建築10 ゴシック建築 - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産と建築10 ゴシック建築

シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」では世界遺産を通して世界の建築の基礎知識を紹介します。

なお、本シリーズはほぼ毎年更新している以下の電子書籍の写真や文章を大幅に削ったダイジェスト記事となっています。

 

■電子書籍『世界遺産で学ぶ世界の建築 ~海外旅行から世界遺産学習まで~』

 1.古代、ギリシア・ローマ、中世編  2.近世、近代、現代編

 3.イスラム教、ヒンドゥー教編    4.仏教、中国、日本編

 

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第10回はゴシック建築の基礎知識を紹介します。

ゴシック建築、特に教会堂の特徴の一例は以下です。

  • 高くトゲトゲしい意匠である
  • バラ窓をはじめガラス窓が多く見られる
  • 彫刻やレリーフで覆われている

 

* * *

 

<ゴシック建築>

■より高く、より明るい建築

ドイツの世界遺産「ケルン大聖堂」
ドイツの世界遺産「ケルン大聖堂」。左がウェストワーク、右が北ファサード。ウェストワークのスパイアの地上高は157.38mを誇り、完成当時は世界でもっとも高く大きなゴシック建築でした。北ファサードの奥に立つ尖塔がフレッシュです (C) Velvet
フランスの世界遺産「ランスのノートル=ダム大聖堂、サン=レミ旧大修道院及びトー宮殿」、ランスのノートル=ダム大聖堂、通称・ランス大聖堂
代々フランス王の戴冠式が行われたランスのノートル=ダム大聖堂、通称ランス大聖堂。数多くのゴシック彫刻で覆われており、縦に二重のバラ窓が見えます。フランスの世界遺産「ランスのノートル=ダム大聖堂、サン=レミ旧大修道院及びトー宮殿」構成資産
スペインの世界遺産「ブルゴス大聖堂」および世界遺産「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路:カミーノ・フランセスとスペイン北部の巡礼路群」
スペインの世界遺産「ブルゴス大聖堂」、中央がサンタ・マリアのファサード、右のバラ窓がサルメンタルのファサード。この大聖堂は世界遺産「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路:カミーノ・フランセスとスペイン北部の巡礼路群」の構成資産でもあります (C) Camino del Cid

「はじめに神は天と地を創造された。地には形なく、虚しく、闇と神の霊が水面を覆っていた。神は『光あれ』といわれた。すると光が現れた。神はその光を見て『よし』といわれた」(『新約聖書』「創世記」より)

 

光=神。

そして神は天に座すものと考えられました。

 

ロマネスク建築はローマ以来の石造天井を持つ重厚な大聖堂を回復しましたが、天井を支えるために壁を厚くせざるをえず、高さもとれませんでした。

12世紀頃からフランス北部を中心に、より高く明るい教会堂が模索されました。

こうして生まれた建築様式が「ゴシック様式」です。

 

ゴシック建築の三大要素は尖頭アーチ、交差リブ・ヴォールト、フライング・バットレスですが、これらの技術はすでにロマネスク建築で取り入れられていました。

だからゴシックの潮流は技術的なものというより、「上」と「光」を目指し、より神々しい場を求めた神学的・芸術的潮流ということができるかもしれません。 

 

ゴシック建築は12世紀にパリを中心としたイル=ド=フランス地方で誕生しました。

そしてパリ郊外のサン=ドニ大聖堂①で確立され、パリのノートル=ダム大聖堂②やシャルトル大聖堂(シャルトルのノートル=ダム大聖堂)③、ラン大聖堂で完成し、フランス北東部のアミアン大聖堂(アミアンのノートル=ダム大聖堂)④やランス大聖堂(ランスのノートル=ダム大聖堂)⑤で開花しました。

 

さらに隣のドイツでも人気を博し、より巨大化しました。

ゴシック最大を誇る教会堂がケルン大聖堂⑥です。

※①フランスの世界遺産暫定リスト記載

 ②世界遺産「パリのセーヌ河岸(フランス)」

 ③世界遺産「シャルトル大聖堂(フランス)」

 ④世界遺産「アミアン大聖堂(フランス)」

 ⑤世界遺産「ランスのノートル=ダム大聖堂、サン=レミ旧大修道院及びトー宮殿(フランス)」

 ⑥世界遺産「ケルン大聖堂(ドイツ)」

■ゴシック建築の三大要素

ドイツの世界遺産「ケルン大聖堂」
ドイツの世界遺産「ケルン大聖堂」。天井に見える山型のアーチが尖頭アーチ、×字が交差四分のリブ・ヴォールトで、柱は複数の柱をまとめた束ね柱。奥のアプスには5連ランセット窓が見えます
フランスの世界遺産「シャルトル大聖堂」
フランスの世界遺産「シャルトル大聖堂」(シャルトルのノートル=ダム大聖堂)のサイド。身廊の下に凸形に側廊が延びており、その上にフライング・バットレスが飛び出しています。右側は翼廊ですが、通常のバットレスが壁を支えています
フランスの世界遺産「ブールジュ大聖堂」
フランスの世界遺産「ブールジュ大聖堂」。身廊から横に枝のように飛び出している支えがフライング・バットレスです。天井は石造ですが、屋根は雨に対して△形に傾斜をつける必要から木造で鉛板が葺かれています(小屋組。木造トラス屋根)

ゴシック建築の三大要素を紹介しましょう。

  • 尖頭アーチ:頂点が尖ったアーチで、半円アーチに代わってヴォールトに取り入れられました。尖頭アーチにすることで内部空間がより高くなり、上を指すような上昇感をもたらすと同時に、荷重を柱により集中させることができるようになりました
  • 交差リブ・ヴォールト:ふたつのヴォールトを交差させた交差ヴォールトの稜線部分をリブで縁取って補強したもの。交差部が×形であれば4分ヴォールト、3又に分かれている場合は6分ヴォールト、4又なら8分ヴォールトと呼ばれます。これにより交差ヴォールトが強化されただけでなく、尖頭アーチと同様、上への指向性を生んで上昇感をもたらしました
  • フライング・バットレス(飛び梁):木の枝のように横に飛び出したアーチ状の支えで、これによって身廊が横に広がって崩壊しようとするスラストに対抗しました

ゴシック建築では交差リブ・ヴォールトを多用することで壁を極力排除しました(交差ヴォールトについては前回の「世界遺産と建築09 ロマネスク建築」参照。これにより天井や屋根の重さを壁ではなく4本の柱に集中させることができるようになりました)。

壁を取り払うことでより軽快で明るい空間を確保しただけなく、柱を中心とした骨組構造にすることで軽量化に成功し、より高い構造が可能になりました。

 

こうして西洋の石造建築はロマネスク建築とゴシック建築によって壁構造(素材を積み上げた壁で屋根や天井を支え空間を確保する構造)から柱梁構造(架構式構造。柱と梁でフレームを築く骨組構造)へと進化しました。

 

ただ、柱は壁に比べて細く軽いため、アーチが横に広がって崩壊しようとする水平力=スラストに耐えることができません。

スラストに対して、ロマネスク建築ではぶ厚い壁や、身廊を支える側廊、あるいは壁状の支え=バットレス(控え壁)で対応していました。

これに対し、ゴシック建築で多用したのがアーチを描くフライング・バットレスです。

 

なお、ヴォールトやバットレスなどについては「世界遺産と建築05 石造建築の基礎知識」なども参照してください。

 

■ステンドグラス、バラ窓

世界遺産「プラハ歴史地区(チェコ)」、聖ヴィート大聖堂
巨大なバラ窓が中央を占める聖ヴィート大聖堂の西ファサード。双塔は高さ82m、別に設けられている鐘楼は高さ96.6mを誇ります。世界遺産「プラハ歴史地区(チェコ)」構成資産
世界遺産「パリのセーヌ河岸(フランス)」、パリのノートル=ダム大聖堂
パリのノートル=ダム大聖堂、北ファサードのバラ窓と、下部は9対18基のランセット窓。世界遺産「パリのセーヌ河岸(フランス)」構成資産
世界遺産「パリのセーヌ河岸(フランス)」、パリのサント・シャペルの上部礼拝堂
レイヨナン様式のステンドグラスに囲われたパリのサント・シャペルの上部礼拝堂。天井には尖頭アーチと交差リブ・ヴォールト、アプスにはランセット窓、側面にはトレーサリーが確認できます。世界遺産「パリのセーヌ河岸(フランス)」構成資産

柱梁構造になることで柱と柱の間は荷重のかからない「カーテン・ウォール(帳壁)」となりました。

この自由になった空間に装飾用の着色ガラスをはめ込み、光をふんだんに取り込むようになした。

「ステンドグラス」の登場です。

 

ステンドグラスには『旧約聖書』や『新約聖書』、あるいは地元で信仰された聖人や福者の物語が描かれました。

また、ステンドグラス上部、窓枠のアーチ部分の装飾「トレーサリー」も飛躍的に発達しました。

 

大聖堂の顔である西ファサード(正面)のウェストワークにはバラの花を思わせる放射状の装飾窓「バラ窓」や、細長い列をなす「ランセット窓」が備えられました。

これらはやがて南ファサードや北ファサードにも取り付けられ、バラ窓とランセット窓が上下に並ぶ意匠が普及しました。

 

■ゴシック彫刻

世界遺産「アミアン大聖堂(フランス)」
「アミアン大聖堂(フランス)」として世界遺産リストに登録されているアミアンのノートル=ダム大聖堂。3つの門のアーチ部分の彫刻群がアーキヴォールトで、アーキヴォールトと扉に挟まれた平板な場所がティンパヌム。バラ窓の下の彫刻群は王のギャラリー
世界遺産「シャルトル大聖堂(フランス)」
世界遺産「シャルトル大聖堂(フランス)」、クワイヤを取り囲むクワイヤ・スクリーンの彫刻群。計200体の彫刻でイエスやマリア、聖人の物語を描いています。神聖さを醸し出すと同時に、文字が読めない信者にその内容を伝える役割を果たしました

盛期ゴシック建築はおびただしい数の彫刻やレリーフといった装飾で覆われています。

代表的なものを紹介してきましょう。

  • ティンパヌム(タンパン):エントランス上部に掲げられたリンテル(まぐさ石)とアーチの間の空間を彩る壁面装飾
  • アーキヴォールト(飾り迫縁):ティンパヌムの上部のアーチ装飾
  • 王のギャラリー:ファサードに設けられた国王や聖人らの彫像群
  • スパイア:西ファサードなどに設置された大尖塔
  • フレッシュ:屋根に設置された尖塔。スパイアの一種
  • ピナクル:装飾用の小尖塔
  • ガーゴイル:悪魔や怪物をかたどった雨樋(あまどい)で、雨水の排出口
  • グロテスク、キメラ:悪魔や怪物をかたどった彫刻で、雨樋としての機能は持っていません
  • クワイヤ:もともと聖職者が聖書を朗読する聖書台が置かれた場所で、やがて聖歌隊が聖歌を歌う場所になりました
  • クワイヤ・スクリーン:内陣(神像や祭壇を収めた聖域)の一部であるクワイヤと外陣(げじん。一般参拝者が訪問可能なエリア)である身廊を隔てる仕切り。ルード・スクリーンあるいはチャンセル・スクリーンとも 

■レンガ・ゴシック/ブリック・ゴシック、木造ゴシック

ドイツの世界遺産「ハンザ同盟都市リューベック」、聖マリア教会と聖ペトリ教会
ドイツの世界遺産「ハンザ同盟都市リューベック」、聖マリア教会(手前)と聖ペトリ教会(奥)。いずれもレンガ・ゴシックですが、特に聖マリア教会はドイツやバルト海沿岸に広がったレンガ・ゴシックのモデルとされました。双塔の2基の大尖塔がスパイア、身廊に立つ尖塔がフレッシュです
フランスの世界遺産「アルビの司教都市」、サント=セシル大聖堂
平面113×35m、西ファサードの鐘楼ポーチの高さ78mと、レンガ造の教会堂としては世界最大級を誇るアルビのサント=セシル大聖堂。フランスの世界遺産「アルビの司教都市」構成資産 (C) ByacC
世界遺産「カルパチア山脈地域のスロバキア地区の木造教会群(スロバキア)」、スロバキア・ヘルヴァルトウの聖フランチェスコ教会
木造ゴシックの傑作、スロバキア・ヘルヴァルトウの聖フランチェスコ教会。世界遺産「カルパチア山脈地域のスロバキア地区の木造教会群(スロバキア)」構成資産

ロマネスク様式は各地の文化の中で発達しました。

一方、フランス北部やドイツで発達したゴシック様式はフランク王国や神聖ローマ帝国が整備したいわゆる「帝国の道」や北海・バルト海交易といった商業の発達によって西ヨーロッパ、北ヨーロッパ、中央ヨーロッパなどに伝えられ、目指すべきスタイルとなりました。

 

北海・バルト海沿岸部の低地では高品質の石が入手しにくかったため、粘土を型枠に入れて焼いた焼成レンガが多用されました。

こうしたレンガを利用して当初はロマネスク様式、後にはゴシック様式の教会堂が建設されました。

これらをレンガ・ロマネスク様式(ブリック・ロマネスク様式)、レンガ・ゴシック様式(ブリック・ゴシック様式)といいます。

レンガ・ゴシックは特にリューベック①とハンザ同盟が北海・バルト海交易を制するとこれらの沿岸部に広がっていきました。

 

また、南フランスにもフランス王国が地中海まで勢力を広げた13世紀のアルビジョワ十字軍の遠征後にゴシック様式がもたらされ、地元のレンガ建築と融合してレンガ・ゴシックが普及しました。

最たる例がアルビ②で、南フランスのレンガ・ゴシックの最高峰とされる建物がアルビのサント=セシル大聖堂です。

 

一方、石造建築の技術を持たないカルパチア山脈③④などの山地では地元の木造建築の技術を活かしてゴシック様式の教会堂を建設しました。

ゴシック様式はもともと柱梁構造で木造軸組構法に近いこともあり、頻繁に模倣されました。

※①世界遺産「ハンザ同盟都市リューベック(ドイツ)」

 ②世界遺産「アルビの司教都市(フランス)」

 ③世界遺産「ポーランド、ウクライナのカルパチア地方の木造教会(ウクライナ/ポーランド共通)」

 ④世界遺産「カルパチア山脈地域のスロバキア地区の木造教会群(スロバキア)」

 

■国際ゴシック、イタリア・ゴシック

イタリアの世界遺産「ヴェローナ市」、サンタ・アナスタシア聖堂
イタリアの世界遺産「ヴェローナ市」、サンタ・アナスタシア聖堂。ロマネスク様式の重厚さとイタリア北部特有の意匠、ゴシック様式のバラ窓や尖頭アーチ、ゴシック彫刻などを融合させたヴェローナ・ゴシックの傑作として知られます
世界遺産「シエナ歴史地区(イタリア)」、シエナ大聖堂
シエナ大聖堂。ファサードにはバラ窓や尖頭アーチ窓、ティンパヌム、ピナクルなどゴシック様式の意匠が見られますが、全体の構成はロマネスク様式です。シエナはフィレンツェのライバルで、ルネサンス様式に対抗してゴシック様式を発達させました。世界遺産「シエナ歴史地区(イタリア)」構成資産
世界遺産「フィレンツェ歴史地区(イタリア)」、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂
フィレンツェ・ルネサンスの象徴、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂。円・正方形・長方形の組み合わせや均等に配された柱、シンメトリーといった幾何学的均衡はルネサンスの典型ながら、バラ窓や下部の尖頭アーチ、ティンパヌムなどにはゴシック様式の影響が見られます。世界遺産「フィレンツェ歴史地区(イタリア)」構成資産 (C) Chabe01

ゴシック美術は北フランスではじまりドイツやスペイン、イギリスへ広がりましたが、イタリアではメインストリームにはなりませんでした。

イタリアにはローマ時代の十分で多彩な手本があったため、ロマネスクの時代からルネサンス的な幾何学構造を重視した質の高い芸術様式が展開されており、それを煮詰める方向で発展していきました。

 

そんなイタリアで広がったゴシックの潮流の一例が「国際ゴシック」です。

ひとつのきっかけは1309~77年にかけて教皇庁がイタリアのローマ①②から南フランスのアヴィニョンに移された教皇のバビロン捕囚(アヴィニョン捕囚)で、教皇たちはフランスの建築家やイタリアの芸術家を呼び寄せて教皇庁宮殿③などを建設・整備しました。

これによりフランスのゴシック様式とイタリアのロマネスク様式やゴシック様式、初期ルネサンス様式が融合したスタイルが確立されました。

 

こうしてイタリアでは折衷的なゴシック様式が普及しました。

重厚なロマネスク様式にバラ窓や尖頭アーチを組み合わせ、イタリア北部のロンバルディア帯(屋根下のノコギリ状のアーチ装飾)やロッジア(柱廊装飾)、ポリクロミア(縞模様)といった装飾を導入し、ヴェローナ・ゴシック④やシエナ・ゴシック⑤といった地方色の強いゴシック様式が生み出されました。

 

また、ルネサンス発祥の地フィレンツェにおいてもサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂⑥の写真を見てもわかるように、ルネサンス様式ながらバラ窓や尖頭アーチ、ティンパヌムなどにゴシック建築の意匠が取り入れられました。

こちらはルネサンス様式との折衷となっています。

 

もともとロマネスク→ゴシック→ルネサンス→バロックという分類や変遷はシームレスなものであるうえに、イタリアでは多彩な様式を混在させた折衷的な建物が多く、確たる分類は難しくなっています。

※①世界遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂(イタリア/バチカン共通)」

 ②世界遺産「バチカン市国(バチカン)」

 ③世界遺産「アヴィニョン歴史地区:教皇庁宮殿、司教関連建造物群及びアヴィニョン橋(フランス)」

 ④世界遺産「ヴェローナ市(イタリア)」

 ⑤世界遺産「シエナ歴史地区(イタリア)」

 ⑥世界遺産「フィレンツェ歴史地区(イタリア)」 

 

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シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」、第11回はルネサンス建築を紹介します。

 


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