世界遺産の登録数についてもランキングを出してみましょう。
ついでに無形文化遺産、世界の記憶(ユネスコ記憶遺産/世界記録遺産)、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)、ユネスコ世界ジオパーク、創造都市、ユネスコ世界危機言語アトラスのランキングも掲載しておきます。
まずは世界遺産総数です。
○世界遺産の数
無形文化遺産と世界の記憶、ユネスコエコパーク、ユネスコ世界ジオパーク、創造都市、ユネスコ世界危機言語アトラスの登録状況は以下。
○UNESCO遺産事業の数
UNESCO公式サイトの数字と異なるものもありますが、精査した結果、こちらの数値を採用しています。
詳細は各事業のページでご確認ください。
なお、「shop」ではUNESCO6事業(世界遺産、無形文化遺産、世界の記憶、ユネスコエコパーク、世界ジオパーク、創造都市)のリストを網羅したエクセル・ファイルと、世界遺産全1,199件5,400項目超の構成資産をGoogleアースやMAPS.ME等の電子地図上に表示するマップデータを取り扱っています
それぞれの事業の詳細は「日本の遺産リスト」「無形文化遺産リスト」「世界の記憶リスト」「世界遺産リスト」「ユネスコエコパーク・リスト」「ユネスコ世界ジオパーク・リスト」「創造都市リスト」「ユネスコ世界危機言語アトラス・リスト」を参照してください。
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世界遺産について、地域ごとに見てみましょう。
集計ルールは他の遺産も同様です。
○地域別世界遺産数
※括弧内は(世界遺産数、条約締約国数、1か国あたりの平均所有遺産数)
※トランスナショナル・サイト(複数国に資産を持つ世界遺産)、トランスバウンダリー・サイト(国境をまたがって連続した資産を持つ世界遺産)は各国でカウント
※海外領土は母国でカウント
※イスラエルを含む西アジアや中央アジア・コーカサス諸国はアジア、トルコやロシアやキプロスはヨーロッパ、中央アメリカ諸国は北アメリカでカウント
※オセアニアはオーストラリアと、ポリネシア・メラネシア・ミクロネシアの国々を含む(ただし海外領土は含まない)
※世界遺産非保有国を含む
※エルサレムは国数として数えていない
全世界遺産の43%以上がヨーロッパに集中しています。
しかもヨーロッパは1か国あたり平均12件を超える世界遺産を保有しているのに対し、アフリカやオセアニア諸国は平均2~3件しか持っていません。
これは世界遺産条約が欧米の主導ではじまり、物件の登録に上限がなく比較的容易に登録できた初期に一気に登録数を伸ばせたことが一因です。
また、ヨーロッパでさまざまな文化が混じり合い、文明が飛躍的に発達したこともひとつの理由でしょう。
アフリカは長らく土の文化でしたし、アジアや南北アメリカも一部を除けば木の文化が大半でした。
それに対してヨーロッパは土や木・石の文化から青銅器、鉄器へとすばやく発展を遂げました。
発達の段階でさまざまな文化・文明が生まれましたし、土や木の文化と違って石や青銅器・鉄器の文化は遺跡としてよく残るようにもなりました。
たとえばヨーロッパにはラスコーやアルタミラに見られる原始壁画やストーンヘンジのような巨石文化があり、続いてギリシアやローマで高度な文明が生まれてヨーロッパを席巻し、そこにゲルマン人やノルマン人、スラヴ人が入って刺激を受け、イスラム教の影響やキリスト教の東西分裂・宗教革命で文化は多様化し、大航海時代やルネサンス・産業革命で文化は一新されました。
こうしたダイナミックな動きの各ターニングポイントに記念すべき文化遺産があるわけで、当然文化遺産の数も多くなるわけです。
ある文化や自然の切り口・ストーリーの最上の一例を代表して世界遺産リストに登録するという考え方(代表性)があるので、多様な環境を有し、文化が多彩に進化を遂げた土地、ヨーロッパや中国・インドといった国々でなければ数は伸ばしにくいのでしょう。
たとえば姫路城が世界遺産に登録されたために、日本の城郭は世界遺産に登録されにくくなったといわれます。
長年、彦根城が世界遺産暫定リストに掲載されていながら推薦に進めない理由のひとつがこれです。
「ヨーロッパでは同じような大聖堂や歴史地区がたくさん登録されているじゃない」
この疑問はもっともですが、ローマン・バシリカの時代からビザンツ、ゴシック、ロマネスク、ルネサンス、バロック等々、時代時代に大聖堂はその姿を変えていますし、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂はイタリア、ランスのノートル=ダム大聖堂はフランス、アーヘン大聖堂は神聖ローマ帝国といった具合に、大聖堂はそれぞれの国や地域の歴史に大きな影響を与えています。
ただ、1994年に「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性、信頼性確保のためのグローバル・ストラテジー」という基本戦略が採択されて以降、多すぎる遺産分野(ヨーロッパやキリスト教関連の物件など)の登録を控え、世界遺産を保有しない国や少ない分野(文化的景観、産業遺産、20世紀建築、先史時代の遺跡など)の登録を優先しており、従来のような大聖堂や歴史地区の登録は難しくなっています。
また、アフリカやオセアニア、カリブ海には多数の島国があり、こうした小さな土地では文化も自然もその絶対数が限られてしまいます。
世界遺産数が偏っているのはこんな理由も考えられるのです。
こうした偏りに対して、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)は各国年1件という推薦枠を設けたり、世界遺産委員会の審議件数に35件という上限を設定し、これを超えた場合は世界遺産を多数保有する国の推薦を翌年に回すなどして対応しようとしています。
また、世界遺産は有形の不動産のみを扱うので、そこですくいきれない文化活動は無形文化遺産や世界の記憶などを通して保護を行っています。
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そして世界遺産保有数の国別ランキングです。
○世界遺産 国別ランキング
長年にわたって世界遺産最多保有国はイタリアです。
2016年に中国が1件差まで追い上げ、2019年に追いつきましたが、2021年にイタリアが一気に3件を登録してふたたび差を広げました。
ドイツやフランスの世界遺産登録も活発で、ドイツは2021年に一気に5件、フランスは2023年に3件を登録しています。
2021年や2023年に両国の登録が多かったのは2年分の審議を行う拡大世界遺産委員会だったことや、国境をまたがるトランスナショナル・サイトが多かったためです。
2020年の世界遺産委員会から各国の推薦枠は年1件に限られていますが、トランスナショナル・サイトの場合は代表する1か国の推薦枠を使うだけで推薦が可能であるためです。
さて、国別ランキング。
1位はイタリアです。
イタリアは1993年以降、2007年と2012年、2016年を除いて毎回登録数を伸ばしており、1997年にはなんと10件の世界遺産を一度に登録しました。
イタリアに世界遺産が多い理由は、こうして1か国に上限が定められていなかった時代に一気に登録できたことや、現在も非常に積極的である点が影響しています。
歴史的な理由としては、ローマ帝国以来の長い歴史を持つ点、大航海時代まで文明の中心だった地中海を抑えていた点、地中海を介してアジア・アフリカに接している点、バチカンがありルネサンスの中心であった点などが挙げられます。
また、イタリア半島はローマ帝国が滅び、神聖ローマ帝国が去ってから19世紀にイタリア王国が誕生するまで全体をまとめる国がほぼ存在せず、小さな領邦(諸侯や都市による領土・国家)の集まりにすぎませんでした。
ローマ、ナポリ、アマルフィ、ピサ、ジェノヴァ、トリノ、ミラノ、フィレンツェ、ヴェネツィアなどが一例で、おかげでそれぞれの領邦に歴史地区があり、議会や庁舎・宮殿・大聖堂があります。
上記のすべての都市に世界遺産があるのですが、それは領邦国家であったことが影響しています。
同じような背景を持つのがドイツです。
神聖ローマ帝国は国家というより諸侯や都市の連合体。
帝国の下にボヘミア王、ハンガリー王、オーストリア公、ブランデンブルク辺境伯、ケルン大司教、マインツ大司教といった諸侯の領邦や都市があり、神聖ローマ皇帝はその代表者にすぎませんでした。
そのため神聖ローマ皇帝でも自分の所領以外の土地には関与できず、それぞれの領邦が独立を保ち、独自の文化を育んでいたのです。
多数の地方政権があったのはスペインも同じですが、スペインの場合、ローマ帝国時代はローマの影響を受け、続く西ゴート王国の時代はゲルマン人、次のウマイヤ朝・後ウマイヤ朝期はイスラム教、レコンキスタ(国土回復運動)以降はキリスト教カトリックの盟主となり、大航海時代には中南米から多様な文化と莫大な財宝を得ました。
こうした複雑な歴史が多数のユニークな文化遺産を生んでいます。
イタリアに続くのが中国です。
ここ10年で12件を登録しており、登録数の伸びは圧倒的です。
中国は国土が広くて熱帯~寒帯、熱帯雨林~砂漠・ツンドラまで多彩な気候があるうえに、位置的にも東アジア・東南アジア・南アジア・中央アジア・北アジアに接しており、シルクロードを通じて西アジアやヨーロッパとも交流がありました。
50以上の民族が暮らす多民族国家で、過去周辺国へ侵入したり、逆に侵入されたりして多彩な文化・文明が生まれては消えたことが影響しています。
また、中国は世界規模の遺産活動に非常に積極的で、無形文化遺産やユネスコ世界ジオパークにおいてはダントツで世界一を誇り、創造都市も世界一、世界の記憶やユネスコエコパークもベスト10に入っています。
こうした活動の背景には、観光の他に、各民族へのアピールやコントロールも視野に入れているといわれています。
同じことはインドにもいえそうです。
標高0~8,000m以上まで多様な気候が存在し、インドとして1つの国にまとまったことがほとんどないほど民族と文化の多様性に富んでいます。
たとえば憲法指定言語だけでも20以上も存在し、宗教はヒンドゥー教・ジャイナ教・仏教・ラマ教・イスラム教・キリスト教をはじめほとんど無数に存在し、多くの聖地があります。
微妙な動きを見せているのがアメリカです。
アメリカは1995年までに20件の世界遺産を登録しており、その時点ではスペインとインドの21件に続き、フランスと並んで世界第3位の登録数を誇っていました。
しかし1996年以降は2010年まで登録がありません。
実はアメリカはUNESCOの政治的介入を嫌って1984年に脱退しており、復帰は2003年。
脱退後も世界遺産委員会にはオブザーバー(議決権のない傍聴者)として参加しており、資金を拠出して世界遺産も登録していましたが、イエローストーン国立公園などに対する介入を巡って対決姿勢を強め、世界遺産登録に消極的になってしまいました。
2011年にはパレスチナのUNESCO加盟に反対してイスラエルとともに分担金を凍結し、2018年12月31日にふたたび脱退。
2023年7月に復帰しています。
世界遺産保護に対して、たしかにUNESCOや世界遺産委員会は国家の枠を超えた介入を行っています。
シリアやマリ、リビアの内戦による世界遺産破壊に対して懸念を表明し、国際法の立場から圧力をかけています。
また、世界遺産から抹消されたオマーンの「アラビアオリックスの保護区」やドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」、イギリスの「海商都市リヴァプール」のように、危機遺産リストへの登録や世界遺産リストからの抹消をちらつかせて開発計画の撤回を求めたりもしています。
こうしたことが世界遺産活動に対する温度差につながっているのもまた事実です。
世界遺産を保有していない世界遺産条約締約国は以下28か国となっています。
○世界遺産非保有の条約締約国(全196か国中)
-ヨーロッパ
-アジア
-オセアニア・大洋州
-アフリカ
-北アメリカ
-南アメリカ
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続いて無形文化遺産と世界の記憶のトップ10です。
無形文化遺産の件数は合計で、括弧内(代表リスト、緊急保護リスト、グッド・プラクティス)の3つのリストを合計したものをあげました。
グッド・プラクティスは無形文化遺産条約には明記されていませんが、ユネスコの公式サイトでは代表リスト&緊急保護リストと並んで表記されています。
○無形文化遺産 国別ランキング
世界の記憶のランキングは以下。
公式サイトでは一部の海外領土(オランダのアルバ、アンティル、キュラソー、シント・マールテン、イギリスのアンギラ、モントセラト、中国のマカオ)を別扱いしていますが、こちらでは各国に加えています。
○世界の記憶 国別ランキング
無形文化遺産は世界遺産のように価値の審査を行いません。
条約の項目を満たしていれば基本的にリストに掲載されます。
世界の記憶の場合、先進国は各国で貴重な資料をデジタル化をしていることも多かったりします。
ということで、このふたつのランキングにはあまり意味がありません。
さらに、ユネスコエコパークとユネスコ世界ジオパーク、創造都市のランキングです。
ユネスコ世界ジオパークと創造都市はまだ参加国が少ないのでベスト5です。
○ユネスコエコパーク 国別ランキング
○ユネスコ世界ジオパーク 国別ランキング
○創造都市 国別ランキング
○ユネスコ世界危機言語アトラス 国別ランキング
※括弧内は海外領土や自治州の登録物件
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