世界遺産NEWS 24/02/17:パタゴニアのロス・アレルセス国立公園で過去最大の山火事
アルゼンチン南部のパタゴニア地方に位置する世界遺産「ロス・アレルセス国立公園」とその周辺が大火に見舞われています。
1月25日から続く山火事はこれまでに約8,000ha(80平方km)を焼き、いまなお延焼中です。
この季節、最高気温が17度ほどの同地で32度を記録し、干ばつや台風並みの強風にさらされるなど、気候変動による異常気象が大規模な延焼をもたらしていると見られています。
また、火事の原因として放火が疑われており、懸賞金が懸けられる事態となっています。
■Las altas temperaturas complican el combate del fuego en el Parque Nacional Los Alerces(Télam)
今回はこのニュースをお伝えします。
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アルゼンチンの世界遺産「ロス・アレルセス国立公園」はパタゴニア北部のアンデス山中に位置しています。
この国立公園を特徴づけているのが「世界でもっとも長寿の樹種」といわれるパタゴニアヒバの森です。
アルゼンチンとチリ南部にまたがるパタゴニア地方の固有種で、公園名はスペイン語でこの木を「アレルセ "alerce"」と呼ぶことに由来しています。
樹高は30mほどで、樹齢3,000年超のものも点在しており、チリで発見された個体は5,000年を超えると見られています。
軽く耐久性がよいことから木材として最適で、スペイン入植後は多くの木が伐採されました。
開拓するために放火されることも多く、近年はその数を急速に減らしています。
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)にも危機種として掲載されており、絶滅が危虞されています。
今年1月25日の夜、同園の東端付近の原生林の2か所で火事が発見されました。
朝までに65ha、28日までに1,000haと急速に拡大し、チュブ州は飛行機やヘリコプター、ドローン、250人以上の消防隊員を動員して消火活動を開始しました。
さらに、国の支援を受けて軍やSNMF(国立消防管理局)なども投入され、木々を伐採して防火帯を作るなどの作業を行いましたが、延焼を食い止めることはできませんでした。
同州では2015年に30,000ha以上が燃えるアルゼンチン史上最大の山火事が起きていますが、このときにロス・アレルセス国立公園でも2,000ha以上が焼失しました。
今回は30日までに2,000haを超え、同園史上最大の山火事となりました。
急速に延焼しているのはこのところの気象条件が関係していると見られています。
同園の例年2月の平均気温は11度、最高気温は17度ほどですが、このところ30度を超える日も珍しくありませんでした。
また、もともといまは乾季ですが、この2か月の間ほとんど雨がなく、湿度も砂漠並みの20%まで落ちており、森の水分含有量が極端に減っています。
さらに、一帯の風が非常に強く、一部の地域では時速60kmを超える台風並みの強風にあおられています。
この風と煙がしばしば航空機の活動を妨げています。
2月上旬には火事は州外に広がり、さらに北のナウェル・ワピ国立公園やラニン国立公園などでも山火事が発生しました。
いずれも陸路では到達が難しい場所であるため苦戦を強いられており、人員や航空機を割く必要に迫られています。
ロス・アレルセス国立公園の2月14日までの焼失面積はCONAE(アルゼンチン宇宙活動委員会)によると7,841ha、統合司令部によると8,315haで、現在は400超の人員を投入して消火活動に当たっています。
火事の原因について、最初に原生林で2か所の火事が確認されていますが、州消防管理局はこれを人為的なものとしています。
2月上旬にはパトリシア・ブルリッチ治安相が犯人の特定につながる情報提供者に500万ペソ(約90万円)の懸賞金を与えることをSNSで発表し、内部告発のフリーダイヤルを開設しました。
その後、懸賞金は議会の決議を得て正式に承認されています。
実は、有力な容疑者としてすでにある人物の名前が挙がっています。
もともと国立公園局の職員で、パタゴニアの先住民族であるマプチェ人の独立運動のリーダーを自称しています。
これまでも国立公園からレンジャーを追い払って火を放つなど、過激な活動で知られていました。
しかし、多くのマプチェ人は彼の活動を以前から非難しており、マプチェ人でもその代表でもないとしています。
マプチェ人はもともと森とともに生きてきた民族で、森を育む大地(マプ)を畏敬しており、それを燃やすことは考えられないと反発しています(マプチェは「大地の子」「大地の民」を意味します)。
RAM(マプチェ先祖の抵抗)などの武装組織についても構成員の多くはマプチェ人ではないとされ、利権で私腹を肥やそうとしているともいわれています。
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実はアルゼンチンだけでなく隣国チリのアンデス山中でも山火事が頻発しています。
原因はやはり熱波と干ばつで、ここ10年で16件の大規模火災はこれまでに見られない頻度といわれています。
一例が2月上旬に起こったバルパライソ州の大火災で、森林だけでなく住宅地も大きな被害を受けており、世界遺産「バルパライソの海港都市の歴史的街並み」のあるバルパライソやビニャ・デル・マールなどで130人以上の犠牲者、370人以上の行方不明者を出すチリ史上最悪の火災となっています。
熱波と干ばつは太平洋の赤道付近の海水温が上昇するエルニーニョ現象が影響を与えていると見られており、エルニーニョ現象の頻発化・大規模化は気候変動の影響です。
また、大西洋では亜熱帯域から中緯度帯にかけての海水温が上昇する亜熱帯ダイポール現象が起きており、アマゾンやパンタナールで火事が増えている主因となっています。
両現象の結果、南アメリカ大陸の全域が熱波と干ばつに見舞われており、アマゾンの緑の減少がこれを急加速する可能性が指摘されています。
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