世界遺産NEWS 24/12/15:コンゴのオカピ野生生物保護区で進む中国企業による金採掘

コンゴ民主共和国の世界遺産「オカピ野生生物保護区」南西部において、中国企業による金鉱山の開発と採掘が進行中です。

同地を流れるイトゥリ川(コンゴ川の支流であるアルウィミ川の支流)流域では森林伐採や水質汚染、魚や動物の減少が報告されています。

 

企業側は保護区の外で合法的に行っていると主張していますが、保護区の範囲が縮小されており、政府やイトゥリ州の関与も指摘されています。

 

Chinese gold mining threatens a protected UN heritage site in Congo(AP News)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

アフリカ中部には広大な盆地、すなわちコンゴ盆地が広がっており、ほぼ全域が熱帯雨林に覆われています。

コンゴ盆地をU字形に貫くコンゴ川は長さで世界8位、流域面積についてはアマゾン川に次ぐ世界2位を誇ります。

 

コンゴ盆地北東部に位置するオカピ野生生物保護区にはゾウやチンパンジー、ボンゴ、アンテロープをはじめとする多彩な野生生物が生息しており、固有種や絶滅危惧種の数々でも知られます。

なかでも特筆すべきが保護区名にもなっているオカピです。

 

オカピはウマに似た顔、ロバのような体型、足にシマウマの模様を持つ動物で、それでいながらキリンの仲間という珍獣です。

生息はイトゥリ地方の森林に限られており、世界遺産に登録された1996年の時点で生息数は約30,000頭と見積もられ、そのうち約5,000頭がこのオカピ野生生物保護区に集中しています。

現在の生息数は不明ながら、それ以来半減しているともいわれ、絶滅危惧種を集めたIUCN(国際自然保護連合)レッドリストの危機種に登録されています。

オカピ
オカピ。ジャイアントパンダ、コビトカバとともに世界三大珍獣に数えられています (C) Eric Kilby

今回のニュースです。

 

ICCN(コンゴ自然保護協会)によると、中国の企業によって世界遺産「オカピ野生生物保護区」の資産内で金鉱山の開発や採掘が進められている事実が確認されました。

明確な違法行為であることからICCNは政府やイトゥリ州政府に警告し、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)などの国際組織に報告を行いました。

 

特に開発が進んでいるのがムチャチャ鉱山と呼ばれるイトゥリ川沿いの19kmほどのエリアです。

一帯は古くから金が採れることで知られており、これまでも金の採掘は問題となってはいましたが、手掘りの小規模なものに留まっていました。

 

しかし、中国企業はクレーンやトラックといった重機を導入し、隣接の工場で金の精錬を行っています。

森が伐採されているだけでなく、大量の土砂が流出し、金を抽出するための水銀やシアン化合物によって水質汚染も進んでいるようです。

 

下のリンクの画像(先の記事の画像)の推移を見ると、2016年からすでに開発が進められていたことがわかります。

 

2016~24年の開発推移

 

上の画像の場所ですが、Googleマップでは下の地図のタラワ村 "Talawa village" 辺りになります。

比較するとGoogleマップの衛星写真は2018年以前のものであるようで、タラワ村周辺はまだ開発されていません(地図が表示されない場合やコンゴ以外のタラワ村が表示された場合はリロードしてみてください)。

世界遺産の範囲ですが、上の地図の川沿いに西(左)に行くとバジリ "Basiri" という町があると思います。

バジリのすぐ手前が資産の西端であるため、先ほどのタラワ村は資産内ということになります。

 

そしてバジリからタラワ村を越えた先にあるムチャチャ村 "Muchacha" の先辺りまでがムチャチャ鉱山と呼ばれるエリアになります。

Googleマップ上でも川沿いに何か所もハゲた場所があることがわかります。

先ほどの画像のことを考えると、いまはどうなっているのか恐ろしくなりますね。

 

それにしても、なぜ世界遺産の内部で開発が行われているのでしょう?

 

開発は中国企業とイトゥリ州によって計画され、国の鉱業省が許可を与えています。

しかし、なぜかオカピ野生生物保護区の範囲が縮小されており、新たな範囲ではムチャチャ鉱山は範囲外ということになっています。

世界遺産の範囲変更には世界遺産委員会の承認が必要ですが、UNESCOの世界遺産センターによると範囲変更は認められておらず、申請さえ行われていません。

 

APは特派員を派遣したようですが、政府は立ち入りを認めませんでした。

周辺住民への取材によると、多くの森林が伐採されて土砂が流出しており、川の水も汚れているとのこと。

漁業や農業に多大な影響が出ているほか、企業は食材などを持ち込んでいるため売上げにもつながらず、さらに住民は金の採掘を止めたのに中国企業が大規模開発を行っている事実に激怒しているそうです。

 

これに対して企業側は、正式な許可を得た保護区外での採掘であり、森林再生のための資金も拠出しており、数千人の雇用を行っているとして国や地元への貢献をアピールしています。

そしてこの企業は最近、操業許可を更新し、2048年までの採掘を認められたそうです。

 

* * *

 

ICCNは鉱業登録所とタスクフォースを組んで保護区内の採掘を全廃する計画を始動させています。

また、UNESCOはコンゴ民主共和国に対して2025年2月までにこの件に関する報告を求めており、世界遺産委員会の議題に上る可能性があります。

 

心配ですね。

 

 

[関連記事]

世界遺産NEWS 16/01/29:石油開発に揺れるヴィルンガ国立公園

世界遺産NEWS 21/01/26:ヴィルンガ国立公園でレンジャー6人が殺害される

世界遺産NEWS 22/08/20:ヴィルンガ国立公園周辺の資源開発許可を競売へ

 

 


News

★姉妹サイト「世界遺産データベース」を制作中です。現在、ヨーロッパの世界遺産を執筆しています。

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」を立ち上げました。世界遺産を通して世界の建築を学びましょう。

 →世界遺産で学ぶ世界の建築

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産検定攻略法」が始動! 最難関の1級とマイスター攻略を中心に、受検戦略や学習法を紹介します。

 →世界遺産検定攻略法

E-book

■Amazon Kindle

■楽天Kobo

自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の魅力を解説
自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が5月に登録勧告を得て7月の正式登録が確実なものとなった。その内容を紹介する。クリックで外部記事へ
文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群」の魅力を解説
2021年7月に世界遺産登録の可否が決まる文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・岩手・秋田)」の魅力を解説する。クリックで外部記事へ

Topics

 

・All About 世界遺産 新記事

 北海道・北東北の縄文遺跡群

 奄美・徳之島・沖縄島・西表島

 2019年新登録の世界遺産

 ンゴロンゴロ/タンザニア

 イエローストーン/アメリカ

 

・その他

『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『Fine』自然遺産特集執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

New articles

<旅論:たびロジー>

1.あなたは幸せですか?

.麻薬は悪? ゴキブリは汚い?

.裸とワイセツ

 

<エロス論:エロジー>

.遊びの本質

.おいしい、美しい、気持ちいい

.文化SM論

 

<絵と写真の話>

.アートと魂~抽象画とポロック

.ロスコの扉 ~ロスコ・ルーム~

10.写真と抽象芸術~グルスキー

 

<哲学的探究:哲学入門>

1.哲学とは何か?

2.「正しい-間違い」とは何か?

3.証明とは何か?

4.わかる・理解するとは何か?

5.力とは何か? 波とは何か?

6.物質とは何か?

7.見る・感じるとは何か?

8.空間とは何か?

9.時間とは何か?

10.物質と時間を超えて

以下続く。

 

<哲学的考察:ウソだ!>

.無と偶然

.ことだま-はじめに言葉ありき

10.物質とは何か?

11.神とは何か?-一神教と多神教

 

<世界遺産NEWS>

世界遺産最新情報/ニュース

 

<世界遺産ランキング集>

登録基準に見る世界遺産

世界の七不思議

国内集計の世界遺産ランキング

海外集計の世界遺産ランキング

世界遺産国別ランキング

 

<UNESCOリスト集>

日本の遺産リスト

無形文化遺産リスト

世界の記憶リスト

世界遺産リスト

ユネスコエコパーク・リスト

世界ジオパーク・リスト

創造都市リスト

世界危機言語アトラス・リスト

 

<世界遺産の見方>

知性的鑑賞法

感性的鑑賞法

異文化理解の方法論

正しい・間違いの基準

星と大地と古代遺跡

 

<味わう世界遺産>

.王様のワイン トカイ

.命の水 テキーラ

.ポルトガルの宝石 ポート

.神の贈り物チョコレート

 

<世界遺産で学ぶ世界史>

01.宇宙と地球の誕生

02.大陸の形成

03.地形の形成

04.生命の誕生

05.生命の進化

06.人類の夜明け

07.文明の誕生

08.エジプト文明

09.インダス文明

10.中国文明

以下続く。

 

<世界遺産で学ぶ世界の建築>

01.建築の種類1:城と宮殿

02.建築の種類2:宗教建築

03.建築の種類3:メガリス

04.木造建築の基礎知識

05.石造建築の基礎知識

06.ギリシア建築

07.ローマ建築

08.ビザンツ/ビザンチン建築

09.ロマネスク建築

10.ゴシック建築

以下続く。

 

<世界遺産写真館>

1.文化交差路サマルカンド1

2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレア・ヴィヒア寺院

8.福建の土楼1

9.福建の土楼2

10.フォンニャ=ケバン国立公園1

以下続く。

 

<世界遺産攻略法>

1.世界遺産検定攻略の理念と背景

2.世界遺産検定の概要

3.試験戦略の一般論

4.試験戦略の理念

5.世界遺産検定の受検戦略

6.試験勉強の3要素

7.世界遺産検定 最効率学習法

8.時事問題・世界史・検定講座

9.マイスター試験の概要

10.マイスター試験問1・2対策

11.マイスター試験問3対策

12.マイスター試験時間術&解答術

Blog

Link

Search

Site map

○Travel[旅]

○World heritage[世界遺産]

○Art[芸術]

○Logic[哲学]

○Library[私的図書館]

○Profile[プロフィール]

○Work[仕事について]

○Inquiry[お問合せ]

○Blog[ブログ]

※本サイトはリンクフリーです