世界遺産NEWS 23/11/29:広島原爆資料と増上寺仏典群を「世界の記憶」に推薦へ

11月28日、文部科学省や外務省を中心とする関係省庁連絡会議はUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の「世界の記憶」に「増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書」と「広島原爆の視覚的資料-1945年の写真と映像」の2件を国内候補とすることを決定しました。

2件については11月末までに推薦を行い、2025年に登録の可否が決定する予定です。

 

ユネスコ「世界の記憶」事業における 国際登録(2024-2025登録サイクル)への登録申請案件の決定について(文部科学省)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

被爆直後の産業奨励館=原爆ドーム
被爆直後の産業奨励館=原爆ドーム。原爆が直上で爆発したため、横の爆風を受けず、その姿を保つことができたといわれています

「世界の記憶 "Memory of the World"」は文書や石碑・地図・製図・絵画・音楽・口承・放送・映画・テープ・写真といったものに刻まれた「記録」の保存・保全・公開・普及を目指すUNESCOの遺産事業のひとつです。

1992年に活動が開始され、翌年から隔年でIAC(国際諮問委員会)が開催されており、1997年から物件の選定がはじまりました。

 

日本の物件としては以下8点が登録されています。

 

■世界の記憶に登録されている日本の遺産リスト

  • 山本作兵衛コレクション(2011年)
  • 慶長遣欧使節関係資料(日本/スペイン共通、2013年)
  • 御堂関白記(2013年)
  • 東寺百合文書(2015年)
  • 舞鶴への生還 -1945~1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録-(2015年)
  • 朝鮮通信使に関する記録:17~19世紀の日韓間の平和構築と文化交流の歴史(日本/韓国共通、2017年)
  • 上野三碑(2017年)
  • 智証大師円珍関係文書典籍-日本・中国の文化交流史-(2023年)

  

制度改革のため2018~22年まで新規登録は中断されていましたが、今年2023年に再開されています。

日本も活動を再開し、文部科学省は申請の受付を行っていました。

 

そして11月28日に文部科学省や外務省などからなる「世界の記憶」関係省庁連絡会議が開催され、申請のあった5件から2件を推薦することを決定しました。

2件の概要について、文部科学省の報道資料から抜粋しましょう。

 

■増上寺が所蔵する三種の仏教聖典叢書

○申請者

宗教法人浄土宗、宗教法人増上寺

○記録物の概要

浄土宗の大本山である増上寺が所蔵する三種の大蔵経とは、中国の宋代および元代そして朝鮮王朝時代に当時最高の印刷技術で制作された、

①中国、南宋時代(12世紀)に開版(版木が作成)された思渓版大蔵経5,342帖

②中国、元時代(13世紀)に開版された普寧寺版大蔵経5,228帖

③朝鮮、高麗時代(13世紀)に開版された高麗版大蔵経1,357冊

という、総数約12,000点に及ぶ木版大蔵経群である。「大蔵経」とは一蔵が5,000巻を超える仏教聖典の叢書であり、仏教文化の根拠と基盤をなす一大文献群である。これらは、17世紀初頭に江戸幕府を創設した徳川家康が収集し、増上寺に寄進したものである。その後、関東大震災や東京大空襲などの危機を乗り越え、今日まで増上寺において伝承されている。

多くの大蔵経が王朝の変遷や戦乱により散逸するなか、15世紀以前に作られた三つの大蔵経がほぼ完全な状態で所在されていることは世界で他に類を見ない。

近代になると、明治と大正時代にはそれぞれ校訂を施した大蔵経を刊行するため、増上寺で三大蔵が校合され活版印刷となり、大蔵経が広く流通したことで、仏教は近代的学問の対象となった。そして現代では最先端の技術を用いてデジタルアーカイブとなり、持続可能な地球平和と調和のための、世界の精神文化史の一環として注目されている。

○記録物の意義・重要性

増上寺が所蔵する三種の大蔵経は、近代の批判校訂版である『大日本校訂大蔵経』や『大正新脩大蔵経』の基幹的な典拠資料となったことで、仏教学の世界的な基盤形成に唯一無二の貢献を果たた。また三大蔵は仏教文献叢書ですが、収録される文献の内容の多様性および文化財としての重要性や稀少性から、歴史学や言語学など仏教学以外の多分野においても重要な役割を果たしている。今般、デジタル研究環境への移行にともない、三大蔵は仏教研究における世界的研究基盤である「SAT大蔵経データベース」のテキストデータベースの典拠資料として活用された。またUnicodeにおける文字符号化の根拠にもなり、現在まで三大蔵をもとに3,000字超の仏典外字が登録されるなど、デジタル時代の世界の宗教・思想研究にも影響を与えている。

さらに2023年11月、この三大蔵を高精細デジタル画像としてウェブ上に無償公開した。誰でも世界中からアクセスできるようになった三大蔵が有する重要性は、これからの長きにわたるデジタル時代において、さらに高まっていくことが想定される。

 

■広島原爆の視覚的資料-1945年の写真と映像

○申請者

広島市、中国新聞社、朝日新聞社、毎日新聞社、中国放送、日本放送協会

○記録物の概要

米軍によって広島市に原爆が投下された1945年8月6日から同年12月末までの間に市内や近郊で撮られた写真1,532点と動画2点の資料群。写真は、被爆した市民や報道カメラマンたち27人と1団体、動画は1団体が撮影した。人類史上初めて戦争に使われた原爆の強烈な熱線と爆風、さらに大量の放射線の放出によって引き起こされた多岐にわたる影響がつぶさに記録されている。写真1,532点のうち218点は、1978年に広島で結成された「広島原爆被災撮影者の会」に参加した市民たちが中心となり撮影。爆心地から最も至近距離(約2.7km)で撮られたきのこ雲(深田敏夫氏撮影)、被爆翌日の市中心部の焼け跡(岸田貢宜氏撮影)をはじめ原爆投下直後に地元の人たちがいち早くシャッターを切った写真が含まれる。268点は、地元報道機関、あるいはこの期間に広島に入った新聞・通信社のカメラマンや記者が撮影し、ネガやプリントが現存する全4社の資料。被爆当日の市民の惨状(中国新聞社の松重美人氏撮影)や、やけどの手当を受ける少年(朝日新聞社の宮武甫氏撮影)、顔を負傷した少女(毎日新聞社の国平幸男氏撮影)をはじめ多様な被災者を収めている。残る1,046点は、写真家の林重男氏と菊池俊吉氏が学術研究会議(日本学術会議の前身)に設けられた「原子爆弾災害調査研究特別委員会」の調査に同行して10月に撮影した。爆心地付近の焼け跡のほか、けがや熱傷、放射線による急性障害に見舞われた市民が写る。動画2点は、戦時中にニュース映画製作に携わっていた社団法人日本映画社が撮影した。1945年9月22日公開の「日本ニュース第257号 原子爆弾 広島市の惨害」(2分50秒)は、現存が確認されている中で最も早くに撮られた広島原爆に関する日本のニュース映像である。もう1点は、林氏らと同じ調査に同行して9月下旬から10月にかけて撮影した110分の記録動画。放射線の影響で髪が抜け落ちた子どもや救護所の様子を収めている。写真1,267点は撮影原板のネガフィルムまたはガラス乾板が現存し、265点はプリントが一次情報として残る。動画は、編集作業や映写のためにネガフィルムを元に作られたポジフィルムが現存する。広島平和記念資料館や報道機関、国立映画アーカイブなどが所蔵し、全資料がデジタル化されている。

○記録物の意義・重要性

広島に投下された原爆による犠牲者数は、1945年12月末までの間に14万人(誤差±1万人)に上ったと推計されている。1945年12月末は、白血球の減少や出血などの症状を伴って死亡例が相次いだ原爆放射線による急性障害が概ね収束するまでの期間である。本資料は、影響が特に顕著だったこの期間に、多様な撮影者がさまざまな角度から被爆者や街の状況をその場で、その瞬間に撮影しており、原爆による被害の実態を知る上で貴重な記録物である。日本が降伏文書に調印した1945年9月2日以降、米軍の戦略爆撃調査団などが広島市内に入って写真を撮影しているが、本資料はそれ以前に撮られた世界的に希少な写真が数多い。米軍の撮影内容は物理的な破壊状況が主だが、本資料は様々な被災者を収めている点でも重要である。

被爆者の高齢化が進む中、広島への原爆投下で何が起きたのかを記録物を通じて知る重要性は増している。本資料は、国内外から数多くの市民や首脳たちが見学に訪れている広島平和記念資料館で数多く展示されている。国連の場などで重要性が指摘されている軍縮教育の素材としても意義が大きい。世界の人々が原爆投下で何が起こったかを知り、決して繰り返さないという人類共通の課題に取り組むために失ってはならない遺産である。

 

今後ですが、2件については今年11月末までにUNESCOに推薦を行う予定です。

そして2025年のIACで審査され、同年のUNESCO執行委員会で承認されれば登録が決定します。

 

これについて岸田首相は「いずれも登録するにふさわしい貴重な記憶遺産だ。登録に向けて取り組んでいきたい」と述べています。

 

 

[関連サイト&記事]

Memory of the World(UNESCO)

UNESCO遺産事業リスト集3.世界の記憶リスト

世界遺産NEWS 23/05/28:2023年新登録の世界の記憶

 


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