世界遺産NEWS 24/03/19:トルコのチャタルホユックで8,600年前の最古の発酵パンを発掘
トルコの世界遺産「チャタルホユック(チャタルヒュユク)の新石器時代遺跡」で石窯と見られる遺構が発見され、周囲から大麦、小麦、エンドウマメなどが発掘されました。
一緒に出土したスポンジ状の遺物を鑑定した結果、紀元前6,600年頃のパンであることが明らかになりました。
明確な形を残す世界最古の発酵パンと見られています。
■‘World’s oldest bread,’ dating back 8,600 years, discovered in Turkey(CNN)
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
世界最古の文明として知られるメソポタミア文明ですが、「メソポタミア」は「川と川に挟まれた地」を意味します。
ふたつの川はティグリス川とユーフラテス川で、両河川は現在トルコ領に当たるアナトリア高原東部の山岳地帯を源流とし、アナトリアでいったん合流して分かれた後、ペルシア湾に注ぐ河口付近でふたたび合流しています。
合流した後はシャット・アル=アラブ川と呼ばれますが、全体をまとめてティグリス=ユーフラテス川とも呼ばれています。
この川の間を中心にメソポタミア文明が発達したわけですが、最近はアナトリア東部の地で都市文明以前の新石器時代に関する人類最古級の発見が相次いでいます。
トルコの世界遺産を例に出すと、「ギョベクリ・テペ」の神殿跡、「アルスランテペの墳丘」の宮殿跡や剣・ろくろ、「チャタルホユックの新石器時代遺跡」の都市遺跡や織物などで、いずれも最古かそれに近いものと見られています。
そのチャタルホユックですが、東西ふたつのマウンド(墳丘)があって、東マウンドは新石器時代の紀元前7400~前6200年の遺構が18の層をなすテル(遺丘。集落や都市の遺跡が積み重なった丘のような層状遺跡)となっており、西マウンドは銅器時代(金石併用時代)の紀元前6200~前5200年の遺跡です。
より古い東マウンドのテルについて、当初は狩猟採取生活の集落だったようですが、やがて大麦や小麦の栽培を開始し、人口3,000~8,000人ほどの都市にまで発展しました。
ユニークなのが住居跡で、立方体の住居が斜面にビッシリと連なっており、通りもないほど密集しています。
側面に窓や入口がほとんど見られず、天井に穴が開いていることから、当時は屋根を連ねて通路や広場としていたと考えられています。
こうした構造の理由は明らかではありませんが、一説では猛獣や外敵に対する備えで、はしごを回収することでそれらから逃れていたといわれます。
さて、今回の発見です。
ネジメッティン・エルバカン大学の科学技術研究応用センターは3月6日のプレスリリースで、チャタルホユック東マウンドのメカン66と呼ばれるエリアで石窯と見られる遺構を発見したことを発表しました。
その周囲では大麦、小麦、エンドウマメなどが出土しましたが、スポンジ状の遺物を電子顕微鏡などで調査したところ、紀元前6,600年頃のパンであることが明らかになりました。
パンは小麦粉をこねて作られたようで、円形で発酵しており、中央に指で窪みが付けられていました。
その状態から、石窯で焼く前に発酵させるため保管されていたものであるようです。
アナドル大学のアリ・ウムト・テュルクジャン准教授は、このような例は他になく、世界最古のパンであるとしています。
ただ、パンのかけらについてはさらに古いものが発見されていることから、明確な形を残す世界最古の発酵パンということになりそうです。
おもしろいですね!
パンを発酵させる作り方が8,600年前にすでに確立されていたんですね。
また、大麦の麦芽を含んだパンに水を加えると糖化・発酵が進んでビールができます。
メソポタミアでビールが発明されたことは知られていますが、もしかしたらこの時代にすでにビールが飲まれていたのかもしれません。
ちなみに、ヨルダン北東部のシュベイカ遺跡では、石窯に残された残存物から14,500年前のものと見られるパンのかけらが発掘されています。
こちらは野生の大麦などを原料とする無発酵のフラットブレッド(麦を挽いた粉に水や塩を加えて生地を作り、平たく伸ばして焼いたシンプルなパン)で、農耕が開始される数千年前にすでにパン作りがはじまっていたことを示唆しています。
ただ、メソポタミアやアナトリアでは数万年前のものと見られる砥石のような石が発掘されています。
これで小麦や大麦といった穀物を挽いていたと考える学者もおり、その場合、パン作りの年代はさらにさかのぼることになります。
農耕・牧畜・文化・文明の年代は発見を重ねるごとに古くなっていきます。
メソポタミアやアナトリアでは今後も発見が続いて歴史を塗り替えていくものと思われます。
楽しみですね。
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