11月9日、映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』で一躍名を馳せたヨルダンの世界遺産「ペトラ」を鉄砲水が襲いました。
約3,600人の観光客がペトラを訪れていたと見られており、現在も避難・救援活動が続いています。
安否が心配されていた日本人ツアー客ですが、2団体47人(添乗員2人含)については無事が確認されています。
■Floods kill 9 in Jordan, visitors seek high ground in Petra(Washington Post。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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アラビア半島、エジプト、メソポタミアの砂漠地帯を結ぶオアシス都市として繁栄した古代都市ペトラ。
映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』では、インディ一行が高さ100mにもなる断崖に口を開けたシークと呼ばれる細道を通り抜け、バラ色の遺跡エル・ハズネが姿を現すシーンが圧巻でした。
中東を旅すると気づくのですが、どこへ行っても緑がほとんどありません。
はるか彼方まで岩石や礫(れき。小石)の砂漠が続いており、山も完全に禿げ上がっていて緑が見当たりません。
ただ、数少ない川や湖の周辺、あるいは川の跡に緑が繁っていて、人々はそんな緑に寄り添うように暮らしていました。
人々は古来、こうしたオアシスを結んで隊商貿易を行っていました。
紀元前後、隊商貿易で巨万の富を得た砂漠の民・ナバテア人が築いたオアシス都市がペトラです。
ところで、砂漠では洪水による死者が少なくないという事実をご存知ですか?
通常、砂漠にはほとんど川が流れていませんが、雨季に雨が降ると一時的に川ができて砂漠を横断します。
このような涸れ川を「ワディ」あるいは「ワジ」と呼びます。
大地が砂や土であれば水はある程度吸収されますが、岩盤剥き出しの岩石や礫の砂漠には砂や土がほとんど存在せず、また以前の水流によって流されてしまっているため、水は表面を滑るだけで地中に染み込みません。
そのため水は周囲より低いワディに一気に集まって、鉄砲水となって下流を襲います。
水さえ流れていなければワディは平らで歩きやすい場所ですし、掘れば地下水が流れていることも多いということで、人が集まりやすい場所でもあったりします。
特に上流でのみ雨が降っていて下流で降っていなかったりすると、水が来るまで気づけなかったりするわけです。
上の動画はペトラ周辺の村の様子のようですが、涸れている川に鉄砲水が流れていくのがわかります。
水といっても木々や岩を含んでおり、土石流になっていますね。
現場を見た日本人旅行者は「津波のようだった」と語っています。
ペトラの観光拠点はワディ・ムーサと呼ばれる村ですが、その名前の通りワディに位置する村であることがわかります。
その豊かな地下水が最盛期に3万人を誇ったという人口を養ったのですが、これはペトラやワディ・ムーサが鉄砲水に襲われやすい地形であったことも示しています。
シークを調べると高さ7~8mに達する水流が襲った痕跡が発見されており、1963年の鉄砲水では実際にペトラで22人が亡くなっています。
下はシークの出口の動画です。
水が勢いよく流れてきているのがわかります。
深さは足首辺りまでしかありませんが、それでも歩行は難しそうです。
鉄砲水が襲った9日の午前中、約3,600人がペトラを訪れていたと見られており、ほとんどはすでに避難しています。
ただ、取り残されている旅行者がいる可能性もあり、継続して捜索・救援活動が行われています。
日本人関連では、行方不明の報道もあったツアー客の安否が心配されていましたが、添乗員2人を含む2団体47人の無事が確認されています。
ただ、個人旅行者については把握し切れていないこともあり、日本大使館は情報収集に努めているということです。
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ヨルダンでは例年10月前後から4月頃まで雨季に入りますが、このところの豪雨で被害が相次いでいます。
9日からの雨ですでに9人の犠牲者を出しているほか、2週間前には海岸近くで中学生21人が亡くなる痛ましい被害が出ています。
安全と一刻も早い復興をお祈りします。
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