3王朝のジッグラト、エ・テメン・ニグル。世界遺産「南イラクのアフワール:生物の避難所と古代メソポタミア都市景観の残影(イラク)」構成資産

こうしたエジプトのピラミッドの原型といわれるのがメソポタミアの「ジッグラト」です。

ジッグラトはレンガを積み上げて築いた階段ピラミッドで、その頂部に神殿が据えられていました。

 

建材となったレンガは土を固めたもので、天日干ししたものは日干しレンガ、焼いたものは焼成レンガといわれます。

初期のジッグラトは日干しレンガ、のちに外壁を中心に焼成レンガが使われるようになりましたが、いずれにせよ水に弱く、溶けて崩れてしまったジッグラトも少なくありません。

 

このジッグラトを参考に築かれたのではないかといわれるのが、エジプトの「マスタバ」です。

マスタバはファラオ(エジプトの王)の棺を上から収める竪穴式の石室墓で、地下構造を持つ直方体の建造物です。

 

マスタバも当初はレンガで築かれていましたが、やがて石灰岩や花崗岩を同じ形・大きさに切り出した切石を用いて建造されるようになりました。

「石」は雨でも溶けない永遠の素材と考えられていましたから、エジプトでは石の建築が神聖視されていきます。

世界遺産「メンフィスとその墓地遺跡-ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯(エジプト)」、シベスカフ王のマスタバ
シベスカフ王のマスタバ。世界遺産「メンフィスとその墓地遺跡-ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯(エジプト)」構成資産 (C) Jon Bodsworth

そしてジェセル王のピラミッドです。

 

紀元前2680年頃に築かれた高さ62.5m・底面121×109mを誇るピラミッドですが、階段状の6層構造を持つことから「階段ピラミッド」と呼ばれています。

当初は63m四方のマスタバとして建設される予定だったようですが、マスタバを少しずつ小さくして上に載せていくことで階段ピラミッドとしたようです。

エジプト初のピラミッドあり、世界初の切石による石造ピラミッドで、設計したイムホテプは名前が残る最古の建築家といわれています。

 

このピラミッドはマスタバから発展しているようにやはり王墓です。

ピラミッドの地下28m地点から回廊と数多くの石室群が展開しており、王の玄室をはじめ家族の玄室や神殿などが設けられています。

盗掘を恐れたのか回廊は迷路のように曲がりくねっていて全長6kmに及び、壮大な地下墓地であったことがわかります。

 

そしてまた、ジェセル王のピラミッドは単体で築かれたわけではなく、数多くの建物とともに周壁に囲まれていました。

一例が、柱が立ち並ぶ列柱廊、墓室が並ぶサウス・トゥーム、ピラミッドの北に位置する葬祭殿、王位更新のためのセド祭神殿です。

 

このようにジェセル王のピラミッドは単純に王墓というのではなく、他の建造物とともに神殿コンプレックスを形成していました。

当時はファラオ=神でしたから、王墓と神殿に区別はなかったのかもしれません。

さて、今回のニュースです。

 

ジェセル王のピラミッドは1992年10月12日に起きた地震で内部の石室の天井石が崩れ落ち、ピラミッドの頂部が陥没するなど大きな被害を出しました。

倒壊の可能性さえあるということで慎重に調査が進められ、2006年になってようやく修復作業が開始されました。

 

特に内部の修復は困難を極めたようです。

地下を走り回る回廊が脆弱性を高めており、いくつかの場所では内側に倒壊する可能性がありました。

これに対してエアバッグを膨らませて天井と壁を支えるなど、安全性を確保しながら慎重に作業が進められました。

 

2011年のいわゆる「アラブの春」ではエジプト革命が起こって30年に及んだムバラク政権が崩壊し、その混乱と予算不足で作業の中断を強いられました。

また、金属による補強やオリジナルとは異なる素材の石が使用されたことに対し、「修復ではなく破壊だ」などと考古学者から批判されることもありました。

こうしたトラブルを経つつも、この2020年に総額1億400万エジプト・ポンド(約7億円)を費やした作業がようやく完成を迎えました。

 

3月5日にリオープンの式典が行われ、エジプトのムスタファ・マドブリ首相らが駆けつけました。

ハリド・アナニ観光相が工事完了の報告を行うと、「すべて石で建造された世界初の建造物です」と語り、報道陣に公開されました。

 

階段ピラミッドが公開されるのは14年ぶりですが、ジェセル王の玄室は1930年代から非公開になっているといいますから、一般公開は史上初かもしれません。

地下室は倒壊しないように補強されただけでなく、照明や換気装置を備えており、訪問者は地下回廊を探索することができるということです。

 

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