世界遺産NEWS 24/01/25:パリのノートル=ダム大聖堂の屋根の木組が完成
2019年4月、フランスの世界遺産「パリのセーヌ河岸」の構成資産のひとつであるパリのノートル=ダム大聖堂の屋根やフレッシュ(屋根に設置されたゴシック様式の大尖塔)が焼け落ちました。
直後から調査・再建が進められていましたが、2024年1月12日、大聖堂の屋根の小屋組が完成しました。
小屋組は木造屋根の構造部分で、火災では主にこの部分が焼けました。
火災前と同様の形状・工法・素材による再建・完成ということで、記念にささやかな式典が催されました。
■Notre Dame Cathedral roof reconstruction now complete in Paris: ‘A moment of resurrection of this oak framework’(The Dialog)
今回はこのニュースをお伝えします。
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火災前のパリのノートル=ダム大聖堂。世界遺産「パリのセーヌ河岸」構成資産
現地時間の2019年4月15日18時50分頃(日本時間4月16日午前1時50分頃)、パリのノートル=ダム大聖堂で大規模な火災が発生しました。
大聖堂は「†」形のラテン十字式ですが、燃えたのは主に十字部分の屋根と中央のフレッシュと呼ばれる大尖塔です。
大聖堂は基本的に石造ですが、石造天井の上に雨よけとして木で造った三角形の屋根枠を置いています。
この木造の屋根枠が「小屋組」です。
一般的な木造建築では、下部に柱と梁(はり。柱の上に水平に置く横架材)・土台で部屋となる四角形のフレームを造り、その上に三角形のフレームを載せて屋根とします(木造軸組構法)。
下の四角部分が軸組、上の三角部分が小屋組です。
屋根を石造にする場合、アーチを回転させたドームや、アーチを並べたヴォールトなど、アーチを駆使する必要があります。
しかし、アーチは技術的に難しいうえにコストも掛かるということで、ヨーロッパでは石造建築でも木造屋根が多用されました。
また、アーチで天井を築いてもそれを剥き出しにせず、雨対策として木造屋根を架けることも少なくありませんでした。
パリのノートル=ダム大聖堂の屋根には「森」と称される約500tもの木材が使用されており、さらに高さ96mのフレッシュも木製でした。
こうした屋根の火災は少なくなく、過去には世界遺産の「シャルトル大聖堂」や「ランスのノートル=ダム大聖堂、サン=レミ旧大修道院及びトー宮殿」の大聖堂でも屋根が燃えています。
実は、シャルトルやランスの大聖堂は屋根に鉄やコンクリートを用いて再建されています。
パリでもノートル=ダム大聖堂の再建について議論になり、屋根にチタンやカーボンといった耐久性や耐火性の高い新素材を使用したり、フレッシュは1859年に再建されたものであることからコンペティションを行って現代的なデザインに変更することも検討されました。
しかし、この大聖堂はパリの歴史の象徴であり、「フランスの運命の一部」であるということで、屋根もフレッシュも焼失前と同じ形状・工法・素材で再建されることになりました。
屋根は12~13世紀に建設されたものだったため、伝統工法の研究も進められました。
幸い焼失前に行われたレーザー・スキャンによる詳細なデータがあったため、再建はレーザーを駆使して寸分違わぬ形で進められました。
再建後のレーザー・スキャン画像は46,000枚に達したといいます。
同時に、歴史的建造物の修復を専門とする建設会社による木造建築技術の調査・確認や、オーク材に影響を与えないウオーター・ミスト消火システムの導入、崩れた石については一つひとつの位置確認や必要があれば再建なども行われました。
形は以前と同じでも、随所に最新技術が投入されています。
小屋組が完成した大聖堂の式典の様子。後半には小屋組の3Dモデルも見られます
1月12日、最後の垂木(屋根頂部の棟木から軒桁にかけて斜めに取り付けられる部材)が設置されて屋根の小屋組が完成しました。
そして司祭や現場の職人らがささやかな式典を催し、アプス(半円形に張り出した後陣部分)の頂部にミモザの花束を捧げました。
大聖堂のデュマ司祭は聖母マリアの夫で大工でもあったナザレのヨセフの仕事になぞらえて作品とその美しさを讃え、エマニュエル・マクロン大統領もXに「フランスの誇り」とポストしています。
今後ですが、小屋組を鉛板で覆い、中央にゴシック・リバイバル様式のフレッシュを建てる計画です。
竣工は2024年12月8日の予定で、今年中の一般公開を目指しています。
木造の小屋組が見えるのもほんの一瞬ということになりそうですね。
それにすでにフレッシュもかなり積み上がっているようです。
文化遺産はつねにどこかを修復しているものなので、世界遺産を見に行ったのに一部が工事中だったなんてことはよくあります。
でも、こんな貴重な姿であればぜひ見てみたいものです。
[関連サイト&記事]
パリのセーヌ河岸(世界遺産データベース)
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