世界遺産NEWS 24/06/28:諮問機関は世界遺産候補地になぜ「不登録」を勧告するのか? ~不登録勧告と逆転登録の概要~

世界遺産委員会には「不登録」と呼ばれる決議があります。

不登録決議が行われた場合、その物件の再推薦は認められず、世界遺産リストに掲載される権利が永久に失われてしまいます。

非常に厳しい決議ですが、ここ10年で1度しか行われていません。

 

その前に、世界遺産委員会に先だって行われる諮問機関の勧告では、毎年数件が不登録の勧告を受けています。

この勧告を参考に世界遺産委員会が決議を行うわけですが、決議の前に推薦を辞退するケースが大半です。

一方で、不登録勧告から逆転で登録決議を受けた物件もわずかながら存在します。

 

諮問機関はなぜこのような厳しい判定を下しているのでしょうか?

また、逆転登録はなぜ起こったのでしょう?

 

今回は不登録勧告を受けた物件を例に、その理由と傾向を探ります。

 

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■不登録勧告、不登録決議とは何か? ~勧告と決議について~

上空から眺めたドイツの世界遺産「ナウムブルク大聖堂」
ドイツの世界遺産「ナウムブルク大聖堂」。3度の推薦に対してICOMOSは3度の不登録を勧告しましたが、世界遺産委員会はそれぞれ登録延期・情報照会・登録を決議しました (C) RealPixelStreet

まず、決議と勧告について解説しておきましょう。

 

世界遺産リストへの登録を目指す候補地は、目標の年の前年2月1日までに登録推薦書をUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターに提出する必要があります。

 

提出を行い、書類等に不備がない候補地は世界遺産委員会の諮問機関、文化遺産は主にICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)、自然遺産はIUCN(国際自然保護連合)、複合遺産や文化遺産の文化的景観などは両機関の専門調査を受けます。

これらの諮問機関は主に科学者で構成された専門家の集団です。

 

そして世界遺産委員会が開催される6週間前までに、諮問機関は勧告内容を記した調査報告書を作成して世界遺産センターに提出します。

 

登録可否の最終的な決議を行うのは世界遺産委員会です。

任期6年(実質4年)の21委員国の代表が集まった組織で、多くの場合、委員は当該国の役人が担当します。

そして受け取った調査報告書を参考に、毎年6~7月に開催される世界遺産委員会で登録可否に関する4段階の決議を行います。

 

○世界遺産委員会の4段階の決議

  • 登録:世界遺産リストへ登録決定
  • 情報照会:追加情報の提供を要請。3年以内の提出で世界遺産委員会での再審議が可能
  • 登録延期:物件の構成やコンセプトを再考して登録推薦書の提出からやり直し
  • 不登録:登録には不適で、再推薦も不可

 

「勧告」がICOMOSやIUCNといった諮問機関の推奨する意見であるのに対し、「決議」は世界遺産委員会が行う最終決定ということになります。

 

決議に「登録決議」「情報照会決議」「登録延期決議」「不登録決議」があるように、勧告にも同じように「登録勧告」「情報照会勧告」「登録延期勧告」「不登録勧告」の4種類があります。

 

不登録決議は最悪の決定で、行われた場合は再推薦の道も閉ざされます。

ただ、構成やコンセプトを大幅に変えた場合は推薦が可能です。

 

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■日本唯一の不登録勧告、「武家の古都・鎌倉」に対する勧告内容

日本の世界遺産暫定リスト記載「武家の古都・鎌倉」、大仏切通
日本の世界遺産暫定リスト記載「武家の古都・鎌倉」、大仏切通。鎌倉時代の13世紀はじめ以前に京都方面へ向かう幹線道の一部として切り拓かれたものです

鎌倉の物件は1992年に日本の世界遺産暫定リストに「古都鎌倉の寺院・神社ほか」の名称で登載されました。

それから20年を経た2012年にようやく「武家の古都・鎌倉」として推薦が実現しました。

しかし、翌年ICOMOSが出した勧告は不登録でした。

 

勧告では、鎌倉時代の武家文化の独自性と重要性は認めるものの、それを証明するための物的証拠の不十分さや、日本国内のみならず世界レベルの価値を持つことの証明がなされていない点が指摘されています。

特に前者は致命的とも言える内容で、完全な建造物はひとつも残っておらず、確認できるのは防御設備である切通しのような一面的な要素や、物理的な遺構がわずかに残る史跡、小規模で顕著さが不足した武家館跡・港跡などに限られており、武家の権力や庶民の生活の跡を直接示す遺構がほとんど見られない点が問題となりました。

 

結局、日本は推薦を取り下げることになりました。

本件はまだ日本の暫定リストに掲載されていますが、これらの問題を回避する切り口の発見は容易ではなく、鎌倉の推薦活動は休止の状態です。

 

勧告の概要を文化庁の報道資料から抜粋します。

 

○「武家の古都・鎌倉」イコモスの評価結果及び勧告の概要

1.顕著な普遍的価値について

推薦書の説明は十分に包括的であり、鎌倉の歴史的な重要性は十分に説明されているが、現在の資産の状況は、連続した有形文化財として顕著な普遍的価値を有していることを証明できていない。すなわち、鎌倉の歴史的重要性が資産により十全な形で示されていない。

2.完全性及び真実性について

「完全性の条件」は、社寺や切通しを除いて物証として十分満たされていなく、当該資産で提案されている顕著な普遍的価値が証明されていない。一方、「真実性の条件」は満たされている。

3.登録基準(iii)の適用について

鎌倉の武家による政治と文化の伝統は疑いもなく、歴史上ユニークなものである。しかし、構成資産では精神的、文化的な側面については示されているものの、それ以外の要素については物的証拠が少ないか(史跡、防御的要素)、顕著さにおいて限定的なものか(武家館跡、港跡)、あるいはほとんど証拠がないもの(市街地、権力の証拠、生活の様子)である。よって登録基準(iii)の適用について証明されていない。

4.登録基準(iv)の適用について

武家が鎌倉の地を選び、自然への働きかけによって防御性を高めたことは認められるが、それは鎌倉の価値の防御的側面を示すのみ(切通し等)であり、それだけで顕著な普遍的価値を有するとは言えない。一方で、社寺や庭園の景観は重要であるが、武家発祥の地としての国レベルの重要性のみが示されており、比較検討の観点から顕著な普遍的価値については証明されていない。よって基準(iv)の適用について証明されていない。

5.資産及び緩衝地帯の保全について

資産の保全法策と範囲、及び緩衝地帯の範囲については問題なしとされたが、資産全体の視覚的完全性(visual integrity)の観点から資産の周辺が都市化されていることの影響は無視できない。

6.管理体制について

管理の体制は十全であるが、これが実際に機能することを確かめる必要がある。

7.結論

現在の構成資産では、主張する価値のうち武家の精神的な側面は示されているが、防御的側面については部分的にのみ示されており、さらにその他の観点(都市計画、経済活動、人々の暮らし)についての証拠が欠けているという完全性の観点、及び比較検討の観点から、顕著な普遍的価値を証明できていない。

8.勧告

イコモスは、「武家の古都・鎌倉」(日本)について、「不登録」を勧告する。

 

毎年増えていく世界遺産に対して粗製乱造のイメージを抱いている人も少なくないようですが、実際にはこのように非常に厳しい調査・評価が行われています。

この厳しさは世界遺産委員会で多少緩和されるわけですが、そうした実情を見ていきましょう。

 

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■この10年の勧告分析:不登録決議を受けた物件

インドの世界遺産候補地「ビターカニカ保全地域」、ビターカニカ国立公園のイリエワニ
インドの世界遺産候補地「ビターカニカ保全地域」、ビターカニカ国立公園のイリエワニ (C) Bibhudutta1234

ここからはこの10年間(2015~2014年)に開催された世界遺産委員会について分析してみたいと思います。

 

なお、2020年と2022年には世界遺産委員会が開催されていませんが、いずれも翌年の拡大世界遺産委員会で2年分の審議が行われています。

また、2024年は7月21~31日の開催で、未開催となっています。

 

不登録勧告はこの10年で36回出されていますが、このうち17件については推薦国が推薦を取り下げています。

3回は2024年の未開催分なので、過半数は取り下げられたことになります。

 

そして取り下げられなかった物件の世界遺産委員会での決議は、登録決議3件、情報照会決議6件、登録延期決議5件、不登録決議1件、審議延期1件となっています。

 

不登録が決議されたのは以下のただ1件です。

インドは推薦を取り下げはしませんでしたが、世界遺産委員会では激しい議論もなく不登録が決議されました。

 

<2017年 第41回世界遺産委員会>

 

■ビターカニカ保全地域 →不登録勧告→不登録決議

Bhitarkanika Conservation Area

インド、自然遺産(vii)(ix)(x)

ビターカニカ国立公園とふたつの野生生物保護区からなる物件。

IUCNは、ビターカニカ野生生物保護区の一部が私有地であり、紛争があって、家畜の放牧をはじめ農牧業や漁業の影響を受けている可能性を指摘し、完全性に対して懸念を表明した。また、顕著な普遍的価値についても、自然美やヒメウミガメの営巣地、マングローブ、生物多様性、絶滅危惧種、いずれの点においてもインドの他の地域、たとえば同国の世界遺産「スンダルバンス国立公園」やアンダマン諸島の自然と比較して際立っているとは言いがたく、証明が不十分であるとした。

そして、世界遺産委員会は勧告通り不登録を決議しつつ、国立公園や野生生物保護区の重要性を指摘し、取り組みの継続や改善を要請した。

 

不登録勧告からの登録決議は過去10年で3回しか起きていない難関で、そのうち2回は継続的に審議されてきた物件です。

であるのに、不登録勧告を受けてなお世界遺産委員会の審議に進む理由はなんでしょうか?

 

ひとつの理由は、登録決議とまで行かなくても、情報照会決議を得られれば登録に近い成果を獲得することができる点が挙げられます。

情報照会決議を受けた物件は3年以内に追加情報を提出することでふたたび世界遺産委員会で審議を受けることができます。

 

この際、登録推薦書を改めて出す必要はありませんし、新たに諮問機関の調査や勧告を受けることもありません。

つまり、適切な追加情報さえ提出すれば、世界遺産登録の可能性が高いと考えることができるからです。

実際に情報照会勧告の場合はその年の世界遺産委員会で登録決議を受けることがほとんどですし、情報照会決議の場合も3年以内に登録されることが多くなっています。

 

また、その下の登録延期決議にしても、内容を再構成して登録プロセスをやり直すことになるので、推薦を取り下げることとあまり変わりません。

ということで、不登録決議さえ回避できる確信があるなら審議に進むのもマイナスではない、という判断なのかもしれません。

 

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■この10年の勧告分析:不登録勧告から逆転登録を勝ち取った物件

アゼルバイジャンの「ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区」、シェキ・ハーン宮殿
2度の不登録勧告を受けながら逆転で世界遺産登録に成功したアゼルバイジャンの「ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区」、シェキ・ハーン宮殿 (C) Ludvig14

この10年で不登録勧告から逆転で登録決議を得た物件が3件あります。

 

それ以前でよく知られているのが2012年・14年・17年に登録されたパレスチナの3件の世界遺産です。

パレスチナは現在4件の世界遺産を有しますが、2023年登録の1件を除いてすべて緊急的登録推薦(顕著な普遍的価値が明白で、価値の喪失危機に直面した暫定リスト記載物件を手順を短縮して緊急的に推薦すること)が行われており、最初の2件が不登録勧告、3件目が不勧告でしたが、いずれも逆転で登録決議を得ています。

 

  • イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路 →不登録勧告→登録決議
  • パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観 →不登録勧告→登録決議
  • ヘブロン/アル=ハリール旧市街 →不勧告→登録決議

 

パレスチナは2011年にUNESCOに加盟しましたが、アメリカとイスラエルは強く反発し、2018年に脱退する事態に発展しています(アメリカは2023年に復帰)。

 

ICOMOSは勧告で、いずれも緊急的登録推薦の要件を満たしていないとし、特に「パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観」については顕著な普遍的価値についても懐疑的で、「ヘブロン/アル=ハリール旧市街」に関してはイスラエルの妨害により調査をすることさえできずに不勧告となりました。 

それでも世界遺産委員会は登録を決議しましたが、非常に政治色の濃い決定となりました。

UNESCOはしばしばこうした反イスラエル的な決議を採択しています。

 

この10年で逆転登録決議を得た3件のうち、もっともシンプルな例が以下です。

推薦国は世界遺産委員会の14日前までに訂正など追加情報の提出を行うことができるのですが、その結果、世界遺産委員会では議長国であるバーレーンをはじめ登録賛成の発言が相次いで全会一致で逆転登録を勝ち取りました。

 

<2018年 第42回世界遺産委員会>

 

■アハサー・オアシス、進化する文化的景観 →不登録勧告→登録決議

Al-Ahsa Oasis, an evolving Cultural Landscape

サウジアラビア、文化遺産(iii)(iv)(v)

ICOMOSは、数千年前の古代遺跡やディルムン時代に導入されたナツメヤシ農場と水管理システム、隊商貿易都市としての施設・設備をはじめ、その重要性は論を待たないと評価する一方で、ナツメヤシ農場の拡大など過去50年に行われた開発が重要な建造物群に多大な影響を与えており、もはや伝統的な集落と自然環境・農業を結びつける景観を適切に表現しているとは言いがたいと断じた。また、推薦された資産の範囲は文化的景観を示すオアシスの全体や大部分でさえなく、断片化された要素の集合であり、オアシスの伝統的機能のすべての側面を反映しているとは見なせないとした。

これに対して世界遺産委員会は逆転登録を決議し、サウジアラビアが主張するすべての登録基準を認定した。

 

これ以外の2件、ドイツのナウムブルク大聖堂は3度目の挑戦、アゼルバイジャンのシェキ歴史地区は2度目の挑戦で逆転の登録決議を勝ち取っています。

前者は3度すべて、後者は2度すべてで不登録勧告を受けていますから、ICOMOSは最後までそれらの価値を認めなかったことになります。

 

それぞれの不登録勧告の内容を見てみましょう。

 

<2015年 第39回世界遺産委員会>

 

■ナウムブルク大聖堂とザーレ川・ウンシュトルト川の景観 -中世盛期の勢力圏 →不登録勧告→登録延期決議

The Naumburg Cathedral and the Landscape of the Rivers Saale and Unstrut - Territories of Power in the High Middle Ages

ドイツ、文化遺産(iv)(v)

ICOMOSは、ヨーロッパの中世初期・盛期の文化に関する世界遺産はすでにドイツに数多く存在し、既存の遺産でその価値は十分に表現されていると指摘。また、1994年の「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性、信頼性確保のためのグローバル・ストラテジー」でキリスト教に関する物件の過剰が指摘されており、それを覆すだけの比較分析と顕著な普遍的価値の証明がなされていないと断じた。さらに、たしかに「中世盛期の勢力圏」というコンセプトは類を見ないが、複雑に変化する勢力圏を適切に表現したものとは言いがたく、ヨーロッパに点在する類似の土地との相違点も明確ではないとした。そして構成資産の多くは当時の文化的特徴を引き継いでおらず、近代のインフラによる悪影響も大きく、完全性や真正性を満たしていないうえに、資産とバッファー・ゾーンの範囲も合理的ではないと評価した。

ただ、世界遺産委員会は不登録を決議せず、大聖堂や景観の調査や資産構成の見直しなど、大幅な修正を前提に登録延期を決議した。

 

<2017年 第41回世界遺産委員会>

 

■ナウムブルク大聖堂とザーレ川・ウンシュトルト川の文化的景観における関連遺産群 →不登録勧告→情報照会決議

Naumburg Cathedral and related sites in the Cultural Landscape of the Rivers Saale and Unstrut

ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iv)

2015年の第39回世界遺産委員会で不登録勧告→登録延期決議を受けた物件で、構成資産11件をナウムブルク大聖堂を中心とした3件に絞っての再推薦となった。

しかしICOMOSは、顕著な普遍的価値に関して評価は変わっておらず、中心をなすナウムブルク大聖堂について同タイプの世界遺産が散見されることから際立っているとは言えず、登録基準のいずれについても不十分であると評した。文化的景観についても、メインとなる中世盛期以外の建造物を多く含む広大なバッファー・ゾーンに囲まれながら構成資産そのものは小さく、景観として説得力がなく、完全性も真正性も満たしていないとした。

こうした評価に対し、世界遺産委員会は情報照会を決議してその価値を認め、範囲の最適化などを行って3年以内に再推薦することを促した。

 

<2018年 第42回世界遺産委員会>

 

■ナウムブルク大聖堂 →不登録勧告/不勧告→登録決議

Naumburg Cathedral

ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iv)

2015年の第39回世界遺産委員会で不登録勧告→登録延期決議、2017年の第41回世界遺産委員会で不登録勧告→情報照会決議を受けた物件の再々推薦。

ICOMOSは前回の評価報告書において大聖堂の重要性だけでは登録基準のいずれにも該当しないと断じた。今回もその評価を覆す具体的な資料はなく、「ナウムブルクの巨匠」による彫刻作品やクワイア・スクリーンが強調されているものの、動産的な芸術作品がこの建築物の価値の中心を構成することに懸念を表明した。また、登録基準(i)「人類の創造的傑作」には適合せず、登録基準(ii)「重要な文化交流の跡」についてその役割を果たしておらず、登録基準(iv)「人類史的に重要な建造物や景観」についてよりすぐれた例がすでに世界遺産リストに登録されていて際立ったものではないと評した。加えて1994年の「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性、信頼性確保のためのグローバル・ストラテジー」にも触れ、キリスト教に関する物件の過剰について指摘を行った。

ただ、第41回世界遺産委員会で情報照会が決議されたことに触れ、ICOMOSは顕著な普遍的価値を認めていないものの、世界遺産委員会は認める形となっており、その矛盾と理由の不明瞭さを指摘。そのため「勧告は行えない」との立場を示したが、世界遺産センターは不登録として扱った。

第42回世界遺産委員会は登録基準(i)(ii)を認める形で登録を決議し、逆転登録が実現した。

 

<2017年 第41回世界遺産委員会>

 

■ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区 →不登録勧告→情報照会決議

Historic Centre of Sheki with the Khan’s Palace

アゼルバイジャン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)

ICOMOSは、シェキがコーカサス地方の交易路において重要な都市であったことは事実だが、際立っているとまでは言えず、サファヴィー朝やカージャール朝期の建築にしても同様であるとした。建築について、過去や現在進行中の修復においてコンクリートやセメントが使用されるなど不適切な素材が確認されており、規模や技術といった点でも懸念があり、そうした建造物が含まれていることもあって真正性と完全性は不十分であると評価した。また、アゼルバイジャンの暫定リストの更新が2001年からなされていない事実を指摘し、顕著な普遍的価値を示す可能性がある他の物件の調査に関心があることを伝えた。

しかし、世界遺産委員会はこれを覆して情報照会を決議し、資産の構成や範囲、バッファー・ゾーンの最適化、保護体制の改善などをICOMOSとともに進めることを促した。

 

<2019年 第43回世界遺産委員会>

 

■ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区 →不登録勧告→登録決議

Historic Centre of Sheki with the Khan’s Palace

アゼルバイジャン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)

2017年の第41回世界遺産委員会で不登録勧告→情報照会決議となった物件の再推薦。

ICOMOSは今回の推薦でも前回の評価、コーカサス地方において際立った交易都市ではなく、建築的な要素についても顕著な普遍的価値を構成するには足りないことを確認。その後の不適切な修復の再修復など改善中の取り組みは評価したものの、保存状態の問題は解決されておらず、こちらも不十分であると断じ、結論として前回同様に不登録を勧告した。

これに対して世界遺産委員会は、登録基準(ii)「重要な文化交流の跡」と登録基準(v)「伝統集落や環境利用の顕著な例」についてその価値を認め、保全のマスタープランの作成などの注釈を付けつつ登録を決議した。アゼルバイジャンはこの世界遺産委員会の開催国・議長国であり、議長自らが世界遺産委員国の委員として列席するなどアピールを行った。

 

不登録勧告からの逆転登録の場合、専門家集団であるICOMOSやIUCNが否定した顕著な普遍的価値や真正性・完全性はどうなるのでしょうか?

 

勧告を受けた物件について、先述したように推薦国は世界遺産委員会の14日前までに訂正などの追加情報を提出することができます。

世界遺産委員会は登録推薦書と諮問機関の評価報告書、そしてこうした追加情報を判断して結論を下します。

 

不登録勧告に対しては推薦国の反論が書かれており、逆転登録はおおよそ反論が通って決議されることになります。

顕著な普遍的価値や真正性・完全性の判断などもそれに基づいたものになるわけです。

 

それでも諮問機関と世界遺産委員会の判断にはしばしば差異が生じます。

こうした欠陥を是正するための方策の一例がプレリミナリー・アセスメントやアップストリーム・プロセスです。

 

[関連記事]

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■この10年の勧告分析:不登録勧告を受けた物件の全リスト

イタリアの「コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘」、ヴァルドッビアーデネのブドウ畑
1度は不登録を勧告されたものの、2度目の推薦で登録勧告を勝ち取り、2019年に世界遺産リストへの登録が実現したイタリアの「コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘」、ヴァルドッビアーデネのブドウ畑 (C) Alberto Davide Lorenzi

以下ではこの10年間に出された不登録勧告の概要をすべて紹介します。

ただ、これまでに紹介したものについては省略します。

 

不登録勧告の理由として目立つのは「顕著な普遍的価値が証明されていない」というもので、10項目ある登録基準のいずれかを確実に満たしていることの証明が必須です。

また、価値といっても国や地方レベルではなく世界レベルであり、他の世界遺産や候補地・その他の遺産と比較して唯一であるか、もっともすぐれている必要がある点も重要視されています。

これは、ある文化や自然の切り口・ストーリーの最上の一例を代表して世界遺産リストに登録するという「代表性」の考え方が反映されています。

 

加えて、文化遺産の形状・意匠・素材・工法・用途等がそれぞれの文化的背景の独自性や伝統を正しく継承していることを示す「真正性」、顕著な普遍的価値を構成する要素をすべて含み保護のための法体制や適切な大きさ等が確保されていることを表す「完全性」に加え、十分な保護体制が敷かれていることも考慮されます。

以下を読むと、ICOMOSやIUCNがこうした世界遺産のコンセプトに忠実であろうとしていることがよくわかると思います。

 

<2015年 第39回世界遺産委員会>

 

■ハル・イン・チロルの造幣局 →不登録勧告→推薦取り下げ

Hall in Tirol - The Mint

オーストリア、文化遺産(i)(ii)(iv)

ICOMOSは、15世紀以降のハル・イン・チロルにおける銀貨造幣に関するイノベーションについて、ヨーロッパ内外の経済システムに多大な影響を与えた貨幣改革の重要性を認めたものの、ハーゼック城の造幣局関連の建造物や施設・設備の多くが失われ、後期ゴシック様式を中心とした街並みについても銀貨造幣の中心的な時代とズレており、その価値を証言する建造物群とは言いがたいと評価した。同じように銀の町であるボリビアの世界遺産「ポトシ市街」では当時の鉱山から王立造幣局まで製造チューンの全体が保存されているのに対し、本件は顕著な普遍的価値を証明する物理的な証拠が不足しており、真正性・完全性ともに満たされていないと結論付けた。

 

■ナウムブルク大聖堂とザーレ川・ウンシュトルト川の景観 -中世盛期の勢力圏 →不登録勧告→登録延期決議(2018年に世界遺産登録)

The Naumburg Cathedral and the Landscape of the Rivers Saale and Unstrut - Territories of Power in the High Middle Ages

ドイツ、文化遺産(iv)(v)

先述。

 

■トゥルグ・ジウの記念碑群 →不登録勧告→推薦取り下げ

The Monumental Ensemble of Targu Jiu

ルーマニア、文化遺産(i)(ii)

ルーマニアが誇る20世紀の彫刻家コンスタンティン・ブランクーシの作品群をまとめた物件。

ICOMOSは、中心となる彫刻作品『無限の柱』はよく知られているものの、『英雄の道』『キスの門』『沈黙のテーブル』『アリーの椅子』という他の4件の構成資産の顕著な普遍的価値や世界的影響については根拠が不十分であり、論理的・科学的に証明されたとは言いがたいとした。また、構成資産5件の必然性や真正性・完全性の証明も不十分であると評する一方で、『無限の柱』にのみ焦点を当てた場合、顕著な普遍的価値が認められる可能性があることを指摘した。

 

<2016年 第40回世界遺産委員会>

 

■フォルムの記念碑的建造物群のあるザダル半島のローマ時代アーバニズム →不登録勧告→推薦取り下げ

Roman Urbanism of the Zadar Peninsula with the Monumental Complex on the Forum

クロアチア、文化遺産(ii)(iii)(iv)

2012年に推薦され、翌年、不登録勧告を受けて取り下げられた物件の再推薦。

ICOMOSは、ザダルにはたしかに公共広場であるフォルムや直交する都市グリッドをはじめローマ時代の遺構が保存されているが、ローマの都市プランを示す他の都市遺跡と比較して優位性を確認することができないと評価した。ザダルは長く豊かな歴史を誇るが、その変遷や建築様式の多様性などについて登録基準を満たすものとまでは言えず、顕著な普遍的価値の証明が不十分であり、この点については前回の勧告と同様で改善がなされていないとした。

 

■リマーニュ盆地のピュイ火山群の火山構造体 →不登録勧告→情報照会決議(2018年に世界遺産登録)

Tectono-volcanic Ensemble of the Chaine des Puys and Limagne Fault

フランス、自然遺産(vii)(viii)

2013年に推薦され、不登録勧告→情報照会決議を受けた物件の再推薦。

IUCNは登録基準(vii)の「類まれな自然美」について、地球規模で評価した場合、同レベルの景観は西ヨーロッパを中心に他にも存在し、顕著で普遍的な美的価値とまでは評価できないとした。また、その景観も自然に加えて農牧業などを含む人間の土地利用の跡が含まれており、完全性について懸念を表明した。また、登録基準(viii)「地球史的に重要な地質や地形」について、地質学の専門的な視点から理由付けされているが、あまりに狭く、世界遺産の顕著な普遍的価値の概念とは一致しないと指摘。同様の隆起・断層・火山活動は既存の世界遺産や候補地などでも見られるもので、「スイスのサルドーナ地殻変動地帯(スイス)」の断層や「ピナカテ火山とアルタル大砂漠生物圏保存地域(メキシコ)」「カムチャツカ火山群(ロシア)」の火山のように際立ったものではないと断じた。

ただ、世界遺産委員会は登録基準(viii)を満たす可能性があると判断して情報照会を決議。IUCNの勧告や評価を参考に修正し、資産やバッファー・ゾーンを見直すことを求めた。

そして2017年に再々推薦され、翌年登録勧告を受けた後、第42回世界遺産委員会で登録が決議された。

 

■クイテンダグの山岳生態系 →不登録勧告→登録延期決議

Mountain Ecosystems of Koytendag

トルクメニスタン、自然遺産(vii)(ix)(x)

IUCNは登録基準(vii)の「類まれな自然美」、登録基準(ix)の「生態学的・生物学的に重要な生態系」、登録基準(x)の「生物多様性に富み絶滅危惧種を有する地域」について、中央アジアにおいて際立った例とは言いがたく、西天山(後にウズベキスタン/カザフスタン/キルギス共通の世界遺産として登録)をはじめ同等以上の土地が見られるうえ、同国内においても他に重要な場所が挙げられるとし、その価値を否定した。加えて構成資産の4件の保護区の範囲は村や採石場・農牧場などを避けるため不自然に指定された箇所も少なくない一方で、カプタハナ洞窟のように動物相についてもっとも重要と思われる物件が含まれていないと指摘。資産やバッファー・ゾーンの範囲は生物の移動などを考慮して十分な広さと形状を持つべきであり、その基準に達していないと評した。そのうえで、同国には他に価値ある自然遺産候補地があり、より可能性の高い物件の推薦を優先することを推奨した。

IUCNの不登録勧告に対し、世界遺産委員会は登録延期を決議し、IUCNの支援を受けて範囲などの修正を行うことを促した。

 

<2017年 第41回世界遺産委員会>

 

■ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区 →不登録勧告→情報照会決議(2019年に世界遺産登録)

Historic Centre of Sheki with the Khan’s Palace

アゼルバイジャン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)

先述。

 

■ナウムブルク大聖堂とザーレ川・ウンシュトルト川の文化的景観における関連遺産群 →不登録勧告→情報照会決議(2018年に世界遺産登録)

Naumburg Cathedral and related sites in the Cultural Landscape of the Rivers Saale and Unstrut

ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iv)

先述。

 

■オルヘイ・ヴェキの考古学的景観 →不登録勧告→推薦取り下げ

Orheiul Vechi Archaeological Landscape

モルドバ、文化遺産(v)

2008年に推薦され、自然遺産として不登録勧告、文化遺産について登録延期勧告を受けた物件で、文化遺産としての再推薦となった。

ICOMOSは登録基準(v)「伝統集落や環境利用の顕著な例」について、歴史的変遷の中でさまざまな時代の痕跡が重なっている点は確かだが、それがこの地域で際立っていることが十分に証明されていないと評価した。13~15世紀のモンゴル・タタールの時代の跡が中世の町に組み込まれている姿は興味深いが、むしろ登録基準(ii)「重要な文化交流の跡」にふさわしいものであり、それでも顕著な普遍的価値は十分に示されていないとした。同国の暫定リストにはこの他1件しか掲載されていないが、アップストリーム・プロセスを利用した新しい物件の発掘を促した。

 

■伝統的商業港ホール・ドバイ →不登録勧告→情報照会決議

Khor Dubai, a Traditional Merchant’s Harbour

アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(iii)(vi)

2014年の第38回世界遺産委員会で不登録勧告→登録延期決議を受けた物件の再推薦。

ICOMOSは、多彩な文化を背景とする商人たちが継続的に活動を行ってきた伝統的商業港である点は認めるが、1950年代以降の開発によって多くが失われ、伝統を示す建造物群の数と範囲が縮小・断片化したことを指摘。一部に真正性が認められる地域は存在するものの、伝統的商業港の価値を部分的に示すものにすぎず、市場や住宅街など断片化された景観ではその全体を示すことができないと評した。そのうえで、個々の建造物として顕著な普遍的価値が認められるものでもなく、また再建された地域では伝統的・継続的な商業的・文化的交流が認められないとした。

これらの指摘に対し、世界遺産委員会は情報照会を決議し、資産とバッファー・ゾーンの最適化を進めると同時に、ICOMOSの指示を仰ぐことなどを勧告した。

 

■サルトの折衷主義建築[1865~1925年]、レヴァントにおける建築言語の起源と進化 →不登録勧告→登録延期決議(2021年に世界遺産登録)

As-Salt Eclectic Architecture (1865-1925), Origins and Evolution of an Architectural Language in the Levant

ヨルダン、文化遺産(ii)(iii)

8件の構成資産に含まれる22の折衷主義建築を登録した物件。

ICOMOSは、19~20世紀に築かれたこれらの建築物が美的価値や歴史的重要性を持つことは認めたものの、その価値はレバノン国内のレベルに留まっており、レヴァント地方において比類ない価値を持つことの証明が不十分であり、土着の文化からの展開の説明もなされていないことを指摘した。

しかし、世界遺産委員会は登録延期を決議し、ICOMOSや世界遺産センターの支援を受けながら類似の物件との比較研究を進め、資産の構成や範囲などを適切に定めることを促した。

本件は2019年に再推薦され、2021年に登録勧告を受けた後、登録の決議を勝ち取った。

 

■ビターカニカ保全地域 →不登録勧告→不登録決議

Bhitarkanika Conservation Area

インド、自然遺産(vii)(ix)(x)

先述。

 

■モール国立公園 →不登録勧告→推薦取り下げ

Mole National Park

ガーナ、自然遺産(vii)(ix)(x)

IUCNは登録基準(vii)の「類まれな自然美」について、断崖や洞窟・滝といった地形や、渡り鳥やゾウが見せる景観は国内的に際立ったものではあるが、世界規模では卓越したものではないと指摘。登録基準(ix)の「生態学的・生物学的に重要な生態系」についても、ゾウやライオン、リカオンといった大型哺乳動物の減少はその価値を弱めており、アフリカにはより大規模で価値の高い世界遺産が他に存在すると評した。また、登録基準(x)の「生物多様性に富み絶滅危惧種を有する地域」に対しても、ゾウやライオンの個体数は類似の世界遺産と比較して少なく、しかも減少傾向で維持は困難であり、世界遺産における生物多様性のギャップを埋めることにも貢献しないと断じた。

 

<2018年 第42回世界遺産委員会>

 

■コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘 →不登録勧告→情報照会決議(2019年に世界遺産登録)

Le Colline del Prosecco di Conegliano a Valdobbiadene

イタリア、文化遺産(iv)(v)

プロセッコは11%程度の低いアルコール度数とドライな味わい、フレッシュでフルーティーな香りを持つ独創的なスパーリング・ワインで、一帯は特にイタリアの原産地名称保護制度で最上級を示すD.O.C.G.のプロセッコ・ディ・コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネの産地として名高い。

しかしICOMOSは、この地のブドウ畑を中心とした景観がヨーロッパの他のブドウ畑の景観と比較して際立っていることの証明が不十分であるとし、その重要性はすでに世界遺産に登録されているいくつかのブドウ景観地で表現されているように考えられると評した。

これに対して世界遺産委員会は登録基準(iv)「人類史的に重要な建造物や景観」と登録基準(v)「伝統集落や環境利用の顕著な例」を満たす可能性を指摘し、資産やバッファー・ゾーンなどの見直しを要請しつつ、情報照会を決議した。

本件は2018年に再推薦され、翌年登録勧告を受けた後、登録の決議を勝ち取った。

 

■ナウムブルク大聖堂 →不登録勧告/不勧告→登録決議

Naumburg Cathedral

ドイツ、文化遺産(i)(ii)(iv)

先述。

 

■伝統的商業港ホール・ドバイ →不登録勧告→推薦取り下げ

Khor Dubai, a Traditional Merchants’ Harbour

アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(iii)(vi)

2014年の第38回世界遺産委員会で不登録勧告→登録延期決議、2017年の第41回世界遺産委員会で不登録勧告→情報照会決議を受けた物件の再々推薦。

ICOMOSは、伝統的商業港としてのホール・ドバイの特徴はクリーク(小規模の入江・浦)群に表れているが、1950年以降の埋め立てや都市開発によってクリーク群と3つの歴史地区、市場などを結ぶ空間的関係が不明瞭になり、それぞれが断片化したことで自由貿易港へと発展する歴史的価値を表現することが難しくなっていると指摘。価値の中心をなすクリーク群は部分的にしか示されておらず、市場や住宅街といった港の全体的な景観では傑出したものとは見なせないと評価した。ICOMOSは3回連続で不登録を勧告し、今回については推薦国も審議を見送った。

 

■交易の時代:ジャカルタ旧市街[旧名バタヴィア]と4つの島嶼部[オンルス、ケロル、シピル、ビダダリ] →不登録勧告→推薦取り下げ

Age of Trade: Old Town of Jakarta (formerly Old Batavia) and 4 Outlying Islands (Onrust, Kelor, Cipir and Bidadari)

インドネシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)

オランダ海上帝国の繁栄を伝えるジャカルタ旧市街の街並みと、防衛施設や港湾施設として使用されたジャカルタ湾の4島を登録した物件。

ICOMOSは、オランダの物理学者シモン・ステヴィンが関与したと伝わる理想都市バタヴィアの都市プランの重要性は認めたものの、城壁や要塞のほとんどが撤去され、運河の多くが埋め立てられており、現在ではほぼ判別できないものとなっている点を指摘。また、植民地に築かれた西洋の港湾都市として際立ったものとは言いがたく、よりすぐれた例がすでに世界遺産リストに見られると断じた。また4島についても、旧市街との関係が明瞭でなく、同じ価値が共有されているとは言えず、完全性を満たしていないと評した。

 

■アハサー・オアシス、進化する文化的景観 →不登録勧告→登録決議

Al-Ahsa Oasis, an evolving Cultural Landscape

サウジアラビア、文化遺産(iii)(iv)(v)

先述。

 

■古泉州[ザイトン]の歴史的建造物群と史跡群 →不登録勧告→情報照会勧告(2021年に世界遺産登録)

Historic Monuments and Sites of Ancient Quanzhou (Zayton)

中国、文化遺産(ii)(iii)(vi)

古泉州は10~14世紀にかけて陸上・海上交易で繁栄した交易都市で、当時の交易ネットワークを表現する16の構成資産からなっている。ただ、海沿いの港湾都市であることや「海のシルクロード」とのつながりは強調されていない。

ICOMOSは、16の構成資産は多彩ではあるがコンセプトが明確ではなく、そのつながりにしても個別に捉えた場合にしても中国の他の場所と比較して際立っているとは言いがたいと評し、顕著な普遍的価値が証明されていないと断じた。ただし、海のシルクロードとのつながりは十分に解明されてはいないものの、文化的影響をより広い地域に与えあるいは受けた国際的重要性が証明される可能性があり、研究の余地があるとした。

これに対して世界遺産委員会は登録基準(ii)(iii)(vi)を満たす可能性が高いとして情報照会を決議し、海のシルクロードの研究を進め、資産の範囲やバッファー・ゾーンの最適化などを要請した。

本件は2019年に再推薦され、2021年に登録勧告を受けた後、登録の決議を勝ち取った。

 

■アラスバーラン保護区 →不登録勧告→登録延期決議

Arasbaran Protected Area

イラン、自然遺産(ix)(x)

IUCNは、資産の中で5つの保護地域に含まれているのはわずか12.4%で、その大部分は適切な法的保護下になく、またバッファー・ゾーンの中に保護地域が存在するなど範囲設定は合理性を欠いており、完全性は満たされていないと指摘。登録基準(ix)の「生態学的・生物学的に重要な生態系」について、国や地方の重要性に留まっていて世界レベルの価値の証明が不十分であり、また登録基準(x)「生物多様性に富み絶滅危惧種を有する地域」に対しても生物多様性で際立っているとまで言えず固有種や絶滅危惧種も比較的少ないとして、顕著な普遍的価値の証明がなされていないと評価した。

世界遺産委員会は、IUCNの指摘した完全性の問題やペルシアヒョウなど固有種や絶滅危惧種などの研究を進めることなどを条件に、登録延期を決議した。

 

<2019年 第43回世界遺産委員会>

 

■プリオラート=モンサン=シウラナ、地中海のモザイク状文化的農業景観 →不登録勧告→推薦取り下げ

Priorat-Montsant-Siurana, Mediterranean mosaic, agrarian cultural landscape

スペイン、文化遺産(v)(vi)

7,000年にわたる農業と牧畜の様子を示す地中海の典型的な文化的景観で、農牧業のモザイク状の土地利用が景観として目に見える形で保存されている。

しかしICOMOSは、こうした土地利用はヨーロッパの地中海沿いでよく見られるものであり、イスラム教時代の痕跡や修道会の影響といったものについても価値の証明が十分になされておらず、既存の世界遺産やその他の土地と比較して際立った特徴が見られないと評価した。そのうえで、たしかに土地開発やインフラの影響を受けていないという点で重要性を有するが、それは顕著な普遍的価値を構成するものではないと断じた。

 

■ホゲ・ケンペンの農業-工業移行の景観 →不登録勧告→推薦取り下げ

Hoge Kempen Rural-Industrial Transition Landscape

ベルギー、文化遺産(iv)

19世紀の農業を中心とした経済システムから20世紀の工業を中心とした経済システムへの移行を示す物件で、農地を中心とした農業景観、鉱山を中心とした産業景観、そして庭園都市を特徴とする。

しかしICOMOSは、こうした景観は世界的、あるいはヨーロッパの地方レベルでも他に見られるもので際立っているとは言いがたいと指摘。3つの景観の組み合わせとつながりについても、個々の建造物について真正性は確保されているものの、それぞれが断片化されていて視覚的な連続性がなく、景観としての一体性に欠けると評価した。

 

■ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区 →不登録勧告→登録決議

Historic Centre of Sheki with the Khan’s Palace

アゼルバイジャン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)

先述。

 

■地中海アルプス →不登録勧告→推薦取り下げ

Alpi del Mediterraneo – Alpes de la Méditerranée

イタリア/フランス/モナコ共通、自然遺産(viii)

3か国にまたがる8件の構成資産からなる物件で、主として生物学的価値を守るためのトランスバウンダリー(国境をまたがる規模)・国・地方レベルの保護区の集合体となっている。しかし、今回は登録基準(viii)「地球史的に重要な地質や地形」を満たすものとして推薦された。

IUCNは、3つの地殻変動サイクルの地質学的特徴を表現しているという主張に対し、国や地方レベルの重要性を示しているものの、そうした特徴が世界で唯一であるか、もっともすぐれていることの証明がなされていないとし、さらには生物学的価値においても同様であると評価した。また、構成資産とバッファー・ゾーンの選択と範囲についても、地質学的価値の観点から指定されたものでないため合理性を欠いており、保護体制や完全性が不十分であることを指摘した。

 

<2021年 第44回世界遺産委員会>

※コロナ禍につき2020年の世界遺産委員会は延期され、2021年に2年分が審議された

 

■スピナロンガの要塞 →不登録勧告→推薦取り下げ

Fortress of Spinalonga

ギリシア、文化遺産(iv)(vi)

16世紀に建設されたヴェネツィアの要塞で、1715年にオスマン帝国領となってから集落となり、1904~57年にかけてハンセン病患者の療養所として稼働した。

ICOMOSは、ヴェネツィアの要塞としての特徴は世界遺産「16~17世紀ヴェネツィア共和国の軍事防衛施設群:スタート・ダ・テッラ-西部スタート・ダ・マーレ(イタリア/クロアチア/モンテネグロ共通)」の一連の要塞群によってよりよく表現されており、比類ない世界的な価値を証明できていないと指摘。ハンセン病施設としての歴史的役割についても際立っている点の情報が不十分であり、過度の修復や再建の結果、保全状態にも問題があると評価した。

 

■ラ・イサベラの歴史的・考古学的遺跡 →不登録勧告→推薦取り下げ

Historical and Archaeological Site of La Isabela

ドミニカ共和国、文化遺産(ii)(v)

ラ・イサベラは同国の世界遺産であるサント・ドミンゴに次ぐスペインのカリブ海植民都市だが、4年以内に入植者の半数が死亡し、入植者がもたらした疾病によって先住民が激減して失敗に終わった。

ICOMOSは、残されたわずかな遺構だけではヨーロッパ人が新世界をどのように改変したか不明確で、ふたつの文化の合流や、入植者と先住民の間の交流も確認することができないとして、価値証明が不十分であと断じた。ただ、この遺跡は入植者と先住民の両サイドの反乱を記録しており、それが後のキリスト教や科学技術の浸透・識字率の向上などの利益や、先住民文化の撲滅といった不利益をもたらしたことが示唆され、ラ・イサベラの失敗が入植方法に大きな影響を与えた可能性を指摘し、アプローチの転換と新たな研究の必要性を強調した。

 

■クラシカル・カルスト →不登録勧告→推薦取り下げ

Classical Karst

スロベニア、複合遺産(vii)(viii)(ix)(x)

一帯は広大なカルスト台地で、資産内に654、バッファー・ゾーン内に845の洞窟群を有している。

IUCNは最重要のポリエ(溶食盆地)が資産に含まれていないなど範囲設定と区分けの根拠が曖昧で、完全性について疑問を呈した。また、国や地方自治体が所有する土地が26%にすぎないとし、私有地や軍管轄地が多くを占め、バッファー・ゾーンについては保護されていない地域が散見されることに懸念を表した。顕著な普遍的価値について、この物件単独では登録基準(vii)(viii)(ix)(x)のいずれも満たされないとしつつ、バッファー・ゾーンを接する同国の世界遺産「シュコツィアン洞窟群」の価値を補完するものとしてであればいずれの登録基準も認めうると評価した。結論として、単独登録ではなく、世界遺産の範囲を拡大して登録基準(vii)(viii)(x)の下でクラシカル・カルストを含めることを検討するよう促した。

 

■ホルカ・ソフ・ウマール:自然及び文化遺産[ソフ・ウマール:神秘の洞窟群] →文化遺産:不登録勧告、自然遺産:不登録勧告→推薦取り下げ

Holqa Sof Umar: Natural and Cultural Heritage (Sof Umar: Caves of Mystery)

エチオピア、複合遺産(iii)(v)(vi)(vii)(viii)

ウェイブ川沿いに点在するソフ・ウマールの洞窟群を対象とした物件で、自然美や地質学的価値のみならず、洞窟を利用した文化的側面も考慮して複合遺産として推薦された。

ICOMOSは、イスラム教の文化的慣習や伝統との関係など文化遺産としての情報が限られていて価値の証明がなされておらず、完全性や真正性、保護体制についても条件が満たされていないと評価した。

IUCNは登録基準(vii)「類まれな自然美」について、美的重要性は国や地方レベルであり、世界遺産や他の世界的な洞窟群と比較して国際的なレベルに達していないとし、落書きや電気配線・廃棄物などによって美的価値が損なわれていると断じた。また、登録基準(viii)の「地球史的に重要な地質や地形」についてもアフリカで重要であっても世界レベルであることの証明がなされていないとし、世界遺産リストにはこれ以上の洞窟群が複数登録されていると指摘した。

 

■リベイラ・サクラ →不登録勧告→推薦取り下げ

Ribeira Sacra

スペイン、文化遺産(iii)(iv)(v)

中世から現在まで綿々と続く修道院を中心とした文化的景観と伝統的生活様式を示すものとして推薦された。

しかしICOMOSは、50を超える世界の類似の物件と比較分析を行っているように、同様の遺産は世界的に非常に多く、その中で突出した価値を証明できていないと断じた。流域の多数のダムが景観に影響を与えているが、修道院の歴史や宗教との関係、伝統的な土地利用にどのように貢献し、評価されているのか定かでなく、その意義が見出せないと評した。また、現在まで継続する景観であるとの主張に対し、修道院が土地を接収された19世紀以降、景観は大きく変化し、シトー会の小さなコミュニティを除いて修道会の活動も中止されており、修道院が管理していた農業景観を視認するのも難しくなっていると指摘した。

 

■グダニスク造船所-ヨーロッパにおける「連帯」誕生の地であり鉄のカーテン崩壊の象徴 →不登録勧告→審議延期

Gdańsk Shipyard - the birthplace of “Solidarity” and the symbol of the Fall of the Iron Curtain in Europe

ポーランド、文化遺産(iv)(vi)

2006年に推薦し、翌年不登録勧告→推薦取り下げとなった物件の再推薦。

グダニスクは造船業が盛んな16世紀以来の港湾都市で、特にレーニン記念グダニスク造船所(レーニン造船所)は冷戦期、東側屈指の造船所として機能した。1980年にストライキが発生して独立自主管理労働組合「連帯」が結成されて全国的な労働組合組織に発達すると、やがて反共・民主化運動をリードしてポーランド共和国の成立を導いた。これを端緒に共産主義政権が連鎖的に倒れる1989年の東欧革命が勃発した。

ICOMOSは、造船所がソ連の共産主義計画の典型であり、連帯の誕生地で、鉄のカーテン崩壊の象徴であるとの主張に対し、比類ない典型的な造船所であることや、連帯や歴史的出来事との直接的・具体的な関係性が明示されておらず、過去30年のあいだ放置されていたことから多くの部分が失われたことを指摘。また、本当にこの造船所や連帯の運動が鉄のカーテンやソ連の崩壊、冷戦の終結の決定的なきっかけとなったか否かについて、あるいは現在も生きている共産主義のイデオロギーの意味について種々の議論があることも示された。そして、顕著な普遍的価値も真正性・完全性も証明されていないとし、2003年にグダニスクの関連資料が「世界の記憶」に登録されたように、世界遺産条約以外のプログラムの方が適していると結論付けた。

ポーランドやハンガリーといった旧社会主義国とロシアや中国といった現社会主義国の対立を煽りかねない事態となり、また議論が進められている近年の紛争に関する「記憶の場」に関連した物件ということで、世界遺産委員会は審議の無期延期を決定した。

 

■グロビニャの考古遺跡群 →不登録勧告→推薦取り下げ

Grobiņa archaeological ensemble

ラトビア、文化遺産(iii)

ヴァイキング(北ヨーロッパを拠点とするノルマン人)拡散の先駆けとなった7~9世紀のスカンジナビア人の入植地群をまとめた物件。

ICOMOSは、ヴァイキング時代以前のノルマン人の入植に関して研究が十分に進んでいないとし、グロビニャの機能・役割・影響を見定める必要があり、それ以前に顕著な普遍的価値を確定することが難しいことを指摘した。それもあって遺跡群の選択の理由が不明確であり、広範で継続的な入植プロセスにおける意味も明瞭でないと評価した。

 

<2023年 第45回世界遺産委員会>

※ロシアによるウクライナ侵攻を受けて2022年の世界遺産委員会は延期され、2023年に2年分が審議された

 

■アンマーガウ、シュタッフェル湖地域及びヴェアデンフェルザー・ラントのアルプスとプレ・アルプスの草地群・牧草地群・湿地群 →不登録勧告→推薦取り下げ

Alpine and pre-alpine meadows, pastures and wetlands in the Ammergau, the Lake Staffelsee Area and the Werdenfelser Land

ドイツ、文化遺産(v)

氷河時代に東アルプス山脈北部に形成された草原や湿地をベースに、移牧を中心とした伝統的な生活様式を伝える文化的景観を特徴としている。

ICOMOSは、一帯には木造納屋を除いて伝統的な建造物が存在せず、牧草地耕作や草刈り、家畜の追い込み、畜産といった草地農業システムが景観に与えた際立った特徴が認められないとし、草地・牧草地・湿地の多様性だけでは顕著な普遍的価値を証明するには不十分であると評価した。また、景観の歴史に関する情報が不足しており、牧場や牧草地の時間的変遷が不明で、その影響や価値も判断ができないとした。さらに、54もの構成資産に細部化されているが、社会的・経済的・機能的側面を備えた草地農業システムとしてすべての要素を備えているとは言えず、規模も不十分で完全性も満たしていない。また、いまでは伝統的な農牧業で生計を立てている人もほとんどおらず、土地の理解が不十分であるため真正性の証明もなされていないとした。

 

■マースレーの文化的景観 →不登録勧告→登録延期決議

The Cultural Landscape of Masouleh

イラン、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)

山に囲まれた丘陵地に切り拓かれたマースレーはさまざまな民族が行き来した農業集落で、数千年の歴史を誇る放牧・遊牧、紀元前から行われていた鉄を中心とした鉱業や精錬業、11~12世紀のセルジューク朝期にはじまる商業などで繁栄した。

ICOMOSは、同様の街並みが他にも見られる中で有形・無形の特徴が世界的な都市的・建築的・考古学的価値を持つことを証明できていないと断じた。また、過去と現在の遊牧の状況が不明であるなど曖昧な点が非常に多く、構成資産の範囲や保護体制が適切であるか否かも判断することができず、完全性と真正性について不十分であるとした。

これに対して世界遺産委員会は、ICOMOSの協力を得て資産の再構成や範囲の最適化を進めることなどを条件に登録延期を決議した。

 

<2024年 第46回世界遺産委員会>

 

■バチュの文化的景観 →不登録勧告→?

Bač Cultural Landscape

セルビア、文化遺産(ii)(iii)(v)

ICOMOSは文化的景観の「有機的に進化する景観」について、時間経過に伴う景観の変遷の物理的証拠と、伝統的な生活様式と密接に関連した現代社会における積極的な社会的役割を維持している証拠を提示する必要があると指摘。しかし、現状では文化的景観として適切に論証されておらず、土地利用や居住実態の点で周辺地域と変わらない一般的なものと考えられると断じた。また、資産の異なる要素と特徴によって3つの登録基準を掲げている点についても、文化的景観としての一貫性がなく、差別化の点でも不十分であるとした。たとえば、要塞都市の遺構、修道院群、オスマン帝国時代のハマム(浴場)跡など、それらが現在も存続している文化的伝統にどのような影響を与え、また類似の物件と比較して際立っているのか、その証明が必要であると評した。

 

■マデイラのレヴァダ群 →不登録勧告→?

Levadas da Madeira

ポルトガル、文化遺産(iv)(v)

「レヴァダ」はポルトガルが15~16世紀頃から入植地であるマデイラ諸島に築いた灌漑水路網で、サトウキビを中心に農業用に整備され、一部は現在も継続して使用されている。

ICOMOSは、比較的乾燥している土地においてこのような灌漑水路網を整備することは一般的であり、他の地域との際立った違いが示されていないと指摘。多機能性を謳っているもののそれが顕著であることの証明はなされておらず、一部の二次排水路や水車・製材所・貯水池・発電所など、多機能性を示す可能性のある一部のレヴァダが構成資産から外されているなど完全性にも疑問を投げかけている。さらに、現在まで続くレヴァダの全期間をアピールしているものの、20世紀に建設されたレヴァダが主で、18~19世紀のレヴァダすら少量に留まっており、完全性と真正性の点で不十分であると評した。また、構成資産はレヴァダ・システムの多彩性や景観の連続性を反映しておらず、レヴァダを代表するものとも考えられないと断じた。

 

■メルカ・クントゥレとバルチトの考古学的・古生物学的遺跡 →文化遺産:登録勧告、自然遺産:不登録勧告→?

Melka Kunture and Balchit Archeological and Paleontological Site

エチオピア、複合遺産(iii)(iv)(v)(viii)

本件は文化遺産と自然遺産、いずれの条件も満たす複合遺産として推薦されたが、ICOMOSが文化遺産として登録を勧告したのに対し、IUCNは自然遺産として不登録を勧告した。

IUCNは、エチオピアのグレート・リフト・バレー(大地溝帯)の活動の初期段階の発達を象徴しているという主張に対し、国家レベルの重要性は認められるものの、世界的に際立った特徴はないと指摘。一方で、この地で多数発掘されるヒト属以外のヒト族の化石の存在はヒトの進化やその環境の理解に深い洞察を与えるものであり、登録基準(viii)の「地球史的に重要な地質や地形」について顕著な普遍的価値の可能性を認めた。ただ、バッファー・ゾーンの範囲があまりに広大で、一帯で牧畜などの人的活動が行われているなど不十分さを懸念し、資産とともに焦点を絞ったアプローチが必要であると結論付けた。

 

以上です。

 

不登録に対する世界遺産委員会や諮問機関の動きを追っているといろいろと見えてくるものがあります。

事例研究としておもしろいのではないかと思って書いてみた次第です。

何かの参考になれば幸いです。

 


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05.石造建築の基礎知識

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3.試験戦略の一般論

4.試験戦略の理念

5.世界遺産検定の受検戦略

6.試験勉強の3要素

7.世界遺産検定 最効率学習法

8.時事問題・世界史・検定講座

9.マイスター試験の概要

10.マイスター試験問1・2対策

11.マイスター試験問3対策

12.マイスター試験時間術&解答術

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