イエスが生まれた聖地とされるパレスチナ自治区のベツレヘム。
生誕地に築かれた教会と周辺の巡礼路は「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」の名前で世界遺産リストに登録されています。
3月3日、ベツレヘムの郊外に1軒のホテルがオープンして話題になりました。
ホテル自体は世界遺産に含まれているわけでもないのに、いったい何が注目を集めたのでしょうか?
今回はこのニュースをお伝えします。
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上の動画の冒頭、ホテルの向かいに設置されたコンクリート壁が映し出されます。
壁にはイラストや落書きが描かれていて、その下には瓦礫が打ち捨てられています。
1分08秒ほどからはホテル上階の眺望が堪能できます。
といっても正面はただの壁。
上部には多数の監視カメラが見えます。
これがいわゆる「分離壁」です。
イスラエルは入植地をこのような壁で囲ってパレスチナから隔離しています。
つまり、壁の向こうはイスラエルの支配域で、こちらがパレスチナ。
あちらに行くためには武装した兵士が駐屯する数少ない検問所を通っていかなければなりません。
このような入植地は増え続けているうえに、パレスチナ人の土地や生活を分断していることから国際社会の非難にさらされており、国連の非難決議やICJ(国際司法裁判所)の違法勧告なども出されています。
3月3日、ベツレヘムの分離壁からわずか4mの場所に1軒のホテルがオープンしました。
その名も「ザ・ウォールド・オフ・ホテル "The Walled Off Hotel"(壁で仕切られたホテル)」。
テーマは「反植民地主義」で、売りは「世界最悪の景観」です。
所有する9つの部屋のいずれからも分離壁を見渡すことができるということです。
ホテルを今年オープンさせたのは2017年にバルフォア宣言100周年を迎えるため。
イギリスは1917年にバルフォア宣言でユダヤ人国家の創設を承諾しました。
しかし、パレスチナ人に対しても独立・居住を認めるフサイン=マクマホン協定を締結し、さらにフランス、ロシアとアラブの分割を図るサイクス=ピコ協定を結びました。
この矛盾がのちにユダヤ=パレスチナ問題や中東戦争を生むことになります。
館内のアート・ギャラリーではイギリスの中東侵略やイスラエルによるパレスチナ弾圧に関する絵画や書籍・グッズを展示しており、ロビーや室内も戦争や壁をテーマとした芸術作品で彩られています。
なかにはイスラエル軍の兵舎を模したBudget Barracksなんていうドミトリー(相部屋)もあって、1ベッド1泊30ドルからとお手頃価格で貸し出されています。
十数点の作品を提供したイギリスの覆面グラフィック・アーティスト、バンクシーはこのホテルのコンセプトを「分離壁を自分自身で体感してもらうこと」とし、ユダヤ人を含む世界中の人々に体験してもらいたいと語っています。
ホテルの詳細は下記の公式サイトをご覧ください。
ベツレヘムを訪れたら泊まってみるのもおもしろいかもしれませんね。
[関連サイト]
The Walled Off Hotel(公式サイト。英語)
世界遺産NEWS 15/12/26:バチカン・ベツレヘムでクリスマス・ミサ開催
世界遺産NEWS 16/07/09:ベツレヘムの聖誕教会でモザイク画を発見