建築14 アール・ヌーヴォー建築 - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産と建築14 アール・ヌーヴォー建築

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。

なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。

 

■電子書籍『世界遺産で学ぶ世界の建築 ~海外旅行から世界遺産学習まで~』

 1.古代、ギリシア・ローマ、中世編  2.近世、近代、現代編

 3.イスラム教、ヒンドゥー教編    4.仏教、中国、日本編

 

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第14回はアール・ヌーヴォー建築の基礎知識を紹介します。

アール・ヌーヴォー建築の特徴の一例は以下です。

  • 曲線と曲面を多用し、多彩な色彩を用いている
  • 植物や波など自然の造形を取り入れたり模したりしている
  • 鉄とガラスを多用している

 

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<アール・ヌーヴォー建築>

■アーツ・アンド・クラフツ運動とアール・ヌーヴォー

世界遺産「建築家ヴィクトール・オルタによる主な邸宅群[ブリュッセル](ベルギー)」、タッセル邸
アール・ヌーヴォーをはじめて建築に持ち込んだヴィクトール・オルタのタッセル邸。世界遺産「建築家ヴィクトール・オルタによる主な邸宅群[ブリュッセル](ベルギー)」構成資産
世界遺産「建築家ヴィクトール・オルタによる主な邸宅群[ブリュッセル](ベルギー)」、オルタ邸
中央に2棟並んでいるのがオルタ邸で、一方はアトリエ。世界遺産「建築家ヴィクトール・オルタによる主な邸宅群[ブリュッセル](ベルギー)」構成資産
フランスの世界遺産「パリのセーヌ河岸」、グラン・パレの大階段
フランスの世界遺産「パリのセーヌ河岸」、グラン・パレの大階段。新古典主義様式、歴史主義様式、アール・ヌーヴォーの折衷的なスタイルであるボザール様式のパビリオンで、鉄を利用したアール・ヌーヴォーの装飾が施されています (C) Ibex73

18世紀後半、イギリスではじまった産業革命により、大量生産・大量消費社会が浸透していきます。

しかし、工場で生産された画一的で粗悪な商品群に対し、イギリスでは生活工芸品や民芸品(クラフト)の中に芸術(アート)を組み込もうという「アーツ・アンド・クラフツ運動」が展開されます。

 

この運動はさまざまな形で世界各地の芸術運動に影響を与えました。

その一例がフランスの「アール(芸術)・ヌーヴォー(新しい)」です。

 

イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動では自然で古典的なデザインや手法が重視されましたが、それは従来的な芸術品とあまり違いがありませんでした。

これに対し、アール・ヌーヴォーでは鉄やガラスといった加工しやすい新素材を多用し、新しい芸術的潮流を生み出しました。

 

アール・ヌーヴォーの特徴は曲線と曲面、多彩な色彩です。

植物の葉や蔓・花、あるいは波や貝殻・岩、さらには鳥や動物などに見られる曲線や曲面を応用して装飾に取り込み、パステル・カラーから原色までさまざまな色で彩りました。 

 

■ユーゲントシュティール

世界遺産「ウィーン歴史地区(オーストリア)」、カールスプラッツ駅旧駅舎
ウィーンのカールスプラッツ駅旧駅舎。オットー・ワーグナーの設計でウィーン地下鉄の駅として1899年に開業しました。現在は同氏の記念館として公開されています。世界遺産「ウィーン歴史地区(オーストリア)」資産内
ドイツの世界遺産「ダルムシュタットのマティルデの丘」、左が結婚式の塔、その右が展示館、右がロシア礼拝堂、手前の水場がリリエンベッケン
ドイツの世界遺産「ダルムシュタットのマティルデの丘」、左が結婚式の塔、その右が展示館、右がロシア礼拝堂、手前の水場がリリエンベッケン。初期モダニズムの幾何学的でシンプルなデザインの中にユーゲントシュティールの華やかな装飾が随所に見られます

イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動に影響を受けたドイツ語圏のアール・ヌーヴォーは「ユーゲントシュティール」と呼ばれています。

 

ユーゲントシュティールは小手先の装飾ではなく、構造と装飾の一致を目指していたため、アール・ヌーヴォーほどの装飾性はありませんが建物とよく調和したものとなっています。 

 

■モデルニスモ

世界遺産「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院(スペイン)」、サン・パウ病院
癒しの空間を目指したドメネク・イ・モンタネール設計のサン・パウ病院。世界遺産「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院(スペイン)」構成資産
世界遺産「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院(スペイン)」、カタルーニャ音楽堂
カタルーニャ音楽堂。モンタネールの設計で、上部のシャンデリア風立体ステンドグラスはカタルーニャ地方の明るい太陽をかたどっています。世界遺産「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院(スペイン)」構成資産
世界遺産「アントニ・ガウディの作品群(スペイン)」、カサ・パトリョ
カサ・パトリョのファサード。骨のように見える造形から「骨の家」と呼ばれていました。世界遺産「アントニ・ガウディの作品群(スペイン)」構成資産

スペインでは同様の運動は「モデルニスモ」と呼ばれました。

もともとスペインには植物文様を多用したイスラム建築や、イスラム建築の要素を取り入れたムデハル建築などがあったため、伝統的な要素も加えてアール・ヌーヴォー調のデザインが発達しました。

 

こうした独自性の高い芸術運動「カタル-ニャ・ルネサンス」は民族意識の高揚にもつながりました。

スペインでもっとも早くに産業革命を達成したカタルーニャ州の州都バルセロナでは、資産家の支援の下でモデルニスモの動きが活発化しました。

 

ドメネク・イ・モンタネールは「芸術は人を癒す」という信念の下、サン・パウ病院①で草花などの自然の意匠や色彩を取り入れて患者の心に寄り添った病院を完成させました。

その弟子アントニ・ガウディは幼少時から動植物をよく観察してその造形を模倣し、自然で使い勝手がよく心地いい邸宅を目指してカサ・バトリョ②やカサ・ミラ②といった邸宅を建設しました。

※①世界遺産「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院(スペイン)」

 ②世界遺産「アントニ・ガウディの作品群(スペイン)」

 

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シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第15回はモダニズム建築を紹介します。

 


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