世界遺産NEWS 23/12/23:観測史上最低水位を記録したアマゾン川流域で続く熱波と干ばつ

南アメリカのアマゾン川流域では今年2023年8月頃から降水量が極端に減っており、熱波も加わってひどい干ばつに見舞われています。

10~11月にかけて水位は過去120年で最低を記録し、多くの自治体が非常事態を宣言しました。

そして干ばつは例年雨季に入る12月になっても続いています。

 

Record temperatures and heatwaves bring unprecedented drought to the Amazon basin(European Commission)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

アマゾン川は世界最大の大河で、流域面積は南アメリカ大陸の約40%を占め、日本の国土面積の19倍近くに達します。

流域はブラジルを中心にフランス領ギアナ、スリナム、ガイアナ、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアに広がっており、以下のような世界遺産の全域あるいは一部を含んでいます。

 

○アマゾン川流域に位置する世界遺産

  • 中央アマゾン保全地域群(ブラジル)
  • 中央スリナム自然保護区(スリナム)
  • カパック・ニャン アンデスの道(アルゼンチン/エクアドル/コロンビア/チリ/ペルー/ボリビア共通)
  • チリビケテ国立公園-ジャガーの生息地(コロンビア)
  • ティエラデントロの国立遺跡公園(コロンビア)
  • サン・アグスティン考古公園(コロンビア)
  • サンタ・アナ・デ・ロス・リオス・クエンカの歴史地区(エクアドル)
  • マチュピチュの歴史保護区(ペルー)
  • クスコ市街(ペルー)
  • リオ・アビセオ国立公園(ペルー)
  • マヌー国立公園(ペルー)
  • ノエル・ケンプ・メルカード国立公園(ボリビア)

 

ペルーのマチュピチュやクスコはアマゾンの熱帯雨林ではなくアンデス山中にありますが、前者はアマゾン川の源流のひとつであるウルバンバ川が流れるウルバンバ渓谷、後者はその支流であるサフィ川の畔のクスコ渓谷に位置します。

まだまだ多くの源流が未確認とされており、ナイル川を超えて世界最長の河川である可能性も指摘されています。

 

アマゾン周辺の気候は乾季(6~11月。年や地域で前後)と雨季(12~5月。同上)に分かれているのですが、今年の乾季の渇水は特にひどく、降水量が非常に少なくなっています。

8月からは気温が例年より2~5度も高い熱波が一帯を襲い、火事も頻発しました。

アマゾン最大の都市であるアマゾナス州の州都マナウス周辺では森林火災件数が昨年と比較して2.5倍に増え、その下流のパラー州では10月に前年同月の1.5倍、11月には1.8倍を記録しています。

 

10月下旬にはマナウス周辺を流れる支流ネグロ川で1903年以降、観測史上最低水位となる12.7mを記録しました。

近郊のテフェ湖では6kmあった幅が半分以下に減り、水温が39度まで上昇。

この結果、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)で危機種に指定されているアマゾンカワイルカが9~11月に229頭犠牲になるなど多くの水生哺乳類や魚類が大量死しています。

 

一帯の町々は河川舟運に頼っていますが、多くの地域で船舶の航行が難しくなり、漁業や物資の輸送が停止・減少しています。

水や食料の確保もままならない村も多く見られ、そうした村では井戸を掘るなどしてしのいでいるようです。

この事態を受けてアマゾナス州の59自治体をはじめ多くの自治体が非常事態を宣言して救援物資を運搬するなど対応に追われており、影響は約60万人に及んでいるということです。

ブラジルの世界遺産「中央アマゾン保全地域群」、ジャウー国立公園の熱帯雨林
ブラジルの世界遺産「中央アマゾン保全地域群」、ジャウー国立公園の熱帯雨林 (C) Artur Warchavchik

干ばつの原因はペルー沖、太平洋の赤道付近の海水温が上昇するエルニーニョ現象と、大西洋の亜熱帯域から中緯度帯にかけての海水温が上昇する亜熱帯ダイポール現象と見られています。

ただ、このところ毎年のように発生しており、規模も拡大を続けていることから、地球規模の気候変動が影響を与えているものと考えられています。

また、前年の降水量が熱帯雨林全体の保水量に関係することから来年以降の降水量や乾燥・火災の悪化も予想され、長期化が懸念されています。

 

一説ではすでにアマゾンの熱帯雨林の10~20%が失われているとされ、昨年7月~今年7月の1年間で鹿児島県の面積に相当する9,000平方kmが消失したとの試算もあります。

森林喪失20~50%のどこかで臨界点を迎え、これを超えると不可逆的なサバナ(雨季にのみ雨が降って草原が広がる半砂漠地帯)化が進むともいわれます。

この地域における植物の酸素排出量や二酸化炭素吸着量は世界の20%超に達し、それゆえ「地球の肺」と呼ばれていますが、その肺を失うことになるわけです。

 

ただ、よいニュースもあります。

 

ブラジルでは2019~22年のあいだジャイル・ボルソナロ前大統領がアマゾンの農業・鉱山・資源開発を積極的に進め、任期中に過去10年と比較して75%も伐採面積を拡大させました。

しかし、交代したルーラ・ダ・シルヴァ大統領は保護に転じ、2023年の最初の7か月については伐採された森林の面積が前年比42.5%減と、2017年以来最小規模に抑えられました。

2030年の森林伐採0を目標に掲げ、森林の再生事業も並行して進めており、COP(国際連合気候変動枠組条約締約国会議)の誘致なども行っています。

 

また、水位低下から川底が露出し、岩に刻まれた数千年前のものと推定される数十のペトログリフ(線刻・石彫)が発見されています。

知られざるアマゾンの古代文明を伝えるものとしてその解明が期待されています。

 

* * *

例年なら雨季に入る12月になって徐々に降水量は増えており、水位も上がってきているようです。

ただ、そのペースは遅く、1月以降も干ばつが続く可能性が懸念されています。

 

気候変動について、世界は気温上昇を産業革命前から2度未満、できれば1.5度以内に抑えるという2015年のパリ協定の目標達成を目指しています。

今年11月30日~12月13日に開催されたCOP28では5年おきに温室効果ガス削減目標の達成度を評価するグローバル・ストックテイクがはじめて実施されました。

 

それによると現状では目標達成は難しく、今世紀中に3度も上昇する可能性が指摘されました。

さらに、1.5度以内に抑えるためには2030年には温室効果ガスを43%、2035年に60%削減し、2050年前後には実質0にする必要が報告されました。

しかし、いまのところ排出量は減るどころか増加傾向にあります。

 

対策として、再生可能エネルギーの増加やエネルギー効率の倍増、化石燃料の削減が合意されましたが、いずれも当初の予定より後退した内容となっています。

状況はますます厳しいものになっているようです。

 

 

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