3月4日、INAH(メキシコ国立人類学歴史研究所)はメキシコの世界遺産「古代都市チチェン・イッツァ」近郊のバラムク洞窟系で、マヤ文明のものと見られる150点以上の遺物を発見したことを発表しました。
下記のナショナル・ジオグラフィックの記事がその様子を伝えています。
■Maya ritual cave ‘untouched’ for 1,000 years stuns archaeologists(NATIONAL GEOGRAPHIC。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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マヤ文明が栄えたユカタン半島には川がありません。
半島は石灰岩を主とするカルスト地形ですが、石灰岩は水に溶けやすいため雨が降っても地中にしみ込んでしまい、川にならない代わりに地底湖・地下河川が発達しています。
このためユカタン半島では洞窟や水中洞窟が縦横無尽に広がる数多くの洞窟系が発見されており、世界最長の水中洞窟系を誇る全長約346kmのサク・アクトゥン洞窟系や、世界第2位・約269kmのオクス・ベル・ハ洞窟系などもそのひとつです。
こうした洞窟系は地下にあるわけですが、しばしば大地がこうした洞窟に陥没します。
これが陥没井戸「セノーテ」で、マヤ文明の人々はこのセノーテから水を得ていました。
こうしたセノーテや洞窟はマヤの人々から神聖視され、雨の神チャックのすみかであり、冥界への入口であると信じられ、供物や生け贄が捧げられていたようです。
実際チチェン・イッツァのセノーテからは数多くの人骨や装飾品・宝石類が発掘されており、チチェン・イッツァの南東4kmほどにあるバランカンチェと呼ばれる洞窟遺跡でも70点ほどの遺物が発見されています。
3月4日のINAHの発表によると、今回遺物が発見されたのはチチェン・イッツァの周辺に広がる「ジャガーの神」という異名を持つバラムク洞窟系です。
この洞窟系は1966年に農民によって偶然発見され、考古学者らの調査が入ったものの、その後なぜか封印され、すべての記録が抹消されてしまいました。
2018年になってようやくナショナル・ジオグラフィックの援助を受けた探索チームが封印を解き、洞窟系の調査を開始しました。
縦横無尽に走る洞窟のうち、これまでに7つが調査されています。
場所によっては這って進まなければならないような過酷な探索だったようですが、そのうちのひとつで155点の遺物が発見されました。
遺物の中にはメキシコ中央高原で栄えていたトルテカ文明の雨の神トラロックの像や、マヤの宇宙観を描いた聖樹セイバのプレートなどが含まれており、祭祀用のものと思われます。
バランカンチェの倍に及ぶ規模で、バランカンチェの母体となる洞窟なのではないかという意見もあるようです。
ただ、なぜこのような洞窟の奥深くにこれほどの供物が捧げられたのかは謎に包まれています。
洞窟系にはおよそ1,000年間にわたって人の手が入っていないと考えられており、他にもこのような場所があるのではないかと期待されているようです。
今後ですが、さらなる探索を進め、洞窟系の3Dマッピングを行う予定です。
また、古植物学の調査なども行って、13世紀にチチェン・イッツァが滅んだ原因や、ユカタン半島を襲って多くのマヤ古代都市の衰退・滅亡を引き起こした気候変動などについても解明の糸口を掴みたいとしています。
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