世界遺産と世界史5.生命の進化:古生代から新生代へ
<古生代>
■バージェス動物群と澄江動物群
バージェス動物群のCGアニメーション
古生代は5億4,000万~2億5,000万年前にかけての時代で、カンブリア紀→オルドビス紀→シルル紀→デボン紀→石炭紀→ベルム紀と移行します。
古生代がはじまるカンブリア紀(5億4,000万~4億9,000万年前)にその後の進化を決定づける多くの生物が誕生しました。
特徴的な生物群がバージェス動物群と澄江(チェンジャン)動物群です。
両動物群とも軟体性の動物が多いにもかかわらず組織の形状がよく残されており、大きな注目を集めました。
海底の堆積物であるためいずれも海洋性で、エディアガラ動物群より大型化しており、外骨格や目といったエディアガラ動物群にはない特徴を有しています。
上の動画はバージェス動物群の生物たちなので前回掲載したエディアガラ動物群の動画と比べてみてください。
澄江動物群も近縁の種が多く似ていることが知られています。
バージェス動物群が発見されたバージェス山周辺は「バージェス頁岩地帯」として1980年に世界遺産に登録されましたが、1984年に「カナディアン・ロッキー山脈自然公園群(カナダ)」の中に吸収されています。
また、澄江動物群が発見された地域も世界遺産「澄江の化石産地(中国)」として登録されています。
■生物の上陸と絶滅
そしてこの古生代、特にシルル紀に生物はついに不毛の大地へと進出します。
植物はコケ→シダへと進化して陸を覆い尽くし、やがて種子植物のうち裸子植物が誕生します。
三葉虫をはじめとする節足動物はさらに進化を遂げ、甲殻類や昆虫、クモが陸にすみ着きます。
身体の中に支柱となる脊柱(せきちゅう。背骨)を持つ脊椎(せきつい)動物も魚類→両生類→爬虫(はちゅう)類と進化して、動物たちが陸を歩き出しました。
古代魚ユーステノプテロンの化石で有名になり、魚類から両生類、爬虫類へ移行するデボン紀の生物の化石が多数発見されたのが世界遺産「ミグアシャ国立公園(カナダ)」です。
また、陸上にすみ着いた石炭紀の両生類、爬虫類の化石は世界遺産「ジョギンズ化石断崖(カナダ)」で数多く発見されています。
そして2億5,000万年前、生物種の90%以上が絶滅する史上最大級の大量絶滅が起こります。
原因は不明ですが、超大陸パンゲア誕生に伴うスーパープルーム(超巨大マグマ塊)の破局的な大噴火が一因に挙げられており、ロシア・シベリアの地下に眠る巨大な大地の裂け目と膨大な溶岩層がその痕跡だといわれています。
この溶岩層はシベリア・トラップと呼ばれており、世界遺産「プトラナ高原(ロシア)」などに見られます。
いずれにせよこの古生代と中生代の境にあたるP-T境界の大量絶滅によって生物の形は大きく変わり、時代は古生代から中生代へと移行します。
* * *
<中生代>
■恐竜の時代
中生代は2億5,000万~6,600万年前にかけての時代で、三畳紀→ジュラ紀→白亜紀と進みます。
中生代の陸の姿は、古生代とはまったく違って見えたことでしょう。
動植物の姿が大きく変わったからです。
動物の主役を演じたのが爬虫類が進化した「恐竜」で、それまでになかった巨大な生物が陸を縦横無尽に闊歩しました。
植物の世界には被子植物、簡単に言えば「花」が誕生して陸を色彩豊かに彩りました。
18世紀末、メアリー・アニングの父は後に「ジュラシック・コースト(恐竜海岸)」と呼ばれることになる海岸で、化石を採っては人々に売って生計の足しにしていました。
父の死後、メアリーは化石の採取を引き継ぎますが、19世紀はじめ、嵐で剥き出しになった海岸でイクチオサウルスの全身の化石を発見します。
これが中生代に現在とはまったく違う巨大な爬虫類が生きていたことの決定的な証拠となりました。
この海岸は「ドーセット及び東デヴォン海岸(イギリス)」として世界遺産に登録されています。
小型の爬虫類が恐竜へと進化する過程を示す化石が次々と発見されたのが世界遺産「イスチグアラスト/タランパジャ自然公園群(アルゼンチン)」です。
中生代三畳紀の化石が大量に発見されており、恐竜はもちろん、新生代に繁栄する哺乳類の進化の様子もよく保存されています。
世界最大級の恐竜化石地帯が「恐竜」の名を冠する世界遺産「恐竜州立自然公園(カナダ)」です。
不毛の大地から突き出す奇岩群が描き出す景観はこの世のものとは思えないということで「バッドランド」と呼ばれています。
約40種もの恐竜の化石が発見されており、特に恐竜の全盛期である中生代白亜紀の化石が集中し、ティラノサウルスやトリケラトプス、プテラノドンといった有名な恐竜の化石もよく出土しています。
他に中生代の地層で知られる世界遺産としては、「サン・ジョルジオ山(イタリア/スイス共通)」や「ドロミーティ(イタリア)」「ドゥルミトル国立公園(モンテネグロ)」などが挙げられます。
■恐竜の絶滅
こうした地層に記録された恐竜の化石は中生代-新生代を分ける6,600万年前のK-Pg境界を機にいっさい見られなくなります。
この時代に地球上の生物種の75%が絶滅した大量絶滅が起こったようです。
原因として現在有力視されているのが隕石衝突説です。
世界遺産「ステウンス・クリント(デンマーク)」や「恐竜州立自然公園(カナダ)」など、世界中に見られる6,600万年前の地層からは、地中に少なく隕石によく含まれているイリジウムや高温でガラス化した岩石テクタイトといった特殊な物質が発見されています。
これらの由来が隕石にあると考えられており、またこうした物質が北アメリカ大陸に多いことから落下地点が推定されるようになりました。
20世紀の終わり頃、石油や地震研究のための海底・地層調査の結果、メキシコのユカタン半島からカリブ海にかけての地域に直径200kmに及ぶ巨大なクレーター痕があることが発見されました。
また、クレーター痕に沿って陥没湖=セノーテが集中するセノーテ・リング(メキシコの世界遺産暫定リスト記載)も確認されており、大地の組成が変わっていることが示されています。
これが世界3大クレーターのひとつ、チクシュルーブ・クレーターです。
衝突した隕石の大きさは直径10~15kmと見られており、衝突の衝撃によりマグニチュード11の地震を皮切りに世界各地で大地震が連鎖し、吹き飛ばされた岩石が再び落ちることで流星雨となって降り注ぎ、数百mの巨大津波が陸地を襲い、空は大量の塵や灰に覆われて太陽は姿を消し、数十年にわたる「隕石の冬」が訪れたといわれています。
他にも、古生代を終わらせたスーパープルームの破局噴火がインドで起こったのではないかという仮説もあったりします。
インド亜大陸の西には全長1,600kmにわたって世界遺産「西ガーツ山脈(インド)」が延びていますが、この山脈から東の標高1,000~2,500mほどの土地はデカン・トラップと呼ばれる玄武岩台地になっています。
あまりに膨大な量であることから洪水玄武岩といわれますが(先述したシベリア・トラップも同様です)、これが火山由来の岩石であることから破局噴火の証拠とされています。
一説では、隕石衝突の数十万年前に破局噴火が起こり、そこに隕石が追い打ちをかけたとされています。
恐竜絶滅をシミュレートしたアニメーション
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<新生代>
■鳥類と哺乳類の進化
新生代は6,600万年前~現在に至る時代で、古第三紀→新第三紀→第四紀と進行します。
新生代の時代に繁栄したのが恐竜の生き残りである鳥類と、母親が赤ん坊を胎内で育てる「胎生」を特徴とする哺乳類です。
新生代初期の化石がよく出土するのが世界遺産「メッセル・ピットの化石地域(ドイツ)」です。
5,000万年以前の地層からワニやカメなど現代につながる爬虫類の化石が発見されており、大きくなる前のウマや小さくなる前のネズミなど、哺乳類の進化の様子をよく表しています。
ちなみに、哺乳類でも特に小さいネズミを無人島に放つと巨大化し、特に大きいゾウを放つと小型化することが知られています。
彼らは必要があって限界までそのサイズを小さく、あるいは大きくしているようです。
おもしろいところではエジプトの世界遺産「ワディ・アル=ヒタン[クジラの谷]」があります。
4,100万~3,700万年前の地層から、陸から海に戻った哺乳動物=クジラの祖先である古鯨類の化石が大量に発見されており、「クジラの谷」と呼ばれるようになりました。
オーストラリアの世界遺産「オーストラリアの哺乳類化石地域[リヴァーズレー/ナラコーテ]」では、生物が棲んでいたとは思えない砂漠地帯から大量の哺乳類の化石が発見されています。
ゴンドワナ時代から続く哺乳類の進化が明らかにされただけでなく、世界の環境が大きく変わっていることを証明しています。
■新たなる絶滅へ
生物は大量絶滅のたびに大きな進化を遂げてきました。
この新生代が終わる次の大量絶滅はいつ起きるのでしょうか?
絶滅要因としては隕石の衝突やスーパープルームの破局噴火、超新星爆発、核戦争などの可能性が指摘されています。
しかし……
2009年、日本の環境省は生物多様性条約に関する国際会議(COP10)のためにまとめた生物多様性白書で、現代を約160万の種が滅びつつある「大量絶滅時代」と位置づけました。
ここ数万年の絶滅ペースは大量絶滅といえるレベルのものであるという科学者も多く、そのひとつの原因に人類による環境破壊を挙げる者もいます。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は2013年に第五次報告書を発表し、大気中の二酸化炭素濃度が急激に上昇している事実を発表しました。
産業革命以前、二酸化炭素濃度は数千年にわたって280ppm程度でしたが現在は390ppm以上で、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等)の濃度はここ80万年の最高値であるとしています。
また、1880~2012年の間に世界の平均気温は0.85度、海水面は110cm上昇し、その主因が人間活動にある確率を95%以上と試算しています。
今後ですが、2100年までに平均気温は0.3~4.8度、海水面は26~82cmの上昇が見積もられています。
4度以上の気温上昇があった場合、ほとんどの氷河が消滅し、生物種の40%が絶滅する可能性があるとしています。
これを阻止しようと2017年に定められたのがパリ協定です。
パリ協定ではふたつの目標、「世界の気温上昇を産業革命以前の2度以下に保ち1.5度に抑える努力を行うこと」と「温室効果ガス排出量を減少に転じ21世紀後半には排出量と吸収量を均衡させること」を掲げており、2020年から履行がはじまる予定です。
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次回はいよいよ人類の誕生・進化・拡散を紹介します。